耳かき
迷宮からの帰り道、魔物は見つけ次第、狩っていく。
このとき、弩の太矢に〈魔纏〉を使い、獲物に命中するまで維持する実験も行ったのだが、〈森羅万象〉を併用すれば、あっけないほど簡単に成功した。
ほんとこの魔法は反則だ。
この調子で魔力を体から遠くへ放出しても自在に制御できるなら、攻撃用の魔術を修得したほうが、いろいろと手っ取り早いのかもしれない。
まあ〈魔纏〉と攻撃魔術では消費魔力や威力の差があるから、単純に魔術が上位互換というわけでもないのだが。
無事地上へと帰還したあとは、冒険者組合で一角兎の角や毛皮を買い取ってもらう。
その際、ほかの冒険者には魔法鞄を秘密にしたいので、わざわざ採取用の麻袋に詰めてから持ち込んだ。
面倒だけど、余計な注目を集めたくはないから仕方ない。
個室取引所はもっと昇級すれば使えるので、それまでの我慢だな。
売却金額は金貨二枚だった。
肉と魔石は売らなかったから、角と毛皮だけの金額になる。
一角兎は全部で五匹狩ったので、一匹銀貨四枚相当か。
二日で金貨二枚。
日給に換算すれば金貨一枚。
いや二人で分けるなら、一人の日給は銀貨五枚になる。
微妙だな。
普通の冒険者はもっと効率的に狩をしているのだろうか?
そうじゃなきゃ装備を揃えるお金すら貯めることができないはずだ。
今回僕たちは怪我をしていないし、消耗品も太矢が三本――骨などに当たって鏃が欠けたり、矢が歪んで再利用できなくなった――程度なので稼ぎとしては十分黒字だけど、決して良くはない。
もし回復薬が必要な怪我をすれば、低級のものであっても金貨一枚するし、迷宮内では常にある程度は気を張っていないといけないので毎日狩りをするのは辛い。
剣を研いだり、矢を補充したりといった装備の点検なども必要だから、どのみち数日に一度は休みを取らなきゃいけないだろうし。
そうそう水や食料の代金もあるか。
香辛料が使われた干し肉は結構高かったんだよな。
料理に肉醤油や蜂蜜も使ったし、それを考えるとほとんど利益が吹っ飛んでしまう。
かといって安価な保存食で凌ぐのは嫌だ。
腹が減っては戦はできぬ、と昔からいわれているし、食事に関してケチるつもりはない。
となると、もっと効率的に狩りをするか、高額取引される獲物を探さなくちゃいけないようだ。
まあ、それは魔術と魔技の修得ができてからでも遅くはないか。
いざとなれば〈森羅万象〉を使って、情報を求める依頼をこなせばいいだろうしな。
換金が終わると、足早に組合を後にする。
今日はファナさんがいなかったし、長居する理由もない。
その代わりに宿へ帰るまえに雑貨屋へ寄って、金貨一枚をキーラに渡した。
「キーラも頑張ってくれたから、これでなにか欲しいものがあれば買ってくれ」
「よろしいのですか?」
「もちろん。これはキーラが稼いだお金でもあるし、なによりなにが必要なのか、僕にはよくわからないからね」
「ありがとうございます、ご主人様」
キーラが嬉しそうにはにかんだ。
今回の迷宮探索ではキーラがいろいろと活躍してくれたので、これくらいはいいだろう。
しかし本当の目的はほかにもあったりする。
それを買いに来たのだが――あった。
耳かきだ。
迷宮でキーラに憧れの膝枕をしてもらったのだが、あのときはゆっくりできなかった。
だから宿でもう一度やってもらおうと思ったんだけど……なにか口実がないと頼みづらい。
というわけで耳かきなのだ。
これがあれば自然にあの状況を再現できるだろう。
キーラを見ると、櫛を熱心に眺めていた。
そういえば髪の長いキーラにとって櫛は大事だよな。
全然気が回ってなかった。
「よさそうなものはあった?」
「はい!」
「ほかに必要なものは?」
「いまのところありません」
「それじゃあ支払いを済ませて帰ろうか」
櫛はともかく耳かきは銀貨一枚もしないようなものだったので、お店の人に悪いような気がして、樽もついでに買っておいた。
魔法鞄に入れておけば、嵩張らないし、探索中は水がなにかと入用になるから、無駄にはならないだろう。
買い物を終えて宿に帰ると、予定より早い帰還になにかあったのかとアイリさんたちに驚かれた。
ただすこし予定を変更して、しばらくは日帰りで探索することを告げると安堵するように喜ばれたのが謎だ。
そんなに僕は頼りなさそうに見えるのだろうか?
まあ、それはともかく。
部屋に入ると、さっそくキーラに耳かきを頼むことにした。
「キーラに頼みがあるんだけどいいかな」
「もちろんです。なにをすればよろしいのですか?」
「これで耳掃除をして欲しいんだ。聴力は索敵でも大切だから、よく聞こえるように綺麗にしておこうと思って」
「なるほど、大切なことなのですね。それなら私にお任せください」
寝台に腰掛けたキーラが太ももをポンポンと叩く。
隣に座り、そのまま頭を太ももに預ける。
よし。
自然な感じで膝枕に移行できた。
キーラは装備を脱いでいるため、柔らかな太ももの感触がしっかりと感じられる。
うん、やってよかった。
「では、はじめますね」
耳かきを手にしたキーラが、優しく耳掃除をしてくれる。
慣れない手つきで、ちょっと心配になったが、この世界には回復薬もあるし、まあ大丈夫だろう。
「痛くありませんか?」
「うん、大丈夫。むしろ気持ちいいよ」
上も下も気持ちいい。
毎日やって欲しいくらいだ。
やりすぎは良くないから、月に数度しかやらないだろうけど。
片方が終ると、その場でくるりと向きを変える。
「あっ」
キーラが小さく声をあげた。
こうすると顔が下腹部に接する形になるのだが、まだ風呂に入る前なので汗の匂いがする。
それが恥ずかしいのか、キーラがもじもじと身動きをした。
昨夜は見張りやらで、夜の行為をしていないせいか、正直ムラムラする。
どうしよう。
まだ明るい時間帯だけど、このままじゃ暴発しそうだ。
せめて夜までは我慢しようと思ったのだが、両耳の掃除が終わったときには限界だった。
「キーラ、ごめん」
「え? あ――」
キーラに口付けをして、寝台に押し倒した。
その後、夕食の時間までたっぷりと楽しみ、食後は宿の風呂に二人で入った。
キーラとは公衆浴場で一緒に入っているし、それ以上の関係でもあるので、いまさら恥ずかしがる必要もない。
強いて言うなら、宿の風呂は大きくないため、二人だとゆったりと入れないのだが、ここだとムラムラしても我慢する必要がないのがいいところだ。
まあ声を抑える必要はあるのだが。
そして夜は夜で楽しんだ。
我ながら呆れるくらい溜まっていたらしい。
キーラが魅力的すぎるせいでもある。
しばらくは日帰り探索にして正解のようだった。




