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魔法研究

 魔法を知る前に――

 魔力とはそもそもなんなのだろうか?

〈森羅万象〉で調べれば、思念によって操作できる超常識的な力、という情報が返ってくる。


 まるで教科書みたいな答えだな。


 それは誰がそう定義したんだ?

〈森羅万象〉という魔法自身?

 続けて検索すると、古代の学者や魔導士といった人々によって定義された知識とのこと。

〈森羅万象〉はその知識を収集しただけということのようだ。


 うーん。

 その知識はどこから、どのように収集したのか?

 さらに続けて調べてみる。

 今度は明確な知識が得られなかったが、得られたいくつかの情報を元に分析すると、魔力には残留思念とでも呼ぶべき、情報的記録の痕跡が存在しているようだ。

 思念で操作できるというのなら、両者が密接な関係にあるのはもちろん、痕跡が残ってしまうのもあたりまえといえば、あたりまえなのか?

 とにかく。

 この魔法〈森羅万象〉は、僕の魔力を媒体として、僕が望む、すなわち思念したものと合致したもの――この場合は残留思念に反応し、その情報を魔力に写し取ることで収集しているというわけだ。


 なるほど。

 だからこそ、異世界の言語を母国語・・・のように理解して、会話することもできるようになったのか。

 ただの知識ではない。

 誰かの情報的記憶。

 そのなかの一部。

 言語に関する知識といったほうが正しいだろうか。


 言ってしまえば、誰かの――おそらく数十人だか数百人の残留思念の情報を元にして言語を会得したのだ。


 まあ、だからといって他人の思考回路に影響を受けたりしているわけじゃないようだし、それ自体は問題じゃない。

 情報は情報。

 知識は知識、でしかないのだ。

 問題なのは、いままでに誰も考えなかったことは、調べてもわからないということだろう。

 なぜなら残留思念が存在しないのだから。


 いや、それも正確じゃないか。

 例えば――イリス教官から教わった薬草が生えている場所を〈森羅万象〉で探してみる。


 体内魔力が周囲へと放出され、草原の中から目的の薬草が生えているところの情報だけを集めて戻ってきた。


 ふむ。

 やっぱり見つかったか。

 これは残留思念とは関係ない。

 植物に思念があるかどうかも関係なく、単純に僕の思念あるいは知識と合致するものに反応しただけだ。

 魔物の索敵なども同じようなものだろう。


 地形調査の場合は、蝙蝠が超音波で周囲の障害物や獲物を感知するように、放出した魔力を利用しているようだ。


 つまり既知の情報に照らし合わせたり、魔力の性質を利用すれば、必ずしも誰かの残留思念――情報的記録がなくとも調べることは可能ということだな。


 だけど。

 それでも、いままで誰も発見したことがないものや、研究されなかったものは、僕にとっても未知なものとしかわからない。


 まさにこの〈森羅万象〉という魔法がその一例だ。

 名前がなかったので、僕がとりあえず〈森羅万象〉と呼称しているだけだし、この魔法のすべてを把握しきれているわけではない。

 これ以上は僕が分析したり研究しなければわからないのだ。


 もっとも、〈森羅万象〉が反則チート級の魔法なことには変わりないだろう。


 魔術で再現できないのかといえば、可能性としては零ではない。

 が、近いことはできても完全再現は限りなく不可能に近い難易度ではあると思う。

 まあ、これまでどおり口外しないように、気をつけなくちゃいけないというわけだ。



 それにしても過去数百年あるいは数千年の人類の英知は侮れない。

 魔力に関して、もっと知識を集めると、学者の定義だけでなく、魔術師たちが自分で考えたり、見聞きした情報も集まってくる。


 魔力はあらゆる物質に宿り、形状や性質を変化させることができる。

 魔力は物理法則に反した、運動や結果を齎すこともできる。


 などなど。

 だけど、いまはこのくらいにしておこうか。

 調子に乗っていると頭痛が酷くなりそうだ。



 というわけで勉強はいったん終わりにして、次は実践に移ろうか。


 さて魔力の定義は押さえたが、目に見えないのが問題だ。

 僕は〈森羅万象〉のおかげで認識できるものの、肉眼では普通見ることはできない。

 イリス教官も知覚することから、すでに困難だと言っていたけど、ほかの人はどういうふうに知覚しているのだろう。

 知っておくのも、大切だよな。


「キーラ、すこし実験に付き合ってくれるか?」

「実験ですか? 私に出来ることなら、なんでもお付き合いさせて頂きます」


 なんでも、だなんて言うなら、本当になんでも要求するかもしれないぞ?

 にこにこと笑みを浮かべるキーラは、まるで人を疑う様子がない。

 ちょっと心配になる。

 まあ、いまはいいや。


「その場で魔技を使ってみてくれるか」

「私は治癒が多少できるくらいですが……」


 あー怪我でもないと使えないのか。

 さすがに体に傷をつけてまで、実験につき合わせるつもりはないんだけど。

 うーむ。


「〈魔纏〉は全くできないの?」

「いえ、全くというわけではありませんが、まだ実用段階ではありません」

「それでもいいから、練習と思ってやってくれないかな」

「畏まりました」


 すこし離れたところで、キーラは立ったまま目を瞑った。

 その様子を〈森羅万象〉で情報収集する。


 しばらく変化はないように思えたが、次第に体から靄のように魔力が立ち昇るのを〈森羅万象〉が知覚した。

 肉眼では相変わらず、なんの変化も見られないが、〈森羅万象〉では確かに魔力に体が包まれているのがわかる。


 キーラが実用段階ではない、といった理由も観察しているうちに理解できた。

 本来の〈魔纏〉は体内から放出した魔力を体の周囲で維持する――文字通り、身に魔力を纏うものなのだが、キーラの魔力は放出された後、維持しきれずに大部分が霧散してしまっている。

 これじゃあ、すぐに魔力が底を尽いてしまうだろう。

 だけど、その前に。

 霧散していく魔力の残留思念から、キーラがどういうふうに魔力を知覚し、操作しているのか調べてみる。


 感覚としては――活力あるいは精気のような、なんとも形容しがたいものだな。

 掴みどころがない流体のようなエネルギー。


「キーラ、もういいよ」

「……はい。なにかお役に立てたでしょうか?」


 ほんのすこしの時間だったがキーラが疲労しているのが見て取れた。


「うん、キーラのおかげで研究は捗りそうだよ。ありがとう」

「ご主人様のお役に立てたのならなによりです」


 疲れているはずなのに、不平不満ひとつない。

 ほんと僕には勿体ないくらいだな。

 キーラの頭を優しく撫でた。

 細くて、柔らかい、金色の髪がさらさらとして気持ちいい。


「あのご主人様?」

「ちょっと早いけど、お昼にしようか」

「えっと、はい。お気遣いありがとうございます」


 キーラにはバレバレか。

 まあ、こうでも言わないと、いつまでも周囲の警戒と護衛のために気を張って、休まないだろうからな。



 昼食は小麦の白パンとチーズ、あとはメルカのところで買ってきた保存食だ。

 保存食は塩と香辛料をふんだんに効かせた高級燻製肉と、干した果物など。


 あそこの商会はいろんなものが売っていたのだが、組合の関係はどうなっているだろう。

 一応雑貨店ということになっているのだが、それぞれの商品を扱う組合から睨まれたりしないのかな。

 僕が考えることでもないか。



 魔法鞄から毛布を取り出し、草原に敷く。

 そのうえに食器や食材を広げて、準備は完了だ。

 キーラにはチーズを大きめに切り取ってあげる。


「ほい」

「ご主人様、ありがとうございます!」


 笑顔が輝いている。

 可愛いなあ、まったくもう。

 それにしても草原で二人並んで昼食なんて、ピクニックみたいだ。

 天気もいいし最高だな。


 さてパンと燻製肉もキーラとの間に広げたところで。


 さっそく小麦のパンにチーズをのせていただく。

 うん。

 やっぱり小麦のパンは食べなれた味と食感で安心感があるな。

 そこにチーズの程よい塩気と、濃厚な味わいが合わさって絶妙なおいしさだ。


「なかなかいけるな」

「おいしいですね、ご主人様」


 キーラも満足そうな笑みを浮かべた。

 チーズはものによっては独特の臭みがあって、苦手な種類もあるのだが、これは僕の口によく合っている。


 問題は燻製肉だな。

 このまま食えるらしいのだが。

 はたして。

 一口齧ってみる。

 味は――食べられなくはない。

 だけど、まだまだ改良の余地はありそうだな。

 スープに突っ込んだり、調理したらもっとおいしく食べられるのは間違いないけど。

 これじゃあ、喉が渇くな。


 たしか革の水袋があったはず――ってそういえば。


 水はそのままでは長期保存できないので、商会では葡萄酒を買ったんだった。

 でもこれってよくよく考えてみれば、余計に喉が渇くんじゃないのか?

 野営場所の近くには綺麗な水場もあるけど、煮沸消毒してからじゃないと飲む気はしない。

 一日分の水くらいは買ってくればよかったな。


「どうかしましたか?」

「ああ、たいしたことじゃない……と思う。飲み物が葡萄酒しかないんだけど、大丈夫だよね?」

「酔うほど飲まなければ、問題ないかと」

「そうなんだけど」


 うーん。

 どのくらいで酔うのか、僕は把握できてないからなぁ。

 一応、水も汲んでおくか。

 浄化の魔道具があれば、楽なんだろうけど。

 いや、せっかくなんだし魔術の実験をしてみるか。


 探索道具一式の中から手頃な鍋を持ち出し、拠点近くの小川で水を汲む。

 見た目は澄んでいるが……。

 まずは水質を調査する。

〈森羅万象〉によれば、やはり肉眼では視認できない微生物が存在するようだ。

 この世界ではまだ、顕微鏡なんて発明されていないので、当然ではあるがこれら微生物や菌類も発見されていないし、命名されてもいない。

 つまりどの菌がどれほど有害なのかも、よくわからないということだ。


 煮沸消毒すれば、おそらく大半が死滅するだろうけど、それじゃ普通すぎる。

 そこで魔術の出番だ。

 メルカから聞いた浄化の魔道具は、そのものずばり〈浄化〉という魔術を付与したものなので、それを使えるか試してみる。


 魔術の知識は〈森羅万象〉で会得する。

 あとは魔力を上手く操作して、魔術を発動できるかなんだけど。

 さっきキーラに付き合ってもらった実験で気づいたことがある。

 他人の感覚を複写トレースできるなら、異世界言語を修得したときと同じようにできるはずだ。


〈浄化〉の魔術知識とともに古代魔導士の残留思念を収集し、そっくりそのまま再現する。


 鍋に魔力が放出され、一瞬の間、水が仄かに光を帯びた。

 転移魔法陣を使用したときの反応に似ている。

 魔術によってなんらかの変化が起きた証なのだろう。

〈森羅万象〉で確認すれば、不純物の一切を――微生物も含め除去できていた。

 ほぼ純水といっていい。


 成功だ。


 達成感と同時に疲労がどっと押し寄せてきて、頭がくらくらする。

 うっ……。

 魔力を一気に使いすぎた。


 頭から倒れこみそうになったとき、キーラが優しく受け止めてくれた。


「大丈夫ですか!? ご主人様、一体なにが?」

「心配かけてごめん。ちょっと魔術の実験で、魔力が底を尽きそうになっただけだから、休めば大丈夫……」


 そうはいったものの、やっぱ駄目かも。

 意識が遠のく中で、キーラにあとは任せるとだけ伝えて、気を失った。


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