王国 2
「アシッドは家に戻るんでしょ?」
広い歩道に植えられた街路樹の下で、メルチェがアシッドに問いかけた。
ブリランテの狭い空は青く晴れ渡っている。その澄んだ色の中に、建物の屋根が頭を覗かせた。地下道の出入口では絶え間なく人が行き来しており、短い間隔で電車がやってきているようだった。
「なに言ってんだよ。一緒に行くぜ」
アシッドは大きなあくびを見せながら、メルチェの質問に答える。メルチェは「えっ」と声を上げて、「そんなの駄目よ!」と続けて言った。
「ようやくここまで来れたんだもの。早く家族のところへ行ってあげないと」
「そうは言ってもお前、こんな都会一人で歩いてたら絶対迷子になるだろうが」
「そ、そんなことないわよ。大丈夫!」
アシッドの家族を心配するメルチェと、メルチェを心配するアシッド。二人が言い合いを始めようとしたとき、「はいはーい!」とすかさずオルエッタが口を挟んできた。
「それならオイラが案内するよ!」
目をぱちくりとさせる二人の間で、オルエッタはくるりと一回転する。
「だ、だけど、オルエッタはお仕事が……」
「問題ないない! だいじょーぶ!」
メルチェが遠慮した素振りを見せると、オルエッタはなんてことのなさそうな顔でニパッと笑った。黄色いスーツが街の景色によく映える。
「ホテルはすぐそこだし。メルチェを無事に送り届けないと、仕事に集中できないよー!」
えーんえーんと泣く演技をするオルエッタ。
メルチェとアシッドは少しの間二人で顔を見合わせていたが、いつまで経ってもオルエッタが泣く演技を止めないので、お言葉に甘えてホテルまで案内してもらうことにした。
「……そんじゃあ、落ち着いたらホテルまで行くから」
横断歩道のそばで、アシッドがマントを払って言う。
「ええ。わかったわ」
メルチェも了解し、アシッドと一緒に信号が青になるのを待った。
アシッドは、なんだか心配を拭いきれないような顔をしていた。実際、メルチェのことが心配だったのだ。王国で迷子にならないだろうか、ということもだが、それよりも、レビウがいなくなった上に自分までそばを離れてしまって大丈夫なのかと。
目の前の道路を車や馬車がスピードを出して横切っていく。それを目で追うふりをして、メルチェの顔を覗き見た。メルチェは、思ったよりもしっかりとした面持ちをしていた。けれど、目が合うと、やっぱり少し寂しそうに笑った。
信号が青になる。
「じゃあ、またあとでな」
アシッドがぽんとメルチェの頭を叩いた。
「また……!」
メルチェは小さく手を振った。
ついに、メルチェとレビウとアシッドは、三人とも離れ離れになった。
もちろん、永遠の別れなどではない。ディアから連絡があればまた落ち合う予定だし、会えなくなるのは少しの間だけだ。けれど、どうしてかとても寂しくなってしまったのだ。とうとう、三人の旅が終わってしまったのだと。
メルチェは人混みに紛れていくアシッドの背中をずっと見つめていた。途中、一瞬だけアシッドがこちらを振り向く。メルチェが急いで手を振ると、アシッドもまた手を振り返してくれた。
オルエッタは、そんな二人のやり取りを黙って見つめていることしかできなかった。
.
アシッドと別れたメルチェとオルエッタは、ホテルへ向かうために道路沿いの歩道を歩き始めた。
当分道なりに進み、オルエッタはスキップしながら大通り沿いにあるお店の紹介をしてくれた。彼なりに、メルチェの寂しさを紛らわそうとしてくれているのだろう。メルチェはそんなハイテンションのエンターテイナーの姿を見て少し笑みを見せる。途中、通りかかったパン屋からは小麦のいいにおいがした。
しばらく歩いていくと、急に道路沿いから建物がなくなった。そこには運河が流れており、大きな橋がかかっていた。けれど川向にはまた都会が続いている。
メルチェたちは橋を渡り始めた。すると、狭かった空が一気に広がった。
「ここが、かの有名なブリランテ運河でーす!」
オルエッタがガイド気取りで手を上げる。
その橋から見えた景色は、圧巻だった。
「わあ……」
まるで絵画。
王国を真っ二つに分ける、湖のように大きな川。
水面がキラキラと太陽を反射し、その光を遊覧船の起こす波が搔き消していた。橋は川からずいぶんと離れた高い位置にあり、彫刻の彫られた太い柱が支えている。川の先は海。そして海と反対側には、山のようにそびえたつ、立派な王宮――――
「あれが、王宮……」
王宮は運河の隣、そして王国の真ん中に位置しており、小高い土地に建っている。背の高い門の先、坂道をのぼるとまた門がある。立派な城壁の向こう、横にも縦にも大きな建物がいくつも重なり合って建てられていて、まるで壁の中にもう一つ街があるかのようだ。
「そうそう。あれが王宮だよー! 王宮のまわりには城下町があってー、すごく入り組んでてー、オイラのサーカスも王宮の近くにあるんだよー!」
メルチェがその景色に目を奪われていると、オルエッタが橋の柵から身体を乗り出して遠くの方を指さした。たしかによく見ると、王宮のふもと、川のまわりには、小さな建物がおもちゃのように立ち並んでいる。
「レビウと出会ったのも、あのあたりだったなあ……」
オルエッタがつぶやいた。
メルチェは一瞬、オルエッタのぐるぐるの瞳に影が落ちたような気がした。
「……さっ、行こ!」
けれどぐるぐるの瞳はすぐに光を取り戻して、メルチェの姿を鏡のように映し込んだ。そのまま、オルエッタはメルチェの背中をぐいぐいと押してくる。戸惑うメルチェが「ちょっとオルエッタ!」と言って早足になるのを、おもしろがっているようだ。せかされるままに、長い橋を渡りきる。
目的地のホテルは、そこから角を曲がったすぐのところにあった。
ホテルはみんなが言っていたようにとても高級そうな装いだった。金の外壁に、広いバルコニー付きの窓。一目でここが一流のホテルだとわかる。コの字型をした、お城のような外観だ。門をくぐった先の庭には大きな噴水が水を流し続けていて、綺麗に剪定された丸い低木が、エントランスまでの青レンガの道脇に等間隔で植えられていた。
「やっぱすごいねー!」
そう言いつつずんずんと進んでいくオルエッタに、メルチェは緊張しながらついていく。すると、身なりをピシッと整えたホテルマンたちが、決まった角度でお辞儀をしてくれた。途中、エントランスをくぐった際に、女のホテルマンが荷物を預かってくれる。
ホテルの中は天井が高く、室内なのに木が植えられていたり小川が流れたりしていた。そんな自然がありつつも、大理石の床はピカピカで、古代の絵画の柄が描かれている。
「オ、オルエッタ……!」
宝石がいくつもついたシャンデリアに気をとられているうちに、オルエッタはさっさとチェックインを済ませてくれていたようだった。預けていたチケットを「はい!」と返してくれた彼を、メルチェは呼び止めようとする。
「あの、ありがとう。お仕事があるのに、ブリランテを案内してくれて……」
エレベーターに乗り込んだとき、メルチェがお礼を言った。エレベーターの速度は速く、あっという間に十四階。オルエッタは長い廊下を進みながら「んー?」と言った。そして、
「……あのさ、メルチェ」
メルチェが泊まることになっている部屋の前で立ち止まる。
「メルチェはすごいね」
振り向いた彼の顔は、いつものような無邪気な顔じゃない、とても優しい顔だった。
「え……?」
メルチェは驚いて、思わず言葉がでなくなってしまう。
「オイラ知ってるよ。メルチェ、コッツ・ブロワの件があってから、一度も泣いてない」
すると、オルエッタはメルチェの金色の瞳をまっすぐ見つめながらそう言った。メルチェは、もっと驚いてさらに何も言えなくなってしまう。
「ずっと、メルチェと二人で話したかったんだ。泣かないけど、笑うのも少なくなってたから。大丈夫かなって気になっててさ」
オルエッタはメルチェの瞳をじっと見つめ続けている。ぐるぐるの、不思議な色をしたオルエッタの瞳。まるで、メルチェが本当に大丈夫かどうか見極めているかのようだった。
メルチェは、だからオルエッタはここまでついてきてくれたのか、と思った。王国へ来る前、北の港の駅でも、自分たちのことを心配してくれていると言っていた。メルチェたちよりも少し年上のお兄さんは、誰よりも人の笑顔に敏感なのだ。
「……ふふ。ありがとう、オルエッタ」
メルチェはオルエッタの気持ちが嬉しくて微笑んだ。
「大丈夫よ。私、みんなを守るって決めたから」
すると、オルエッタはメルチェの笑顔を見て同じように笑ってみせた。
「よかった。笑ってくれて。メルチェは、本当に強い子だよ。もう十分にみんなを守ってる。さっきだって、ディア様を元気づけたり、レビウを助けに行こうって言ったり……オイラ、びっくりしちゃった!」
オルエッタは優しい顔をやめていつもの変な顔芸を披露した。その顔に思わず笑いを堪えきれなくなったメルチェのまわりを、くるくると回り始める。
「でも」
メルチェがついに笑いすぎて涙まで出てきてしまったとき、オルエッタは変な顔もくるくる回るのもやめた。そして、メルチェの両手を取る。
「絶対に無理はしないでね」
そのときだけは、彼はまた優しい顔に戻っていた。
「……そんなの、オルエッタも同じよ」
すると、メルチェはオルエッタの手を取り返した。まっすぐに瞳を見つめる。オルエッタがさっきメルチェを見つめていたのと同じように、じっと瞳の奥の奥まで見つめ返す。
「オルエッタだって泣いてないわ」
メルチェの言葉を聞いて、オルエッタは目をパチパチと瞬きさせた。そのあと、「なにそれー!」とケタケタ笑ってみせる。
「そんなのあったりまえじゃーん! オイラはみんなを笑顔にさせるエンターテイナーだよ? 涙なんて流さないさ!」
「ほんとに?」
「え?」
「ほんとのほんとに、泣きたくなったりしてない?」
ホテルの廊下に、二人の声だけが響いていた。床のカーペットが長く長く、もっと向こうの客室の扉の前まで裾を伸ばしている。
「オルエッタは、プロだもの。弱音を吐かないのはわかってるわ。だけど、今は仕事中じゃないでしょ。誰もいない。私しかいないわ」
メルチェは、オルエッタがコッツ・ブロワのみんなを励まして、笑顔にしてくれていたことにとても感動していた。いつでも明るく、楽しい存在でいる。エンターテイナーとはいえ、一人の人間であるのに、ずっとずっとプロとして振舞っている彼を尊敬していたのだ。
「あなたは私よりも、レビウやハイリスとの付き合いが長いんだもの。お友達でしょ。つらくないわけないわ。悲しいのが、当たり前だもの」
けれど友人が攫われて、処刑されて、それでもまだ笑顔でいなければいけないなんて、そんなことは絶対になかった。
メルチェはオルエッタを見つめ続ける。オルエッタは、少し困ったように癖毛を掻いて、「ややっ、なんとも痛いところを突きますなあ!」とお茶らけた。困った困ったと声を出してまた新しいダンスを踊っていたが、それでもまだメルチェが彼を見つめていると、ぐるぐるの瞳がだんだん魚のように泳いでくる。すべてを見透かすような金色の瞳を、オルエッタはとてもやっかいだと思った。
「……ほんと、困っちゃうなあ……」
オルエッタは涙ぐんだ。俯いて、片手で目頭を押さえる。
「オルエッタ……」
震える肩に、メルチェが手を伸ばそうとした。
そのときだった。
「なーんちゃってー!」
ニコニコのオルエッタが大声を出す。
「!」
メルチェはとても驚いた。驚きすぎて、心臓が口から出るかと思った。
「も、もう……!」
けれどすぐにオルエッタが嘘泣きしていたことを理解して、黄色のジャケットを軽く叩いてみせる。
オルエッタは「あはは、ごめんごめん!」とまたふざけつつも、薄紫の長耳をぴょこぴょこさせて、メルチェに謝るポーズをした。
「だけど、たしかにさ。さすがのオイラでもちょっとはへこんでるんだよ」
メルチェはまだドキドキ言っている心臓を落ち着かせながら、そう言ったオルエッタの表情を見つめていた。オルエッタは少し遠くを見るような目をしていて、笑っていたけれど、どこか悲しそうだった。
「……レビウはさ、いいやつなんだ。知ってると思うけど。昔から変わり者だったオイラとも仲良くしてくれた。なのにオイラ、何も知らなかったんだ。ハイリスのことだって、友達だったのに助けられなかった。こんなことなら、もっと会いに行っていればよかったなあ……」
オルエッタはそう言ってシルクハットを深く被り直した。つばが邪魔で、表情がよく見えない。
「オルエッタ……」
メルチェはオルエッタの背中に手を添えた。すると――
「ばあーっ!」
先程と同じことが、また起こった。
「同じ手に二度も引っかかるなんて、メルチェもまだまだですなあ!」
再度びっくりして固まっているメルチェに、オルエッタは心底嬉しそうな顔で「びっくりした? びっくりした?」と迫ってきていた。目の前で繰り広げられる変顔レパートリーに、メルチェは「もう!」とムキになって怒りながらも、彼のエンターテイナーとしての信念を感じていた。きっと、彼にも守りたい、貫き通したい気持ちがあるのだろう。だから、こんなにもまぶしさを損なわない。
「それじゃあメルチェ、ゆっくり休んでね!」
オルエッタは部屋の鍵を開けると、ルームキーをメルチェに渡し、とぼけたダンスを踊りながらエレベーターへと乗り込んでいった。
「ありがとう、オルエッタ。お仕事頑張ってね!」
メルチェがお礼を言うと、オルエッタは手を振りながらエレベーターの閉ボタンを押した。扉が閉まるタイミングで、まるでショーが終わるときのように、シルクハットを脱いでお辞儀をする。ちぎれた耳が露になったが、それはすぐに見えなくなった。
.
部屋は、リビングルームとベッドルームが分かれている、とても広々とした部屋だった。
艶々に磨かれた赤茶のウッド家具。チェストも、デスクも、ふかふかのソファの脚も美しくランプの光を反射する。大きなベッドに、大きなバスタブ。部屋と部屋を区切る扉は金色の格子が付いた一面の硝子窓で、広い部屋がさらに広く感じられた。
「ディア、こんなにいい部屋を……」
メルチェは思わず独り言を言う。
声はしんとした部屋にこだまして、誰も返事をすることはなかった。壁にかかった古木の時計が秒針を刻み、他には何の音もしない。
とても、静かだ。
メルチェはこんなに静かな部屋に一人きりでいるのは久しぶりだった。港町に住んでいた頃、屋根裏で過ごしていたとき以来だ。
なんだか落ち着かなくて、窓を開けてバルコニーへ出てみた。
優しい風が吹く外では、ブリランテの街とブリランテ運河が一望できた。傾き始めた日差しが水面に映り込み、先程オルエッタと渡ってきた橋も見える。車や人々がミニチュアのように、けれど少しずつ動いている。
「……」
メルチェは、そのもっと向こうにある王宮のシルエットを見た。
あそこの地下牢に、レビウはいる。
レビウが暮らしていた場所。レビウが旅の目的地にしていた場所。
ブリランテは、王宮は、それだけでとても特別な存在に思えた。
メルチェはバルコニーの扉を閉め、キングサイズのベッドに寝転んだ。そして人魚旧街地で知った真実を思い出す。デティシラが自分を殺そうとしていたこと。五年前の列車事故はそのために意図的に起こされたものだったこと。その計画に、ハイリスや、レビウも関わっていたこと。
「……あー!」
考えれば考えるほど頭が痛くなってくる。モヤモヤとした気持ち。どれだけ考えたところで答えなんてでるはずがないのに、考えずにはいられない。
レビウは全部知っていた。本当は先に言わなければならなかったと言っていた。きっと、いつか言おうとしてくれていたんだ。それが今日だった。だけどたまたま、今日になってデティシラがやってきて……
「……レビウ、震えてた……」
メルチェはレビウがデティシラに再会した際、とても怯えていたことを思い出した。真実を告げられるのが怖かったから? 危ない目に遭うと思ったから? あの人とレビウは、どんな関係を築いていたのだろう。わからない。何も。
ピチチ、と、可愛らしい声を奏でながらバルコニーの柵に小鳥がやってくる。メルチェはベッドの上からその様子を見ていた。けれど小鳥はすぐに飛び立ってしまい、景色はまた運河の輝きが見えるだけ。
「……」
レビウは、何度も自分のことを守ってくれた。
困ったときは助けてくれて、悲しいときはそばにいてくれた。
レビウは自分の両親を殺した。列車事故を起こした。それは本当のことだとレビウは言っていた。とても驚いたし、ショックだった。けれど、それでもメルチェはレビウのことを嫌いになんてなれなかった。あんなにも人に優しくできる人を、勇敢で、繊細で、あたたかくて、寂しそうに笑う、レビウのことを、メルチェは嫌いになんてなれなかったし、放っておくこともできなかった。それはきっとアシッドも同じだろう。
やっぱり、直接話を聞かなければならないと思った。
レビウに会いたい。
早く会いたい。
会いに行かなければならない。
「……こんなところで、じっとしている場合じゃないわ!」
メルチェはベッドから跳び起きた。
ディアが自分の安全を確保しようとしてくれてるのは嬉しいけど、メルチェは今すぐレビウのことを助けに行かなければならないと思った。今じゃないといけない。今すぐでなければ。
「エシャー!」
街は人々の喧騒で賑わっていた。
ガヤガヤとした話し声や足音、行きかう馬車や車の音がうるさい。けれど、それらに負けないくらいに大きな声でメルチェは叫んだ。近くにいた通行人たちが不思議そうにメルチェのことを見る。
「――そんなに大きな声で呼ばなくてもここにいるよ~」
そのとき、メルチェの頭上。
キラキラとした光を撒き散らしながら、呆れたように白猫が現れた。空中から姿を現した彼は、メルチェが広げた両手の中へと降りてくる。エシャだ。以前負っていた怪我は完治し、その毛並みは雪原のように美しい。マフラーがそよ風になびいていた。
「あのねエシャ。私、レビウを助けたいの。私がそうしてもらったみたいに」
メルチェの瞳の中に、抱きしめられたエシャが映っていた。まるで月にいる兎のようだ。
エシャはメルチェの言葉を聞いて、にんまり笑う。
「……やっぱり君は、レビウを救ってくれる人に違いなかったんだね~……」
そして、ぼそりとつぶやいた。
「え?」
「んーん~。僕の魔法ってやっぱりすごいなって話~」
相変わらず何を考えているのかわからない猫の戯言に、メルチェは「何よそれ」と首を傾げて言った。
王国は夕方になろうとしていた。
川の向こう、斜陽に照らされた王宮を見てメルチェは走り出す。
ブリランテの街は広く、いつかディアが言っていたアーチの橋や時計塔、広い川を滑るボートがどこにあるのか、メルチェにはまだわからなかった。けれど、王宮は街のどこからでも見つけられた。あそこまで行けば。レビウに会える。メルチェはいくつもの街灯を通り過ぎ、カフェテラスの角を行き、レンガの道を駆け抜けた。
一秒でも早く、王宮へ辿り着くために。




