7話 1人の少女
「はあ…。はあ…。もうなんで…」
ボロボロになった茶色のフード付きコートを着た少女が深い森のなかを走っていた。否、逃げていた。足の踏み場もろくにないこの森を一心不乱に走り逃げていた。
「この木なら…」
少女は高さ30メートルかそれ以上の高さのある樹木を見つけ、すぐさま登ろうとしたが、登れるワケがない。それでも少女は、
「このヤロォ~。ウリァアアーー!!」
と木にしがみついていると、突然体が軽くなり風のように登っていき、隠れるにはちょうどいい葉っぱで覆われた枝へと隠れた。耐久性もあり、折れたりそんな心配無さそうだなと、少女は思いそっと息を整え身を潜めた。
数分後。
あとを追っていた似たような白い軍事服みたいな服を着た4人組がこの大きな樹木のすぐ真下まできた。たが完全に見失ってるみたいで4人とも回りをキョロキョロと見回していて、それから作戦会議だろうか。少しなにか話し合って奥の方へと行った。
「…ふぅ…。今のうちにもう一度町に戻ろ。」
少女は少し安心して、回りを見渡しもう追っての姿がないことを確認して降りようとした。
が、思わず足をすくめた。
なんせいま少女がいる位置は10メートル以上の高さのあるところ、マンションなら4階から5階ぐらいの高さだろう。その樹木の枝に乗っている。もし、地面が水面下だったらギリギリ着水安全限界で無事助かる可能性が高いのだが、なんせ下は地面だ。とある医者が言うにはこの高さで飛び降りたら生存率は50%ぐらいと発言をしている。
そんな高さに少女はいる。足がすくむのも無理もない。しかも飛び降りようとしているから尚更だ。
「もう…飛び降りるしかないよね…。」
少女は決心した。リスクを伴うがこのままここにいるわけにもいかないのだ。
「ふう…。」
心を落ち着かせるように少女は深呼吸をし、
「よしっ。」
少女は飛び降りた。
ここから飛び降りたら人はだいたい時速50kmから60kmの落下スピードで落下をする。また地面まではだいたい1秒前後。
あろうことに、少女は飛び降りる際に少し足を滑らせてしまい、頭から落下してしまっている。きっと少女も助からないと諦めてしまっただろう。
「……クソッタレ!」
いや、少女は諦めていなかった。
なんとか頭から落ちるのを避けようと上半身を起こし、下半身から落ちるように試みた。たが、そんなの上手くできるわけがない。
しかし突然。
なぜか地面の方から突風が吹き荒れた。そのお陰で少女は上手く体勢を整えるのに成功した、若干落下スピードも落ちた。その結果、少女はしっかりと受け身がとることができ、目立った外傷もなく、着地することができた。
着地の際に足を捻ってしまって少し違和感が痛くないから大丈夫だろうと少女はそう思い、町のある反対方向へとまた走り出して行った。
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「リュシル様。そのもう1人の厄介者…いいえ、召喚者が見当たらないのですか?」
うん…。姉様よ…。その厄介者呼ばわり辞めてもらえません?遠回しに俺も厄介者と言っているんじゃありませんか。泣きますよ。まったく。…ホントにこのヒーコ美味しい。
そうやって俺はヒーコというブラックコーヒーのおかわりを頼む。
「そうなの。ルルちゃん…。一応パパに聞いたら多分町じゃないのかな?って。だから今、アインス騎士団に頼んで捜索してもらっているの。」
「相変わらず、ポンコツクソ国王ですね。」
姉様の毒舌は絶好調だな。今の姉様だったら誰にも負けないんじゃないか?まあ、ぶっちゃけ俺もあの国王はクソ国王だと思っているけどね。
「ルルちゃん…。パパの前ではいったらダメよ。」
「そんなのわかっています。リュシル様。リュシル様じゃありませんから。」
「むー。ふーんだ。」
完全に煽ったね今。ホントに姉様強すぎ。てか、リュシルが可愛い…。尊い…。また、良いものを見せていただきました。ありがとうございます。
「あっ。そうだった!私、あまりのんびりできないのだった!戻らなきゃ!それじゃ、イクト。ルルちゃん。ユユちゃん。お仕事頑張ってね。」
リュシルが突然思い出したのをいいだしたから俺はビックリして体がビクッとなってしまったが、
「「はい、リュシル様。」」
なんとも動じずそう息ピッタリに言えるのだろうか。この姉妹。これがいわゆる阿吽の呼吸ってやつなのか?
しかし、リュシルもリュシルで大変そうだな。
「さても、私達も戻りましょうか。ユユにも悪いから。さ、行くわよ。クトイ。」
い・く・とですけどね!まあいいや。一応今から何するかだけでも聞いとくとするか。
「今から何するのですか?姉様」
「お勉強よ♥」
「……はい?」
姉様とのハラハラドキドキのお勉強のお時間がこうして始まったのであった。