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51話 `奴`

高まる緊張感。

総勢100人以上の精鋭が各々の戦闘用ピザに股がり、今か今かと出発の合図を待つ。

念入りに武器を手入れする者。

目をつぶり、神へ祈りを捧げる者。

近寄りがたくなるまで集中力を高めている者。皆、それぞれに時間を潰す。

 

「これより!!」

 

 この討伐団の先頭にいるアインス王国防衛軍団長であり、この未知なる生物の討伐団の団長も任せられているクルザードが白マントを翻しながら、声を張り上げる。

 

「同盟国選抜討伐団出発する!!」

 

「ううううおおおおお!!!!」

 

 出発の合図によって討伐団の気迫、気合いのボルテージが更に上がる。

クルザードを先頭に各々のピザ達に乗った兵士達は陣形を崩さず進みだす。

 `奴`までは約2キロしか離れていないため、既に姿は見えている。

 



「一体何なのだ…。奴は。」

 奴の周辺には、映像が途切れるような黒いギミックがいくつもあり、細く蒼い稲妻が何本も迸る。このようなデジタル的な現象を目の当たりにするのはここにいる皆は初めてである。

 

「どうなってやがる…。」

 

 まだ、奴とは1キロも離れているが、巨大な壁のような人とは思えない程のスケールの大きさ。初めて見る近未来的な現象から恐怖、動揺、戸惑いが討伐団に伝染して伝わる。

その反動で、数秒討伐団のほぼ全員の思考が停止する。思考が停止すれば、自ずと行動が停止して隙間が生まれる。

 

 弱肉強食の世界では、ほんの一瞬の気の緩みが生死を分けるとまで言われている。

この世界も同様だ。

討伐団は警戒していた。

だが、数秒の隙間を作ってしまった。


`奴`はこの隙間を見逃さない訳が無かった。


自由の利く上半身で、斜めに傾いていた体勢を整え、討伐団へと向ける。

そして、一軒家ぐらいなら簡単に握り潰せそうなその手を振り上げる。100メートル以上の高さまで振り上げられた手は天にまで届きそうだ。

その姿は正しく神が愚かな人々へ天罰を下すかの如く、隕石並みかそれ以上の破壊力となる天高々に掲げられた右手を振り下ろそうとした。

 

「…あ。お、お前ら!!回避!!」

 

始めにクルザードが、ようやく我に戻る。

そして、クルザードの声によって皆も己を取り戻すが、遅かった。

このままでは、魔法で振り下ろされる腕を止めることが出来ない。

魔法を生成する時間が足りない。

討伐団のほぼ全員が回避するために移動を開始するが、巨大な掌では無意味。

その悪あがきを嘲笑うかのように容赦なく掌で潰し――。


 

「透写。完了。」

 

常に冷静で回避をしなかった討伐員の`一部`の1人である若き1人の班長が呟く。

 

すると、無数の剣が製造されていく。


だが、普通の剣では無い。


刀身まで燃える炎を具現化した紅一色の剣。

青空のような透き通った蒼く美しい剣。

半透明で緑がかっており何とも神秘的な剣。


これらの剣がざっと100以上生成され、宙に浮いている剣達は巨大な掌を目掛け、放たれる。


次々に生成されては放たれ、巨大な掌が地面まで二メートル付近で動きを止め、思わず掌を引く動きに移る。

いくら小さくても無数の剣がしっかりと掌の根まで突き刺さると、たまらず脊髄反射で引いてしまう。


そこに僅かな時間が生まれた。


その僅かな時間を今度は人類が逃さなかった。

 

討伐団の`一部`である、今回は班長には抜擢されなかったが、その実力はハンズ・トレースともに肩を並べる同盟国ローズ国家若き騎士長ネロ・クラウドが、高々に剣を掲げ、そのまま垂直に振り下ろす。


神々しく煌々とした斬撃が生まれ、圧倒的な火力を持ってで巨大な掌に襲いかかる。


これは、ネロ・クラウドの固有魔法である『剣の加護』の一種でネロ・クラウドの十八番。

 

ズズババッ!!

 

手首に直撃する。

が、斬撃の威力は衰えるを知らず、そのまま手首を突っ切ってしまう。

 

バシュ!!

 

鈍い音と共に大量の鮮血が勢いよく吹き出し、血の雨を降らす。

 

ぐぐぐおおおおお!!!!

 

奴は手首が切断され、痛みが伝わり地響きが起こるまで叫び、切断された手首付近を片方の手で押さえる。

叫び声こそ耳を押さえるのに全力で動きを封じられたが、奴の動きはかなり遅い。

一度は陣営を崩されていた討伐団は十分に体勢を整える事ができた。


それもこれも、一切気を緩めず初手で自らが持つ固有魔法を放つ準備を行っていた2人の若き団員のおかけで先制攻撃と主導権は討伐団が握ることができた。


`奴`はまだ痛みを堪えるように踞っている。その隙に魔法士達は各種の最上位魔法の唱え始める。また、他の団員は大砲やバリスタ砲、拘束バリスタ砲の設置を急ぐ。

 詠唱が終わった魔法士達の上空に幾つのも魔法玉が浮かび上がる。

一つ一つが、奴の掌の大きさまである程の魔法は炎や水圧、風圧をそれぞれ纏い、その数は30以上となっていた。

 

「放て!!」

 

討伐団団長のクルザードの合図と共に魔法士達は一斉に放つ。

 炎の大玉はその数千度もある熱で焼けきり、水の大玉は深海数千メートルの水圧を持って押し潰し、風の大玉はナイフのような切れ味を誇る小さな個体の集合体であり、触れた物は容赦なく切りつける。


 上半身、下半身に満面なく大玉が直撃し、雨のように奴に降りかかる。焼かれ、潰され、切りつけられ、奴は身動きがとれない。

 

「大砲用意!!」

 魔法士達の魔法攻撃の間、準備していた大砲、30門が横1列に並び奴に向けられ、

 

「攻撃開始!!」

 

 クルザードの指示により、発射の爆音と共に攻撃を開始する。大砲の玉は、まさしく流星群。休む暇も無い程、撃ち込まれる。

 

「お、おい!!」

 

1人の討伐員が気づく。


「これは、効いている証拠なのか!?」

 

「いや、ありえねえだろ!!」


討伐団全員が気づき始める。その異変に。


「縮んでいってやがる!!」

 

顔が肉眼では確認できない程の巨大だった奴の全長がみるみる縮んでいく。

 

「防御体勢を整えろ!!」

 

その突然の異変に胸騒ぎを感じたクルザードは一度陣営を固めるように指示する。

 

「嫌な感じがする。」

 

「ですね。なんか本来の姿に戻ろうと思われますね。」

 

ハンズ・トレースも、また奴の異変に危機感を持つ。

 

「貴公もそう感じておるか。」

 

「ネロ・クラウド。」

 

 赤い甲冑に似合わむ美貌と裏腹に赤い死神と吟われている美少女。ネロ・クラウドも、その『直感』で気づいていた。

 

「このままでは、壊滅する。さて、貴公よ。さっきの技。本物は出来るであるか?」

 

 ネロ・クラウドがハンズ・トレースに問うと、同時に無数の実体がある剣が出現する。

 

「『剣の加護』か。いいだろう。透写してやる。」

 

 ネロ・クラウドによって生成され宙に浮いた状態の剣はざっと30を越える。

 

「クルザード公。余に攻撃許可を。」

 

「ああ。お前ら二人についてはとやかく言わん。好きにしろ。」

 

 クルザードは若い二人にこの場を任せ、陣営が防御に整えつつある方へ下がっていった。

 

「透写。完了。」

 

 ハンズ・トレースの固有魔法によって、瓜二つの剣が次々生成され、倍の剣の数が宙に浮く。

 

「ほう。これが噂の…。」


 ネロ・クラウドはハンズ・トレースの『固有魔法』に感心を持ったが、直ぐに奴の方へ切り替え、剣を奴へと発射させる。


 ハンズ・トレースもまた同様に攻撃を仕掛ける。

 

 無数にある実体の剣が奴に襲いかかり、また串刺しになる―――


はずだった。

 


脚がしなる。

 


腰が回転し、遠心力が効いた回し蹴り。

 

無数の剣は、いとも簡単に防がれ破壊される。

 

「なっ!」

 

「くっ!」

 

その回し蹴りの風圧を受けた二人には数メートル吹き飛ばされる。

 


「なんて速さだ…。」


自分ら以上の速さでの回し蹴り。

奴は、防御を固めいる陣営目がけ走る。

 

「こっちへ来るぞ!!」

 

「これでも食らえーー!!」

 

 拘束式バリスタが発射され、奴に突き刺さろうとするが、奴は、簡単に避け、バリスタもろとも蹴りで吹き飛ばす。

 地面がえぐれ、蹴られた拘束部隊は一瞬で壊滅する。

 

「…これが、本来の姿なのか…。」

 

 その完成した美貌に不気味な笑みを浮かべ、超人的な動きをする。

 創造神の1人であり、狂乱を神格化したその姿。荒ぶる神としてこの異世界の地も畏怖させる。

 戦を司る神である奴を古来から人々は`奴`のことをアレウスと呼ぶ―――。

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