表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/56

50話 第一次作戦決行


 虚空の異次元の断片から、得たいの知れない未知な生物が目を覗かせてから数時間が経過した。その断片は今も少しずつではあるが剥がれ落ちている。


 ガラスようにヒビ割れていき、その内へ潜んでいる生物が顕になってくる。最初は全長五メートルの断片から目だけを覗かせていたが、次第に溝が大きくなり、今は顔の半分以上まで現している。


「な…っ。巨人、だと…。」

 

 新人のアルタ・マタリアの報告を受け、魔獣騒動の後始末に追われ遅れて現地へたどり着いた国家防衛軍団長のクルザードがその巨体さに肝を抜かれた。

顔半分だけでも10数メートルはある。

全長になると100メートルを優に越えるとなる。そして、数十時間後には完全に全体が顕になる。

 


 国家防衛軍団長クルザードの到着により未知なる生物討伐の全体ミーティングが行われようとしていた。

 

 が、そのミーティングの前にクルザードは今アインス王国の状況を整理する。

 国王に、その娘であるリュシルの不在。

 国王代理であるカエデの姿も先程から見かけていない。

 アインス王国防衛軍屈指の実力を誇るエルメス・ドルワードにアオキ・イクトは魔獣騒動の任務の為不在。

 このような最悪な状況で、未知な生物の出現。かなり厳しい状況ではあるが、勝算もある。

そして、なにより国家防衛軍の名に懸けて、この国を守る義務がある。

 クルザードは簡潔に整理した後、自分自身を奮い立たせるように意気込む。

 


 異次元の断片からおおよそ2km先に野営の拠点ある。一時的な仮設の拠点であるが、立派な拠点で、武器や食料の貯蔵は十分にあり、また寝床まで確保されている。人が生活に必要な物はすべて揃えてある。

 その拠点の広場でミーティングが行われていた。

 クルザードは全体のミーティングの場で、

 

 「お前ら、あのでかぶつが、俺らの世界に足を踏み入れた瞬間、魔法士は三種の最上位魔法の準備。他の者はありったけの大砲とバリスタで攻撃。そのあとは、移動拘束式バリスタで拘束。拘束の後、魔法士による最上位の魔法の攻撃。先制攻撃を行う。その後は第2陣形の盾団を中心に防御型陣形に整えて持久戦へ持ち込む。いいか!この世界の命運がかかっていると思え!!」

 

 声高らかに全体の大まかな指示と討伐団の士気を鼓舞する。高鳴る歓声とうなり声で討伐団の士気があがる。

 

 アインス王国はこの未知の生物討伐に応援を同盟国に依頼した。

 既に魔獣騒動で友国に応援依頼をしていた事もあり、約100人近い数の即席討伐隊が既に出来上がっている。歴戦の猛者達が集まっており、なかにはその国の英雄と唄われている強者まで、応援として駆けつけている。

 

 全体のミーティングが終わり皆がそれぞれの持ち場へと戻り武器の手入れや作戦の打ち合わせなどの準備を始める。討伐団全員を10人から20人の人数で班を編成し、クルザードはその班の班長らは仮設のテントの中で机上に置かれた地図を中心として事細かな打ち合わせを行っていた。

 

「敵は未知数の生物。だからこそ慎重に最小限の被害で食い止め最悪は時間稼ぎでもいい。侵入を妨げるのだ。」

 

 クルザードはそう言いながら、机上にある簡略されたこの高野の地図に、あの未知な生物がいる場所を二重丸を書き込んだのち、それを囲むように第一陣である先制部隊を書き込んでいく。そして、その後方に第二陣となる盾部隊を追加していく。班長達はクルザードが書き込んでいくのを見つつ頷いていく。

 得たいの知れない敵との戦い。

 迂闊に攻撃して交戦するより持久的に最小限の被害で食い止めた方がかなり勝算があるのが明白なのが、班長達もわかっているからだ。


「『世界統合会』には既に連絡は入れている。また、『統合騎士』はもう近くまできているそうだ。」

 

 班長達から歓喜の歓声が上がる。それもそのはず、持久戦にする理由だから。

 

『統合騎士』


 この世界でその名を知らない者はいない騎士の呼び名。世界の英雄であり、今は世界の均衡を保つ抑止力的な存在の騎士。

 世界に10人しかいなくその強さはこの討伐団の総合力でだいたい1人分の強さ。

 それに『統合騎士』には神の加護の恩恵を受けている。その加護を使用すれば、1人で世界をいとも簡単に破壊へと導くのが可能とまで言われている。

 

「クルザード殿。『統合騎士』は何人来るのですか?」

 

 1人の班長が挙手をし、クルザードに質問する。この班長の面子では一番若く、むさ苦しい班長達と違い爽やかな風を吹き込んでいる若き班長だ。

 その若者はアインス王国とは隣国であり友国である、セコンド国家直下自衛軍若頭のハンズ・トレース。

 通常なら若頭の年齢は35歳を過ぎ実力的にも精神的にも成熟され周囲に影響を与える者がようやく与えられる役職である。だが、彼は類を見ない早さで20代前半にて若頭の職についている。その年に似合わない程頭がキレており、また数年前にアインス王国も含む多くの国が頭を抱えていた五龍騒動に休止符を打ったのも彼であり、固有魔法『投影』の使い手である。

今、最も『統合騎士』に近い人物である。

 

「なんでも5人の『統合騎士』が来るそうだ。」

 

 クルザードの言葉に他の班長達は安堵と驚きの表情を浮かべる。

 

「5人…。」

 

 ハンズ・トレースの表情はより一層厳しくなる。クルザードも厳しい表情を崩さない。

 

「おいおい。表情が怖いぞー。ハンズの若旦那よ。」

 

 ハンズ・トレースの隣にいた能天気な班長がいかにもこの戦いが勝ったの如く余裕満々でハンズの肩に手をかける。

 

「…クランス殿。どこにそんな余裕があるんです?」

 

 「そりゃー、『統合騎士』が5人も来るからに決まっているからだろ。なに当たり前の事を言っているんだ?」

 

 バシバシとハンズの背中を叩く。半数の班長達も笑みが溢れたりしていて、先程の緊張感が消えている。だが、ハンズを含む一部の班長達の表情は強ばっている。

 その班長達は気づいている。

 『統合騎士』が到着するまでの間に戦わなければいけない敵に。


その強さ。


危険度に。

 

 「気づいているものもいるが、『統合騎士』は近くにはいると言ったが到着時間は未定だ。その間、当然我々であの『統合騎士』5人も派遣される程の敵を相手にしないといけない。」

 

 クルザードの発言に周囲が滴の音が聞こえるぐらいに静まり返る。今まで笑みを浮かべていた班長達は、血の気が引いたように表情が変わる。

 

「作戦開始まで時間がない。今でこそ剥がれるペースが遅いが、一気に剥がれてもおかしくない。」

これ以上にない緊張感がこの場を静まり返らせる。

 

そこへ息を切らせながら、作戦会議室のテントまで向かってきた1人のアインス王国の国家防衛軍が勢いよくテント内へ入ってきた。

 

「失礼します!ご報告があります!」

 

 アインス王国国家防衛軍特有の白を強調した鎧を身に付けた国家防衛軍二等兵のランス・トラスト。

 彼と他の数人に見張りの任務をクルザードは指示をしていたため、ここに来る理由が薄々だが、クルザードは感づく。

 

額に汗を浮かべながら、その見張り役であった彼は、早口で要件だけ伝える。

 

「剥がれるペースが一気に加速し、半身が既に剥がれ落ち、全て剥がれ落ちるのも時間の問題です!!」

 

「皆に伝えろ!!大至急、出発すると!!」

 

クルザードが声を張り上げ、ランス・トラストに伝える。

 

「はっ!!」

ランス・トラストがテントを後にする。

「ここからは我々にこの世界が懸かっている!!覚悟を決め、立ち向かうそれが我々の使命だ!!我々の底力を見せつけようじゃないか!!」

 

クルザードの一言で、班長達の目付きが変わる。覚悟を決め、良い表情へ変わる。

 

「では、解散!!」

 

 それぞれの班長達は出発に向けてテントを後にする。とてつもない緊張感が漂い、誰一人として会話をしない。黙々と準備を始めるのであった。



 いよいよ、未知なる生物との世界をかけた戦いの火蓋が切られるのであったーーー。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ