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48話 終わりの瞳孔

―――これは、なかなか体験や経験できない不可解な現象を俺は目の当たりしている。

 

 幽体離脱でもしているのか、俺の意識は――俺の体の外にある。


 イメージで例えるとしたら、ゲームとかの三人称視点で見えている。世にも奇妙な事が起こっている。

 だが、ゲームとは違い俺自身を動かすことが出来ない。俺の体を乗っ取って何者かが動かしている。

 今の俺は手や足の感覚はあるが、重みは全く感じない。夢であった空中歩行が今ならそれも可能と推測できる。

 

 まあ、こんな状況でもいたって冷静にいられるのは、この体験をするのは異世界に来て2回目であるからだ。

 2回目になるとそこまでは、驚いたりはしない。元の体に戻れるか少し不安ではあるが。

 1回目は、約2か月前の今もあれ以来出現をしていないあの謎の部屋でトラップとして召喚された牛型モンスターを撃破した時も、俺は訳のわからないまま俺の体が牛型モンスターへ殴りかかって行ったのを見ているのみで、俺の体に戻って気がついた時にはミリヤが泣きじゃくって抱きついていた。

 

―――そして、今回もあの時と同じように、俺は『もう一人の俺』が、簡単に敵を滅ぼしていく様を見ているだけであった。


 ※  ※   ※


…ビキ…ビキ…。


それは、ガラスにひびが入ったような音を出しながら少しずつ空間にひびが入っていく。


※  ※  ※

 

 アインス王国領土内、王都から十数キロメートル離れた荒野。とても見晴らし良い上に、地形もそこまで凹凸があるわけでもないため、普段は、獣車などがよく運送ルートに使用されていた。

だが、今はそこも国家防衛軍によって封鎖されている。が、その封鎖も、もうじき解除される。


「結局、あの魔獣達はどうして現れたのですかね…?」

 

「そんなの知るか。」

 

 国家防衛軍所属二等兵のライメイ・インテアと、同じく国家防衛軍所属二等兵のアルタ・マタリアが、封鎖されているアインス王国へ繋がるこの道の門番をしていた。

と、いっても即席で製作されたバリケードの内側で誰も侵入しないように見張りしているが、全く人の気配は無い上に既に事は片付いている為に退屈しのぎで二人は会話を始めた。

 

「そうですね。今回ちょっと不可解過ぎません?」

 

「まあ、確かにな。」

 

「前代未聞の王都へ魔獣召喚。それなのに市民の死者・負傷者0名なんて。」

 

「確かに腑に落ちないところがあるな。」

 

 二人は王都の方を見る。王都まで、なかなかの距離があるがなんせ見晴らしが良いため、小さくだが王都が見える。

 

「あと、先輩方遅いっすね。」

 

「かれこれ、小一時間経つな。」

 

 まだ、新米の二人は危険を伴う為に門番を命じられたが、その危険も既に解決したのに先輩達はこんなにまだあわただしくしているのだろうと、二人は何気ない会話を続けていた。

 

「やっぱりまた、奴が絡んでいるんですかね?」

 

「可能性は高いな。」

 

 彼とは先月から国家防衛軍に配属されるなり、飛び級で幹部クラスまでに登り詰めた、自称異世界人のこと。年は二人の方が上だが、彼は次々と革命的な働きを見せ、批判の声をねじ伏せて、その座に着いた。

彼の働きは、まるで未来を見透かしたような働きで、国家防衛軍に衝撃を与えた。

そして、今回も魔獣騒動も…。

 

「なあ…どう思う?」

 

「…何がだ?」

 

「ヤツの事だよ。」

 

ライメイ・インテアは、あの飛び級異世界人についてアルタ・マタリアに問いただす。

 

「…。」

 

アルタ・マタリアは腕を組み黙りこむ。

 

 奴に対しては2人は元々良いイメージを抱いていない。それもそのはず異世界人だから。


 だか、奴が国家防衛軍に所属してからは、国家防衛軍が良い方向へ変わったのは新米の2人でもその変化に気づいている。2人の先輩であったエルメス・ドルワードがよい例えである。あの傲慢でワガママで常に自己中心的だった彼が、奴によって天狗の鼻をへし折られ変わったのだ。

 

「…変わった奴だ。」

 

 実に変わった奴。

 最初の挨拶で他人に興味ないと公言し、それからというもの自分のために奴は働いた。

が、結果としてアインス王国にも利がある働きとなった。

 まず、奴は年功序列であった国家防衛軍の階級制度を撤廃。

完全なる実力主義の階級制度へ改正。

 それにより国家防衛軍の地力が上がり、裏社会権力者がアインス王国から手を引くようになり犯罪件数が極端に下がった。

 それから貴族制度も撤廃。並びに法の改正まで行った。

 おかげでアインス王国始まって以来の大革命が起こったのだ。が、これまで以上にアインス王国は活気づいた。


「確かに、変わった奴だな。あいつは。」

 

 ライメイ・インテアもアルタ・マタリアの発言に同意見であった。良いイメージは抱いていないが、別に2人共嫌いではない。むしろ感謝しているが、それを認めると自分自身の過ちを認める事になる。

だから、決して認めるわけにはいかないのだ。

 

「ふっ。あいつが革命を起こしてくれなかったら今頃俺らはまだ雑務係だったろうな。」

 

「…ああ。全くだ。」

 

 ヤツが国家防衛軍に所属になって2人の人生は変わった。くそつまらない日々が一変として楽しくてしょうがない日々へ変わった。なにもかもヤツのおかけ。

 

「さて、仕事に…」


ビキッ。ビキッ!ビキビキッッ!!


何か一気にひびが入る音が鼓膜を刺激する。

この荒野によく響き渡り、直接神経に響き磨り減るようで不快に感じされられる音。


「なんだ!!この音は!?」

アルタ・マタリアは周囲を警戒する。

 

ビキッ!!ベキッベキベキッッ!!


また、あの音。何かが剥がれていく音。先程より酷く大きな音。不快感がより一層増していく。

 

「ア、アルタ!!あれ!!」

 

真っ青になったライメイ・インテアは震える指先で、音の震源となるところを指した。その先には…。


「――は。」

 

大きな瞳だった。

 

バリケードの内側で数キロ先だが、はっきりとアルタ・マタリアは肉眼で確認する事ができる。

 

森羅万象。理を覆して。時空が歪み空間が破壊され、人類いや、生物すべての存在意義を否定し、滅ぼす為だけに出現するその大きな赤紅の瞳が、空いた空間からゆっくりと覗き込んでいたのであった―――。

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