47話 もう一人
回る。
廻る。
回る。
廻る。
回る。廻る。回る。廻る。回る廻る回る廻る回る廻る回る廻る
まわるまわるまわるまわるまわるまわる―――。
魂が。心が。思考が。思念が。意思が。意識が。体が。肉体が―――。
グシャグシャに。ゴチャゴチャに。グダグダに。ゴタゴタに。ゴシャゴシャに―――。
わからない―――。
己がわからない――。
ただ、憎い―――。
己が憎い――――。
他人が憎い―――。
全てが憎い―――。
憎い。憎い。憎い。憎い。憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いにくいにくいにくいにくいにくいにくいにくいにくい―――――――。
だから、殺す。
己を殺す。
他人を殺す。
全てを殺す。
殺す。殺す。殺す。殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺すころすころすころすころすころす―――――。
そして、最後に―――。
『私』を救って――――。
虚無に取り残された誰に願い、誰に期待しても無意味――。
だが、願い期待をする――。
それしか出来なかった――。
肉体、人格共に支配され、
虚無の狭間に閉じ籠られ、
生きている事を否定され、
それでも、願い続ける――。
それでも、期待し続ける――。
この世で、最も必要ない感情を
その個体は持ち続けている―――。
※ ※ ※
地上の光が届かない場所。
決して太陽の光を浴びることのない場所だった。が、数年前に『地下都市開発計画』が進められ、人の手で疑似太陽が作られた。
『火』の最上級魔法『永久燃焼術式』を応用し、燃焼によって起こる光エネルギーだけを増幅させ、地下街に光を届ける事を可能にした。
計画が破棄になっても、疑似太陽は存在しており、今も地下街に光を届けている。
『火』の最上級魔法『永久燃焼術式』、文字通り永久的に火の燃焼を持続させる事ができる為、取り壊さない限り存在し続ける。
だか、その疑似太陽も今は本来の用途が果たすことが出来ないでいた―――。
濃厚で濃密な『リガ』が、ラロッシュ・アルテアを呑み込むように覆い包む。
そして、そのラロッシュ・アルテアを取り込んだ『リガ』によって、地下街全体が、靄がかかったように薄暗く、あたかも夜中と思えてくる。
そのような中、
「で、ここはイクトっちに任せて、俺らはここから逃げるっす!無事に俺らが逃げ切ったらイクトっちも逃げる作戦っす!」
張りつめた緊迫の中、その場でも浮いている声だが、いつもよりはどことなく緊張感を持った声でエルメスは、イクトから自分しか聞かされていない作戦をリュシル達へ説明する。
その作戦を1番早く理解したのはユユ。
イクトに対して絶対的な信頼の表れであり、先程の失態から常に冷静で判断するのを心掛けていたから、この作戦が、最も安全で逃げる方法だと気づいていた。
が―――、
「そんなのダメよ!イクト1人だけ置いていけない!」
リュシル達もようやくこの作戦の意味を理解した。と同時に、反対した。ミリヤも、ヤダヤダと反対している。
「でも、そうするしか方法はないっすよ!」
事実は事実。
全員が協力しても、力の差は歴然。
膨大な『リガ』がラロッシュ・アルテアに集中している為、リュシル達は魔法が使えない。体術も会得しているが、このような相手にはどうしようもない。
無力にしか過ぎないのだ。
それよりか、魔法が斬れる剣。
希少鉱石『漆硬石』を素材として使用しており神剣の一器となぞられている無銘の剣を所有し、剣術、体術共に、アインス王国いや、この世界でも有数な腕の持ち主のイクトに時間を稼いで貰った方がいいかもしれない。
リュシルは決断が出来ず気持ちが揺らいでいた。
「リュシル様!お気持ちは、痛いほどわかりますがですが、ここはイクト君を信じましょう!」
そんな揺らいでいた気持ちをユユが一蹴した。
「ユユ…。」
「ユユっち…。」
真っ直ぐ迷いなき瞳をリュシルにユユは向けていた。ユユもこの作戦は反対してた。だが、ユユはイクトを信じる方を選んだ。あの時もそうだったように――。
「……わかりました。イクトを信じて地下街を脱出しましょう!」
リュシルもまたあの少年を信じて、全力で脱出するのを誓った。
※ ※ ※
何がどうなっているのか、ロイホ・アイルトンは理解が追いついていなかった。
ラロッシュ・アルテアが途中からおかしくなっていったところまでは覚えている。
そこからは、すっぽりと記憶が抜き取られたように覚えていなく今に至っている。
違和感がある空白の時間。
届くようで届かないもどかしさを覚えつつ、ロイホ・アイルトンはこれまで生きていた中でも見たことがない怪物が、繰り出す魔法らしき物質を次から次へ斬り続けている少年へ話しかける。
「お、おい!ラロッシュは!?どうなっている!?」
ロイホ・アイルトンが必死になり吠えるが、今も斬り続けている少年は、この戦いに夢中になっているのか、口元が緩み楽しんで戦い続けており、ロイホ・アイルトンの声は届いていなかった。
「お、おい!!」
ロイホ・アイルトンは気づいていない少年の元に近づき再び声をかけた。
「あ?お前誰?お前も敵とか?殺されたいとか?てか、邪魔。」
別人だった。
ロイホ・アイルトンは少年のことはあまり知らないが、捉えた時と今のこの少年は人が違う事がはっきりとわかってしまう。
雰囲気、口調共に違う。
口調は乱暴になり、殺気や剣気がピリピリと肌に突き刺さる。
「あんた…。誰だ一体…?」
今も高笑いしながら夢中に斬り続けている少年は、そのロイホ・アイルトンが問いかけた質問を聞くとさらに高笑いをし、
「ん??あ、そうか!そうかそうか!そうかそうかそうか!」
少年は一人で納得して、
「もうお前には飽きた。」
そう言って、怪物の攻撃の隙を見て未だに無差別で魔法がらしき物質を放出している怪物に向けて、剣を上から下へと振り下ろした。
振り下ろした先は、地面や建物。『リガ』の霧が真っ二つに斬れ割けていく。どこまでも。
空間までもが斬れたのか錯覚してしまう程に。
そして、その怪物も綺麗に二つに斬れ分かれていた。
「あいつもアオキ・イクトであり、俺もアオキ・イクトだ。ふはははは!!」
地下街を薄暗くしていた『リガ』の霧が晴れていきながら、アオキ・イクトの高笑いが響き渡るのであった―――。




