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45話 荒れ狂う地下

昔、ある1人の少年がいた。


その子は愛されていた。


常に愛されていた。


 一人っ子だからその影響もあるだろうが、この世に生を授けられた時から両親に大事に愛情を込められて育たれていた。

 決して裕福ではない家庭だったが、その子にとっては、毎日が財産そのものだった。

 その子はすくすく育ち、とても礼儀良く、周りに気配りできる思いやりがある少年へと育っていった。また、頭も非常に良く、6つの頃には三大魔法『火』の最上位魔法を習得して、周りからは『神童』と言われるほど将来も楽しみな子だった。

 

 常に両親はその子を愛し、その子も両親の為にも将来は学問を修めようと考えていた。善き両親に善き子供。幸せいっぱいで誰もが理想する家族だった。


―――――が、その理想的な家族はある日を境に崩れていった。

 

その日は、いつものように家族揃っての夕食の時だった。


「はいはい、それじゃあ手を合わせて。」

 

 円型のテーブルの上座に座っている、柔和な顔立ちからわかるように優しく、だが時には厳しく、そしてその子が愛してやまない1人である父親。全ての生き物をその優しさで包み込むような優しさ。また、人種を問わず誰でも愛せる平和の使者みたいな、その子が愛してやまないその1人である母親。

 そして、その2人の子で、『神童』と呼ばれても溺れる事もなく、今日も、魔法習得に夢中になっていた少年。

 3人揃って、食前の祈りの為に、手を合わせて、

 


『いただきます。』


「母さん、やっぱりこの子凄いよ。」

 食事の途中に父親が母親に我が子の今日の成果を説明する。


「既に『水』魔法は最上位魔法を残すのみだよ。そして、逸り素質があったよ。」


「『風』ですか?それとも…」


「『風』魔法もそうだが、『固有魔法』の片鱗を今日見たよ。」


「まあー!ホントに凄いね!」


「えへへー。」

 

我が息子の才能に母親も誉める。母親にも誉められて少年は、上機嫌でパンに齧りつく。


――コン。――コン。


玄関からドアをノックされる音が聞こえた。

両親は、不思議そうに顔を見合せる。その家族が住んでいる家は、街から少し離れており、この時間帯で訪れる人は滅多にいない。

いるとしたら、親戚の人か、途方に暮れる旅の者しかいない。犯罪者とかの可能性は無い。


それは、この世の全ての『禁則事項』に反する。


「はい。」

 

父親が、ドアを開ける。

が、そこには誰もいない。ただ、広大な畑が広がっているばかり。父親は、周りをよく見渡すが、人の姿などない。

 

 おかしいなと思いつつドアを閉めようと手をドアノブにかけたとき、何かが家の中に投げ込まれた。拳1つぐらいの円球だった。

家の中にその円球が入るとその円球から桃色の煙が噴出された。

 (まずい!これは!と、母親と息子に知ら…)

と気づいたときには意識が落ちていた。

 

父親の異変に息子が気づいた。

しかもこれは、催眠作用を含んでいる煙だと、気づいたが母親も既に気を失っていた。

 

一体誰が…?

 

息子も煙の正体に気づいたときには既にその煙を吸っていた為どんどん意識が遠ざかっていく。

 

「その子が、噂の子か。」

 

 聞いたことが無い、その低く冷たく淡々した男の人の声が遠くに聞こえる。

 

「まあ、これも運命。誰も運命に逆らえないのさ。」

 

そう言って男は眠っている少年を担ぐ。

 

「この子は、我らデウテロス王国が頂いていく。」

 

睡眠作用がある煙を吸って意識を失っている父親、母親に告げる。そして、男は自分の竜にその息子を乗せ、母国へと帰っていった。

 



「…ラロッシュ・アルテアか…。…名だけ残してやるか。」

 


これは、十数年前に起きた出来事であり、ラロッシュ・アルテアの第一の転機であった。


 ※  ※   ※

 

「契約だと…?」

 

 見るからに誰よりも弱く貧弱な少年が放った一言にラロッシュ・アルテアは驚かされた。

 幸いにも、初めて体感する『氷』魔法によって下半身は、氷漬けにされているが、上半身までには到ってない。それは、ロイホ・アイルトンを含む盗賊達も同様だ。

 

(しかし、何故彼なんだ。いや、他にそれらしき者が…。まさか…、あいつが?)

 

 数ヶ月前にこんな噂が世界中に駆け巡った。

 アインス王国に神の世界から来た異国人がいる。そして、その異国人は神に等しい力を持っていると――。

 

「クククっ。そうかい。そうかい!そんなにひ弱だとは思ってもいなかったよ!ククク。神がなんだ!神は死んだ!こんなろくでもない世界に神などいるわけないだろ!」

 

 雄叫びに近い声でラロッシュ・アルテアが訴える。

 

「これは、ユユと同じ現象!?」

 

 俺は、ラロッシュ・アルテアが、先程ユユが感情が失われ獣のような状態に近い姿になっていると気づいた。

 

これは、まずい!

 

「リュシル!!エルメス!!」

 

「アイス・アウト!!」

 

「おおらららあああ!!」

 

 リュシル、エルメスも勘づいており、すぐさま『氷』魔法と『光』魔法でとどめにかかった。

 絶対零度で構成され触れる物全てを凍らせるのが可能の全長十メートル、幅五メートルの氷凍柱と、まるで光のレーザーみたいに光速であらゆるものを貫ける光貫柱が次々、ラロッシュ・アルテアめがけて放たれる。

 

 圧倒的な地響きが鳴るなか約3分間、リュシルとエルメスは魔法を打ち続けた。

 瓦礫などが粉砕したことで巻き上がった煙に皆の視線が集まる。

 

「やったのか…?」

 

 魔法を片っ端から打ち放ったエルメスが、ポツリとフラグを立てる。今回に関してはフラグを立てようが立てないが、遅かった。

 

「ククク。ハハハ!もっと!!もっとだ!!」

 

 立ち上る白い煙に声が聞こえた。と、同時に、

 

「なっ…!!」

 

 漫画や小説で出てくるあの暗黒のオーラというべきか、ドス黒くとても濃く、精神がそのオーラだけで削られていくような圧倒的、不のオーラがラロッシュ・アルテア。いや、ロイホ・アイルトンを含む盗賊全員を取り込んでいく。

 

(こ、これは、魔法の『暴走』!!)

 

 今となり、『魔女』の声がようやく聞こえたと思いきや、驚きからか、若干声が裏返っている。

 

「ここで、お前らを殺す。殺す。殺す。殺す。殺す殺す殺すころすころすコロスコロスコロスコロスコロスコロス…」

 立ち上る白い煙もろとも吸収して、不のオーラが一気に解放される。

 

「イ、イクト!!」

 

「あわわ…!!」

 

「これはヤバイっすね。」

 解放されたオーラから、ラロッシュ・アルテアが身につけていた物。そして、本人自身が漆黒に染まり、それはまるで、漆黒の闇から生まれた怪物の姿になって俺達の前に現れた―――。

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