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43話 罠

 イクトは水面から顔を上げるような感覚から意識が覚醒する。

 

「あ―――。」

 

 そこから、脳からの伝達で体が反応するのを確認する。深い眠りから目覚めたような錯覚に陥っていて、頭が回転するのが時間をようする事を認知する。

 


「だ、大丈夫ですか?イクト君?」

 

 水色がかった青髪の双子の妹。ユユが心配そうに顔を覗かせ声を掛けてくれる。

 俺と同じ異世界召喚者の藤崎花菜と残念なイケメン、エルメスも心配そうに俺を見つめていた。

 

「あ、ああ。大丈夫。大丈夫。ちょっいと立ちくらみしただけ。」

 

 『魔女』の空間からこの世界に生還するのはどうも慣れる気がしない。


 (そのうち慣れると思うよ。特に君なんて慣れるのもすぐじゃないのかい?)


 はあ。

『魔女』の空間にいたのは夢じゃなかったようだ。甘くて、優しくて、誘惑的な声が耳元で囁くように語りかける。

俺は首元を触った。そして、確信した。 

夢でもなければ幻でもない。現実だったと。

俺の首元にしっかりと黒いペンダント型のアクセサリーがあった。


はあ。

また、ため息をついた。

俺の中学の先生がため息をつくたびに幸せの妖精が死んでいくとか、男性教師だったが、とてもロマンチックな事を言っていた事をふと思い出す。それだったら、俺はこれまでに何万の妖精たちを皆殺しにしていただろう。


「ここは…?」

 

 俺は薄暗く気温がグッと下がっていて肌寒い周りを見渡す。似たような場所は、異世界に召喚されて2日目に訪れている。ちなみに、あの場合は2日目以降一度も屋敷に現れていない。

 だが、ここは似たような場所であっても全く見覚えもなければ何も知らない場所だった。

 

(どうやら、ここは地下に通じる階段だね。)

 

 また、『魔女』が囁く。常に俺と共有していて『魔女』の声がダイレクトに聞こえる。

 

「ここは地下の通路ですよ。イクト君。本当に大丈夫ですか?」

 

「ああ。ちょこっと貧血気味なだけだ。それより、ユユの方は大丈夫か?」

 

「はい!イクト君のためだったらユユなんでもやれます!」

 

 力強いその返事に期待を持つがこの作戦は何度も言う通りユユにかかっている。

 

(あの少女の君に向けた絶対的な信頼は凄いね。いったいどんな事をして信頼を勝ち取ったんだい?彼女も君の事を知っているのかい?ホントに君の周りには面白い人がいるね。これも君の影響と捉えた方が良さそうだね。)

 

 いちいちうるさい『魔女』だな。

 第一、この環境になったのは俺のせいではない。勝手になっただけだ。工作などは環境に関しては、やっていない。

 

(まあ、それはいいとして、エルメス君と藤崎花菜ちゃんは、ずいぶん静かだね。普段の彼らだっから、はしゃいるに違いない。何かしたのかい。)

 

 あいつらもTPOぐらいは出来る常識人なだけだろ。すでにユユの魔法を使用して透明化しているから、静かにやってくれないと、俺達が困る。

 

「あと、もう少しで地下居住区です。より一層気を引き締めて下さい!」

 

 階段の終わりが見えてくると同時にユユが念押しに皆に言い聞かせる。

 

(……隠れているね。盗賊達は、やはり待ち伏せしているね。だが、厄介なことに位置がわからない。)


そんなの分かりきっている。

ここからが勝負だ。ここまでは上手くいっている。あとは、一人一人が作戦を遂行することだ。


薄暗い場所から光が漏れている。

その漏れている光の中へと俺達は入っていった。

こうして俺らは階段を下りきった。

降りきって周りを見渡すとそこは部屋。

木材で出来ている部屋であったが、腐敗しているのか半壊している。

すぐさま俺らは姿勢を低くし部屋の窓を覗いた。

この部屋と同じような半壊している木材の建物もあれば、形をまだしっかりと残している建物がある。

そして、建物の外には数人の盗賊達が周囲を捜索しているのが確認できる。

 

「…こっち出口あるよ。」

 

藤崎花菜が、出口らしきドアを見つけた。今すぐに壊れそうなドアだったが、ちょうど人が一人通り抜けれる穴が空いていて、通り抜けれる事ができて、外へ出ることが出来た。


「ここが『地下居住区』。」

 

俺達は周囲を見渡した。

地下居住区は地下なのに何故か地上のように明るい。照明とかも見当たらない。太陽の光がまるで届いているかのようだ。

また、ここの世界では珍しい木造建築の家が立ち並んでいる。だが、建物が立ってから随分経っているため大半の建物は半壊している。


「…よし。次は1人を捕らえ尋問するぞ。」

 

俺達は、次の目的に移る。いくら透明化になっているとはいえ、敵と出会い頭になってしまってはひとたまりもない。

常に周りを警戒しながら、盗賊を探す。

 

「…イクトくん。いました。」

ユユが1人の盗賊を見つけた。少し痩せ気味の体型で、見るからに警戒心の欠片もない。

「…よし。」

 

(あれは囮だ。イクト君。別の盗賊に…。)


バッシャーン!!


「冷っ!!」


突如、後方から水をかけられた。

 

ちっ。くそ。やはりか。

 

「あわわ!!イクトくん!」

 

ユユが慌てる。無理もない。透明化が解除されてしまって、しっかりと、俺やユユ。エルメス、藤崎花菜が見える。

 

「動くなよ。」

 

透明化を解除させられた俺達の背後には数十人の盗賊達がいた。

 

俺達は、まんまと罠に引っ掛かってしまった――。

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