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42話 『契約』と『思惑』

「アオキイクト君。ボクと…『契約』しないかい?」


さて、魔女がやっと本題を話してきた。

エルメスだったら、すぐさま契約するに違いない。あいつは、能力は素晴らしいものを持っているが、こういったところがバカだから1番になれない。

残念な男だ。

 

話を戻すとしよう。

まず、この手の類いは間違えなく詐欺。しかもろくでもない結末になるのがお約束。

だが、メリットだけを述べ、デメリットは述べないなどと古典的な詐欺のやり方は『魔女』はやってこない。難しいな。

 

「内容の話に移ろうか。まず君が求めているメリットとデメリットの話をするとしよう。メリットとして、君が使用できない魔法が使用出来るようになる。具体的に言うと、三色の魔法は勿論。固有魔法も君が見た魔法全て使用できるようになる。」

 

やはり、1番に言ってきた。

『魔女』も俺が魔法を使えないこと知っているのは当然。魔法が主流のこの地で使えないなんて、ルル曰く生きる価値が無いとまで言われている。

それだけ、この世界は魔法を重要視されている。

聞いた話じゃ魔法の力で、身分まで分けられるとかなんとかあるらしい。


いずれにしてもこの世界で魔法が使えないと話にならない。

 

「そして、僕は君の願望である元いた世界に戻る戻り方を知っている。」

 

「…なるほど。で、デメリットは?」

 

「おやっ。思っていたより反応が薄いなー。結構食いついてくると思って期待していたのだけど。おっと。デメリットだったね。まあ、それは君にとってはデメリットであるだけだよ。それは、ここの部屋を出ても僕の声を君に届ける事が出来る。」

 

「確かにそのデメリットは、でかいな。」

 

 只でさえ少しの会話でもめんどくさい『魔女』なのに年中無休で話されると聞く拷問だな。

 それに別に俺は魔法を必要と思っていない。

 アンチって程ではないが、いるかいらないかの二択だったらいらないを選ぶぐらい。『契約』する必要もない。

 

「それに君が探している少女達の居場所も直ぐに割れる。わざわざ拷問などしなくて済む。」

 

「……リュシルのことか?」

 

あえて強調して少しカマをかけた。まあ、禁書によれば…。

 

瞬時にドス黒く濃い殺意がこの場を支配した。


エルメスの時と非にならないくらいに。

 

やはりおもしろい反応が見れた。

しかし、この殺意は尋常じゃない。

殺意だけで、人が殺せるレベル。

 

「…おっと。すまない。つい、ムキになってしまったようだね。その名を聞くたびに殺意しか沸かないんだよ。あんな偽者偽善者気取りに。しかし、イクト君も性格が悪いね。禁書で知っているはずと思うのだけど。『魔女』の事について。」

 

『魔女』を徹底的に追い込み封印まで追いやった一族がいた。その一族は、その功績、栄誉を讃えアインス王国の王として君臨している。


と、禁書に記載されていた。

禁書には他にも色々なこの世界の過去を記載されている。そして、禁書によれば未来を記載している稀書があるらしい。

内容とかは全くの不明。存在している事しかわからないが、その本の所持者はだいたい目星はついている。

 

「で、『契約』するかい?」

 

『魔女』が甘い誘惑みたいに尋ねてくる。

これは、なかなか体験の無いことで思わず、「お、おう!」と言いたくなる。

 

「だが、断る。この青木郁人が、最も好きな事のひとつは、自分の思惑通りに事を進めている奴に『No』と断ってやる事だ。」

 

決まった。

一度言ってみたかったセリフ第5位が言えて俺は満足です。まあ、ふざけるのもこの辺にして、正直なところ俺が納得する内容ではなかった。

魔法が使えないのは不便だが、必要とはしていない。

それに今からは…。

 

「そうか…。まあ、君が『契約』しないとわかっていたが、試しに聞いてみただけのことさ。それより、これは僕からのプレゼント。」

 

 なにやら首かけのアクセサリーを『魔女』が渡してきた。

 金属でもなければプラスチックでもないがそれなりの強度がある黒いアクセサリー。

 手触りとかはプラスチックみたいだが、プラスチックみたいな軽々しさが無い。

外見は普通のアクセサリー。

試しに、アクセサリーをかけてしたが、何も違和感も………あ。

 

『魔女』がニヤリとにやける。

 

やられた。

このアクセサリーは『魔女』が渡してくれたもの。見事に、はめられた。

急ぎ、アクセサリーを外そうとするが、何故かアクセサリーが外せない。

 

「無理に外さない方を勧めるよ。外そうとすると死んじゃうからね。」

 

『魔女』が、にこやかに注意をする。

これは詰んだ。俺としたことが、少しの気の緩みに漬け込まれた。くそ。最悪。

 

「そんなに嬉しがらなくてもいいんだよ。今後とも宜しくね。契約者、『アオキイクト』君。」

 

俺は、『魔女』と契約してしまった。


※    ※     ※


「さて、晴れて契約したわけだが……。あー。すまない。いや、本当にゴメンね。この可愛い僕に免じて許してくれないか?だから、その殺意を抑えてくれないかい?このまま、じゃあ僕の意識が持たない。」

 

ちっ。

自分への怒りと『魔女』のやり方への怒りで頭に血が上っていた。まあ、いい。最終的には『魔女』と契約する予定だったから。それが多少速くなっただけだ。

 

「殺意を抑えてくれて助かるよ。さて、僕と契約したから君はアインス王国1の魔法使いになったわけだ。けど、君の事だから使わない、いや、使えないと言うべきか。それはいいとして、使いたくなったら僕に伝えてくれればいい。状況に合わせ魔法を使うからね。そこは期待して欲しい。さて、これで僕は君に意思を伝えることが出来るようになった。『魔女』の名において、的確かつ適切な助言もすることだろう。頼りにしてもいいからね。」

 

滑らかに次から次へと言葉が出てくる『魔女』。

明らかに上機嫌なことが伺える。

 

「そろそろ戻っていいか。」

 

『魔女』の目的も達することができたから俺はアインス王国に戻りやらなくてはいけない事をやらなければいけない。

 

「ああ、すまない。君は今、救出しようと地下へ行くのだったね。さて、僕からの助言として、エルメスと藤崎花菜は連れていかない方を勧める。と、言っても決めるのはイクト君。君自身だから、この圧倒的不利でどうやって打破できるか、楽しみに観ているよ。」

 

俺は『魔女』の助言を無視しながら不自然に存在しているドアノブに手をかけた。

 

「あ、そうそう。少しネタバレになるけど、今から助けるのは、リュシルとミリヤじゃないからね。」

 

「え…。」

 

『魔女』がさっきの言葉で固まってしまったのを確認して、俺はこの無機質で何もない空間の部屋を後にした。

 


「…さて、掃除を始めようか。」


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