41話 救出作戦Ⅱ
1人の少女がいたーー。
少女は常に独りだったーー。
生まれてこのかたずっとーー。
どんなに魔法に恵まれていても、どんなに才能に恵まれていも独りだった。
だがしかし、少女はどんなことでもできた。
全てが思い通りにいった。
だから、少女は独りでも平気だった。
しかし、現実離れしている才能に、人は「気味が悪い」「頭がおかしい」など、嫉妬が妬みになり次第に人は、その力に怯え害として少女を見るようになり、いつしか少女は人々から狙われるようになった。
「あの少女を消さなくては人類の平和がない。」
「このままにしておくと、天災よりも恐ろしい災害になる。そのようになる前に魔法が覚醒しきれる前に始末しなくてはいけない。」
口々に人々は少女を敵とみなし、少女を見つけては少女の命を狙った。
が、少女にとってそれは単なる鬼ごっこにしか過ぎなかった。
そう、少女にとってはただの遊びだった。
どんなに練った作戦も全て通用せず、少女は鬼ごっこという遊びに夢中になって遊んでいた。
そんなある日――。
少女が秘密基地と自負している、とある酒場の2階に少女は住み着いていた。
そこに、1人の女性が訪ねてきた。
少女は、少し変な違和感を感じたが、またいつものように魔法を繰り出してやって驚かしてやろうと少女は思い、いつものように、右手をその女性に向けて右手に力を込めた。
炎の槍と水の槍の無数乱射でにしようと少女は明確なイメージをする。
すると槍が形成され、無数の槍が女性に向けて、乱射されるはずだった―――。
「ーーーっ!」
少女にとってそれは初めての体験だった。
見ていた景色が瞬時に反転して床に叩きつけられた。
女性は少女から数メートル離れたところで少女を見つけていただけ。
少女は、今、自分の身に起きた出来事に処理能力がついてこれていなかった。
そして、これが少女が初めて身を持って体験する『痛み』が少女を襲いかかった。
背中の皮膚が焼きただれるような、無数の針が突き刺さるような、なんともそれは酷い『痛み』だった。
「…が…あ……っ…。」
言葉で出ないくらい強烈な『痛み』。
呼吸をするのもハンマーで腹部を殴られた感覚で折れた骨同士がギシギシと削り合い、何をどのようにすれば『痛み』が和らぐのか少女はそれだけの事を最優先で考えようとするが、その『痛み』は考える余地も与えないで少女に畳み掛ける。
「…あ…っ…た……す……て」
少女は、『痛み』に耐えきれず女性に救いを求めようとしたが、上手く言葉も喋れない。
くる、しい…。
少女は、もがき苦しんでいた。
その苦しんでいる少女を見ていた女性は、今が頃合いだと見極めて少女に話しかける。
「苦しいか?辛いか?」
感情を一切込めることなく、ただ冷酷に冷たく低い声で、また少女を見下すように女性は問いただす。
それに少女は瞬時に頷く。
いや、頷くことしか出来なかった。
「そうか。だが、お前が人々に与えた苦しみはこんなものじゃない。こんなのは序の口に過ぎない。」
また、女性は冷たく低い声で少女に話しかける。
だが、少女にとっては理解が出来なかった。
少女にとってはただの遊び相手であった上に、今はそんな理解する余裕もない。
「今はそんな理解できる状況では…ないか。
まあ、いい。おい。聞け。私に忠義を尽くしてついてくるなら、今すぐにその苦しみから解放してやる。」
その言葉に少女は考えることなく反射的に何度も頷いた。
「この苦しみから解放されるならどうだっていい。だから、助けてって感じか。いいね。いいよ。なら、契約成立だ。」
女性は、少女の判断に喜んでいるのか、さっきと声がガラリと変わり突出した変な声で嬉しそうに話した。
その女性に意識を奪われていた少女は我に戻ると気づいた。
「治ってる…。」
焼きただれるような、骨がギシギシ削り合い神経までも磨り減るような感覚も、呼吸をするのも今まであった『痛み』が無くなっていた。
「ぐふふ。そんなに目を丸くして、ぐふふ。
これもあんたがさっき使おうとしていた『魔法』の一種。ぐふふ。まあ、これからもヨロシク。」
こうして、少女は変な女性――『魔女』によって保護された。
※ ※ ※ ※
「本当に本気であの地下に行くのかい…。アオキイクト君。」
『魔女』が心配して俺をここに呼び寄せたようだ。だが、その心配は俺に向けてないのは直ぐにわかった。
「…お前と話している時間が勿体無いのだが。」
こちらとしては、リュシルとミリヤを一刻も速く救出したい。だから、『魔女』とお茶して話している時間がない。
「君が心配している時間は気にしなくていい。薄々気づいてはいると思うが、ここは時間の概念が存在しない。上に向こうに戻ったとしても時間は進んでいないから安心していい。さて、本題に入ろうかイクト君。正直なところ、君の心配はしていない。心配しているのは君らの仲間だ。」
俺は無言のまま、『魔女』の注意を聞く。
「まず、地下は盗賊達の第2のアジト。そこは君も知っていると思うがそこに君が求める結果があるわけではない。その上、盗賊達は君たちが来ることを知っているようだ。迎え立つ準備を十分に整っている。君自身は問題ないと思うが、全員を守るのは無理があるだろう。しかも君は魔法が使えない。エルメスという少年はそこそこやるみたいだが、自分をやっと守れるぐらいと見ていい。」
流石、『魔女』と言ったところか。
先程とは打って変わり冷静に自分を取り戻し、当たり前のように会話を自分のペースへと持っていく。しかも『魔女』の分析は的確に明確に現象の戦力と状況を捉えている。
しかし、それを伝えるためだけに俺を呼び寄せたわけがない。大方、本題は予想ついているが、遠回しに聞いてみるか。
「そんなに強いのか。『地下』の魔獣は?それとも地形を熟知している盗賊達か?あるいは、ラロッシュ・アルテアか?」
その今回の親玉を口にすると『魔女』の表情にほんの少し変化があった。
「……穢らわしい。」
『魔女』が何かボソッと言ったが上手く聞き取れなかった。『魔女』はまた、いつもの人をバカにしたような様子に戻り、
「君が、考えている隠密作戦は非常に有効的に事を進めることができる。流石だね。慣れていると言うべきなのかな?だけど、それは隠密に行動するのが絶対条件だよね。あの面子で出来ると踏んでいるのかい?」
正直なところ出来ないと踏んでいる。
ユユは自身の魔法であるため出来ると思うが、あの2人が隠密に出来ると思わない。
だが、戦力としては必要。俺がカバーするしかないのは分かっているが、それでは隠密では無くなる。戦闘になれば確実に分が悪い。
困ったものだ。
「全くなかなか、君も『魔女』に引きを取らない性格の悪さだね。もう既に布石を打っておきながら、困ったなとか考えるのは白々しいよ。僕が人の思考をわかる事くらい知っていて、その演技をやっているとするとゾッとするね。そんなに僕が君をここに呼び寄せた本当の目的を知りたいのかい?まあ、遅かれ速かれ伝えるつもりだったんだけどね。」
その黒がかった紅紫色をした目は、何でもお見通しってか。チートかよ。思考がわかっちゃうとか、心理戦とかだったら無敵じゃん。
まあ、さておき恐らく『魔女』の本題についてだが、だいたい何を言うかわかる。
俺に足りないもの。
今後、俺に必要となってくるもの。
それを『魔女』が持っている。
だが、早いな。もっと後から言ってくると思っていたが、未来でも変わったのか?
まあ、正直この取引は俺にとってはどうでもいいのだけどね。
「では、本題に入ろうアオキイクト君。ボクと…『契約』しないかい?」
『魔女』が両手を広げ、その美貌からは満面の笑みを咲かせ、一時的に友好的な取引。『契約』の話を持ちかけてきた―――。




