40話 救出作戦 Ⅰ
「で、リュシルとミリヤはどこに連れていかれたか、わかるか?」
ユユに治癒魔法をかけてもらっている藤崎花菜に問う。目立った外傷も無ければ、意識もハッキリしている。
念のためにユユの治癒魔法をかけているが、それも、もういらなさそうだ。
「さっきも言ったが、覚えているのは、リュシルが氷柱で先制攻撃しようと手を前に付きだしたところまでだって。気づいたら、あんたらが来ていた。」
藤崎花菜の言うには、リュシルと盗賊が口論になり、取引は決裂して、リュシルが氷魔法を唱えようとした時までしか覚えていないらしい。
そして、俺らはユユの知らせで応接室に来た時は藤崎花菜は床に横たわって眠っていた。
ちなみに、盗賊は、今、王都で起こっている魔獣召喚の件も関わっている。それは藤崎花菜の証言で分かったことだ。
魔獣の方に意識を傾けて本来の目的であるリュシルとミリヤの誘拐を防衛軍に悟らせないようにする狙いで見事にしてやられた。魔獣の方は防衛軍に任せれば大丈夫だろう。
問題は俺らの方だ。
勿論、この誘拐は防衛軍には話はしない。ヘタしたら、大戦が始まりかねない。俺らでなんとかするしかない。
「で、国王はなんて?」
「はい。ちょっと向こうの方でトラブって今すぐには戻ってこられないそうです。」
藤崎花菜の問いかけに申し訳なさそうにユユが返答する。
「はあー!?なんなの!?それでも国王なの!?あのおっさん!!」
「はい、歴とした国王です。」
藤崎花菜が激怒するのも無理もない。
自分の国や愛する愛娘が誘拐されたのに、いの一番で帰ってこないと思うと国王として、父親として失格でもすまない。だから帰ってこられないと捉えた方がいい。
向こうでも何か起きていると思っていた方がいい。あまり、アテにしないでおこう。
「さて、どうするっすか?イクトっち。手がかり何も無しっすよ。」
「イクト、こいつ誰?」
俺の隣にいたエルメスを指差した藤崎花菜。
「いや、花菜ちゃん!忘れないでくださいっすよ!エルメスっすよ!国家防衛軍若頭のエルメス・ドルワードっよ。てか、このやり取り今月3回目っすよ!」
「お、おう!そ、そうだったな!よろしくな!」
能天気な二人がこの事態に合わぬ緊張感も欠片もない会話を無視して俺とユユで状況整理と打開策を練っていた。
「で、ユユ。肝心のアジトはわかるか?」
「はい。恐らく、おおよその場所は特定しています。」
「流石だな。ナイス働きユユ。」
「はい!イクト君も凄くカッコいいです!」
「えっ!もうアジト割れたっすか!?イクトっち!?」
ようやく、藤崎花菜とのいつもの茶番が終わったエルメスが首を突っ込んできた。
「エルメス。ここからはお前の力も必要となってくる。ちゃんと聞いていろよ。」
これは事実だ。戦力的に見ても、『風』の魔法だけ使えるがその力はまだ不安定で、固有魔法『幻想』を使えるが、大多数を相手にするのは無理がある。そして、魔法もろくに使えない無能ときた。
しかも、敵は未知数。まだ、魔法を使える2人だった何とかなるかも知れないが、魔法を使えない奴が敵のアジトに乗り込むなんて特攻隊にも程がある。
実力的にもこのメンバーだったら、エルメスが郡を抜いてずば抜けている。しかもこいつは固有魔法も使える。指折りの実力者だから、エルメス無しではリュシル達の救出は不可能だ。
「ユユ。アジトの場所は?」
「はい。これは防衛軍からの情報によりますと…。」
「ちょっ!えっ!俺知らないっすけど!!」
「エルメス。うるさい。」
藤崎花菜の一言でエルメスは黙り、縮こまった。
「続けてくれ、ユユ。」
「はい。イクト君。場所は今は廃墟になってます大通りにありました、地下居住区です。」
『地下居住区!?』
2人の声が同時に重なった。
地下居住区。
一昔前、およそ10年前、アインス王国が国をあげて開発を進めた「地下都市開発計画」があった。当初は商街がこの地下にできる予定だったが開発途中、耐震関係の不具合が見つかり、それ以降人はもう地下を諦めた。と、俺が読んだアインス禁書にはそう書いてあった。
「けど、どうやって、地下に潜り込めたんすかね?」
「自力で穴を掘ったか、裏切り者がいただけだろ。」
「裏切り…者。」
俺の裏切り者発言に少しだけユユが反応した。ユユに思い当たる節があるかもしれないが、今は救出が先。
「まず、地下の入り方は唯一、取り壊せていなかった地下に通じる階段がある。そこはここ、屋敷内にある。そして、地下に入っても地下居住区は地形がわからない。死角からの不意な攻撃は避けたいが無理もある。移動はユユの『幻想』で移動する。」
「透明化を使うんだな。」
「ああ。但し、知っていると思うが透明化の時には実体があるものに触れられるなよ。」
ユユの固有魔法『幻想』は普通に強いが欠点もある。それは実体がある物に触れられると幻想が解除される。自分から触る分には何も問題ないのが不思議なところだ。
「了解っす。」
「はい、イクトくん。」
エルメスや藤崎花菜、ユユがそれぞれに頷く。
「よし。そして、1人を捕らえてリュシル達の居場所を尋問して、聞き出す。」
「ほうほう。それはいいね。あー、楽しみになってきた!」
「よっ!イクトっちのドS!」
尋問の言葉に2人が歓喜の声を上げる。
よし、尋問はドSの2人に任せよう。
「尋問をして、居場所を吐かせたら、居場所の近くまでは透明化で近づき、あとは派手にやっても構わない。」
「了解っす!」
「わかりました!イクトくん!ユユ、派手に殺ります。」
「よし、ユユ。地下に続く階段は国王室にあるだろ?」
「さすがにイクトくんです。当たりです。何故、分かったんですか?」
「いや、単純な直感だよ。」
「はぁ~、流石イクトです!」
「いや、納得するんかよ。ユユちゃん。」
「そんなことより、早く国王室に行くぞ。」
その一言で場の雰囲気に緊張感が走った。そして、1人1人の面構えも変わった。それを確認して俺は最初に応接室のドアノブに手をかけ扉を開いた。
一瞬だけ視界が真っ白になり、気がつくと何もない真っ白な無の空間、いや部屋にいた。
これで2回目。
俺はまた、呼ばれたのだ。こんなに時間もないのに。迷惑だ。
「なんで、また俺を呼んだ。……『欲望の魔女』。」
「本当に本気であの地下に行くのかい…。アオキイクト君。」
赤紫の瞳で俺を飲み込むかのように、また、さっきとは打って変わって丸で余裕がないように見てとれる、『魔女』が出迎えた。




