32話 動きだす暗躍
「あの部屋は一体なんなの!?パパ!!」
リュシルの一言で静まり返る国王室。
この一連の事件の関係者がここに全員揃っている。
リュシルや俺、ミリヤはもちろんのこと。
ルルとユユ。カエデに藤崎花咲。あと国家防衛軍軍隊長を名乗るクルザードという大男もこの場に居合わせている。
「そぉーんな部屋あったなぁーんて初耳だぁーよ。」
興味本位と言うべきか、あざといと言うべきか、薄笑いをしながらリュシルの質問に答える国王であった。
リュシルが爆弾発言をした後、俺らは色々考えるのは二の次にして、まず寒さから逃れるためにすぐさま南棟へ避難した。
そしたら、ばったりユユルル姉妹と藤崎花咲に出会ったわけだ。
それからはリュシルが事情を話し、皆が国王室へ集まって国王に事情聴取というわけだ。
ちなみに俺は皆が集まらなくても国王室に行くつもりだったけどね。
だって、あそこ暖炉あるし。
それに…ね。
ともあれ、今はこの国を作った国王へリュシルが畳み掛けるように質問攻めをしている。
だが、あのピエロ国王は文字通り道化になりすまし、
「ふーん。そーぉなんだぁ。」
「しぃーらなかったぁよ。」
の一点張りの返事。
しかも薄笑いまでされちゃあこちらも信じきれるわけがない。
「真面目に答えてよ!!」
「まぁーじめのまじめ。大まじめだぁーよ。」
今のはウソだな。目に見えたウソを平気でついている。マジかよ。あの国王。
「リュシル様。国王様も知らなかったようですし、ひとまず落ち着いて。」
ユユが割って入る形で国王のフォローをする。
なんて良い子なんだ。
あんな国王でさえも助けようとするなんて、人が良すぎて詐欺にかからないか心配だよ。
「…そうね。これだけ聞いてもわからないというし…。」
ユユの言葉でリュシルもやっと骨が折れたみたいだ。
そして、俺は、
「…さっきから何だよ。」
テーブルの向かい側にあるソファに腰掛け、こっちをさっきからじっと見ている藤崎花咲にこれ以上見るなという命令の意味も込めて少し声のトーンを落として話した。
「いや、何でその子はあんたにめちゃめちゃなついているわけ?」
と、言って藤崎花咲は俺の膝の上に座っているミリヤを指を差した。
単純な疑問より、どちらかというと嫉妬じみた聞き方をしていた。
正直なところ何故俺になついているのかさっぱりだ。だけど、そんなことを言うとミリヤが何故か怒るからここは濁すしかない。
「まあ、あれだ。あれ。九死に一生を得たからな。」
そう言い、俺はミリヤの金髪の髪を撫でる。
「えへへ…。」
ミリヤもご機嫌よく、また嬉しそうだ。
俺は撫でるのを止めようとしたがミリヤが泣きそうになったため撫で続けた。
あと、ユユが羨ましそうにこっちを見ているが、これはそっとしておこう。
「何であんただけにミリヤちゃんはこんなになつくのよ!そうよ。何であんたなのよ!」
いや、そんなに理不尽に怒られても困るのだけど。なんか、これ以上なつかれると俺の生命に関わる気がしていた。
「ミリヤ。もういいんじゃないか?」
「やーだ。イクトはミリヤを撫で撫でするのっ。」
ミリヤは俺が止めないように俺の手の上に自分の手を乗せてきた。
ヤバい…。ヤバいヤバい。ヤバいヤバいヤバい。
まず、破壊力抜群の可愛さ。この可愛さなら世界の戦争が終わりを告げる事が出来る。
まさに平和の使者。
それと、もう1つ。
「お前。後で覚えておけよ。」
殺戮者のような虫けら以外のゴミを見ているような表情で藤崎花咲は言い放った。いわゆる殺害予告だ。
「ロリコン…。」
どうやら、完全に激怒ですな。あと、ロリコン認定も勝手にするのもやめてくれ。
「その部屋は今も拝見する事って可能なんでしょうか?リュシル様。」
少し何かを考えてからカエデが頭を悩ませているリュシルに質問した。
部屋の内容等はリュシルが全て話してはいるがイメージするのも確かに難しい。
百聞は一見にしかずという言葉があるように、実際に見た方が正確に理解できる。
「あの部屋を見ることできるかと聞かれても正直わからないよ。まずは、探しましょうか。」
「そうですね。では、行きましょうか。」
リュシルにカエデ。それに、
「私と御姉様もご一緒させて貰ってよろしいでしょうか?リュシル様。」
「ぜーんぜんいいよ!多い方がいいからね。」
メイド姉妹に、
「なら、私もお供しましょう。リュシル様の話では怪物が出てきたそうなので。」
国家防衛軍軍隊長が初めてクルザードが口を開いた。ドスが効いていてその声だけでどれだけの修羅場を潜ってきたのか物語っている。
「クルザードさんが一緒ならすごーく心強いわ。花咲ちゃんはどうする?」
藤崎花咲はあまり考えずに、いや、決めていただろう。
「私も行くわ。興味あるし。」
すぐに即答した。
「イクト達はどうするの?」
そんなの聞かれる前に答えはもう決まっている。
「行かない。ミリヤを危険な目に合わせるわけにはいかないからな。」
ミリヤがいてもいなくても俺は同じ答えにはなっている。だが、ミリヤも守るためと理由に言えば説得力が増す。だから使わせて貰った。
「わかったわ。イクト。ミリヤちゃんをよろしくね。」
「命に変えてでも。」
そういって、謎の部屋捜索隊は国王室を出ていった。
そして、今国王室は俺とソファで遊んでいるミリヤ。それと、
「ほんとぉ~によかったのかーな?イクトくん。」
クソ国王の3人だけになった。
「俺もお前に話したい事が出来たからな。」
俺は視線を変えずに、キャッキャッとソファで遊んでいるミリヤを見ていた。
「イクトくん。ホントに君は怖いものしらずぅだーね。」
「はっ。ぬかせ。今は関係無いだろ。」
「やれやれだぁーね。」
「で、なんだい話したいこおーとは?」
国王の笑みが消えたのが、声のトーンでわかる。1つトーンを落として国王は話してきた。つまり、これからは本当に真面目に話し合うことを表している。
「あの部屋の存在は知っていたのか?」
「やだなー。イークト君。それぇーはきかなぁーくても君ならわかぁーるだぁーろ?」
「そうだな。質問を変えよう。」
「何故お前はこれまで秘密にしていた部屋をバラしたんだ?」
数秒の沈黙が続いた後、ふっ。と笑って、
「条件が揃ったからぁーよ。」
薄笑みながら国王が言う。
「条件?」
「そうさ。条件がさ。」
「だからその条件が揃ったから秘密をばらして、俺に炙られろと。」
「いやー。はあなしがはやくぅーてたすかぁーるよ。」
「今後イクト君には、国家防衛軍に入ってもらってぇー自由に暴れて貰ってもかまわあーいかーらね。」
なるほど。だから、俺を国家防衛軍に入れるのか。それだったら、多少派手に暴れても揉み消しできるしな。しかも、ここでは見えない世界が所属することによって見えてくるしな。
「わかった。お前とは途中までは同じ考えだ。そこまでは手を組もうじゃないか。」
「ふふ。きぃーみのような人と手を組めるなんてなぁーがいーきするもーんだね。」
「やり方は自由にやらせて貰う。」
「いいとーも。たのーんだよ。イクト君。」
その言葉には命令というより、他に頼む人がいないのか、失敗が許されないのか、もしくは時間がないのか、焦りを感じているようだった。
「では、イクト君。裏切り者、反逆者をあぶり出してくぅーれ。」
「…ああ…。わかった。」




