26話 生還と三人目
ーーー俺は確信していた。
今のこの面子で盗賊残り四人に負けるわけないと。
アインス王国第一王女でして、次期アインス王国筆頭でその実力も国内では指折りの実力。なおかつ、固有魔法『氷雪』の使い手リュシル。
アインス王国屋敷の家事全般を担当していて、その万能性には計り知れないものがあり、また彼女も固有魔法『幻想』の使い手であるユユ。
そして俺と同じ召喚者で、国家防衛軍の捜索、追跡を何度も振り切り、またあのリュシルとも互角に渡り合え、その可能性にとてつもない物を秘めている、何より選ばれし者しか使えない『風』の使い手の藤崎花菜。
眠っている少年をおんぶっている俺に関しては不審者にしか見えないから放っておいて、とにかくはあのクソ上司にも負ける気がしない。 しかも、もし美少女コンテストがあったら団体の部と個人の部を独占する自信いや、確信もある。
まず、リュシルが一位だろ…。いや、もしかすると…いや、でもなあ……おっと、かなり脱線してしまった。
とにかく、今は煽りがてら誇っとくか。こうゆうのは得意分野だ。そうして、俺は盗賊を見下ろす感じに誇っておいた。
「兄貴。かなり俺らの分が悪すぎまっせ。」
「確かに、あの男は論外として箱入り娘1人だったイケたかも知れないが2人も助けに来て、そのうち1人は恐らく『風』の使い手だ…。」
「マジですか!兄貴!」
ちょっと待て。
なんかさっき聞き捨てられないことを何か言ったぞ。クソヤロウ。今すぐその熊さんを切り破いてやるぞと思い、俺は得意の妄想の中で切り破いてやった。
「ねえ、このまま無意味に戦ってもお互いに不利益なだけと思うから、これ以上はお互いのためにもここで止めときましょう。」
リュシルが提案と言うべきか一方的に意見を言ったが、これは相手にとっても名案でもある。
こちらとしてはこのままだったら、盗賊を捕まえることはできるが、時間がかかってしまう。
こちらにとっては今は時間との勝負だ。そんなに余裕もない。
今回は見逃してくれるとリュシルが両方にとって良い判断をしてくれた。
「ちっ。おい!お前ら!ずらかるぞ!」
「へい!」
盗賊達はリュシルの言葉に通じて撤退し始めた。
「私達も早く戻りましょ。」
「…そうね。」
「わかりました。リュシル様。」
「…ああ。」
そうして、俺達は屋敷へと再出発した。
一本道を抜け出すと、大きな交差点になっている道へと通じ、全長10メートルぐらいだろうか、その位ある木が横1列に並んでいる。その間にある一本道を進むと屋敷が見えてきた。
「イクト。その子どんな感じ?」
小走りで走っているリュシルが様子を伺ってきた。
「ああ…。恐らく疲労でまだ眠っているが特に体温の変化には異常はないよ。」
「そう…よかった。」
これはあくまでも俺の感じ取ったことを言ったから実際はどうなのかはわからないが、恐らく大丈夫だろう。
だけど、この子にはもっと大きな…
「イクト?難しい顔してどうしたの?」
「…ああ。なんでもない。」
考えることに意識がいきすぎていたようだ。とにかく、それは後から考えることにして、今は急ごう。
「あと、もう少しだから急ぎましょ。」
そうして、俺らは無事に屋敷に辿り着くことができた。
大きな扉を開けると、そこには…
「お帰りなさい。お話は聞いております。その子を預かります。」
「クトイにしてはまずまずってとこね。恐らくほぼリュシル様のお力だと思うけど。」
エデとルルと国家防衛軍数人が待ち構えていた。
そこからは速かった。
あの少年は直ぐに俺から預かった後、ルルが風呂場へと連れていった。恐らく体を拭くためだろう。それに付き添う形でユユも風呂場へといった。
カエデと国家防衛軍数人に囲まれているのは藤崎花菜とそれに付き添っているリュシルだ。当然といえば、当然だ。なんせあいつは要注意指名手配だからな。
そして、俺は寒いから暖炉のあるあの道化の野郎の部屋と移動した。
「やぁーあ。イクト君。君は必ずわたぁーしのへぇあに来るとおもってぇいたよーぉ。」
俺が部屋に入るとすぐさま机に肘をかけて、椅子に座って明らかにその道化は待っていた。
「うるさい。寒いから暖めさせろ。」
「おぉー。こわいねぇー。」
俺は部屋の左端にある暖炉へと向かった。そこには来客用なのか長椅子が向かい合ってあったから俺は暖炉側に座った。
「じゃあーわたしぃは、向かい側に座ろうじゃないかー。」
そう言って、道化の国王は俺の向かい側に座った。
いや、何故こっちにきた。向こうに居とけよ。
「まずは、お疲れ様だぁね。イクト君のおかげで無事に事が収まったよぉー。」
他人事のように言いやがって。全く。何が起こったのか知ってるクセによ。
「…ああ。」
当然俺はぶっきらぼうに返事をした。
「冷たいじゃないかぁー。まあ、いいけどぉ。イクト君どうだい?使ってみたかい?」
使ってみた、それだけで何が言いたいのかわかった。
「…いや、最初の一度だけでそのあとは使ってない。」
「そうかい。そうかい。ちなみにどんな感じだったかい?」
「正直なところうるさい。」
「まあ、そうだろぉーね。それはリュシルに使ったのかい?」
「ああ…。薄々感じていたから…。」
「どうだった?」
「あんたの想像通りだ。」
恐らく国王も俺と同じように感じている。
どこまで想像しているか知らないが、大方その想像で間違っていない。
「そうかい…。まあいい、余談はここまでにして本題に移ろうじゃないかぁー。」
少しの間が空いた。その間に妙な緊張感が生まれて空気を張り詰めていく。
俺はそれを不快に感じ、直ぐに国王の方へを視線を移した。
そしてそれを確認したかのように国王は、
「今後についてと、イクト君はもう気づいていると思うが第三の召喚者の事についても話そうぉーじゃないかぁー。」
と、話の内容を伝えてきた。




