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23話 小さな少年2

 大半の人は予想だにしない事が起きたら咄嗟に動くことはできない。

 状況が理解できず、また理解できても対処法がわからず、足がくすんだり、体が硬直したりと様々だろう。

 

 だが、ごく稀に動ける者がいる。

 

 常日頃、そんな経験を積んでいる者と、ただの大バカ者。


 その二者だ。


 前者は長年経験が染み付いていて責任感から体が動いてしまう。

 

 そして、後者。


 後者の場合は考えなしに勝手に頭より先に体が動いてしまうのだ。

 気づいてたら体が勝手に動いている。そんな感じだろう。


 だが、俺らはそんな大バカ者をバカにすることは出来ない。

 

 何故かって?

 

 それは常に新しい道を、時代を切り開いているのは「大バカ者」だからだ。

 

 常識に囚われず、道も何もないところをどんどん切り開いていけるのは大バカ者にしかできない。

 決して、一般人である俺らにはできもしない。

だから、大バカ者はバカにすることはできない。


 

彼女はこの状況でも咄嗟に動けるだろう。



だって彼女は大バカ者だから。


 ※ ※ ※

「イ、イクト!どうすれば…!」

 

あたふたしているリュシル。

無理もない。こんな時、人はどうすればいいのかわからなくなってしまう。

だから、すぐさま俺はリュシルに指示を出した。


「リュシルはそのマフラーと俺が着ている上着を35から40℃ぐらいまで暖めておいてくれ!」

 

「わ、わかった!」

 

 俺は上着を脱ぎリュシルに渡し、リュシルも自分のマフラーをとった。

 上着がなくなり上半身はカッターシャツだけとなり、より一層寒さが厳しくなったが、今はそんなこと言っている場合ではない。事は一刻を争う。

 

 すぐさま俺は少年のところまで行った。


「もう大丈夫だよ。」

 

 少年に大丈夫か?と聞いても意味がない。

 大事なのは安心させること。

 助けにきたと伝えることだ。

 

「……さ…むい…です。」


 誰かが来たのは認識しているみたいだが、意識が朦朧としている。

 

 急いで俺は少年の顔、正確には頬っぺを触った。やはり、冷たい。

 

「35…いや、34.9ぐらいの第1期から第2期の間くらいか。まだ、助かるな。」

 

 幸いにも、興奮状態になって暴れていなくて助かった。暴れていたら、強行策をしなくてはいけなかったから。

 

 頬っぺたを触って温もりを少しでも伝えて覚醒し続けるのを促す。

 

「…あ…たた…い…」

 

よし。これで少しは時間を稼げるな。あとは…

 

「イクト!温めたよ!!」

 リュシルが温めた上着とマフラーを持ってきた。

 

「よし!マフラーを首に巻いてくれ!」

 

「わかったわ!」

 暖かくなっているマフラーを巻き終わり、俺は少年に上着を着せた。

 

「大丈夫かい?」

 

 これで少しはましになっただろう。さっきまで震えていた少年の手足が少しずつ治まってきている。

 

「…あたたかい……あ…りがと…」

 

明らかにさっきまでとは違って良くなってきている。

 

「すぐに屋敷にいくからな。もう少しの我慢だ。」

 そう言って俺は少年を担いだ。

 

「リュシル。ここから屋敷までの最短ルートを案内してくれ。」

 

「わかったわ。ただ、治安が悪いところを通るけどそれでもいい?」

 

「 やむなしだ。」


正直なところ、通りたくはなかった。

面倒なことになりたくなかったが、状況が状況だ。

そんな言ってる場合ではない。

だから、何も起こらない事を祈るしかない。


※ ※

「こっちよイクト!」

 

 大通りから少しかけ離れている、少し狭めの道を俺とリュシルは走り続けている。


 少年は疲れてなのか眠りについていた。体温は下がっていないから凍死の心配はないだろうが、早いとこ屋敷でしっかりと体を暖め直す必要がある。

 

 しかし、確かにここの治安は悪いな。道はところどころ鋪装されてないところも見受けられるし、壁に落書き。挙げ句には空き巣が入ったような建物も見受けられた。

 

「さすがに誰もいないわね。」

 

一本道が続いている道を俺とリュシルは走り続ける。だいたい今は一本道の真ん中付近だろう。

 

「さすがにこの吹雪じゃ盗賊もいないわね。」

 

っ!リュシルさん!そんなフラグみたいな事を言わないでください!立ったらどうするですか!止めてくださいよ!


「イクト!このまま行けば大丈夫だよ!」

 

 ああもう!あなたは第1級フラグ建築士か何かですか!

 

「ねえ、イクト聞いているっ」


俺とリュシルは立ち止まった。行く手を阻むように人がいたからだ。


 「ちょっと待てや。そこの姉ちゃん達。」

 

 ドスが効いたヤクザみたいな声を一番奥の奴が言ってきた。

 待ち伏せしていた。

 数は6人。

 ほら、言わんこっちゃない。見事なまでのフラグ回収だ。

 

「ここ通りたきゃ…持ち物全て置いていきな。」

その言葉と同時に6人全員がナイフみたいな刃物を取り出してきた。


ちっ。最悪。本当に最悪だ。

面倒なことになってしまった。

 


俺らは盗賊に出会ってしまったーーーーーー。

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