20話 勝算
「ホントに一週間この天候なの?」
俺はこんな事を聞いても事実はわかるわけないのにもう一度だけ、確認のために聞いてみた。
「ごめんなさい…。イクト…。本当なの…。」
そんな泣きそうな瞳で謝らないでくれ。
女性の涙に勝てるのはそうそうないから。
迂闊に確認のためにもう一度聞いた俺が悪かったですから。お願いします。泣かないで。
「……ふふっ。イクト、おろおろしすぎ。ふふっ。」
リュシルは泣きそうになっていたが、なんとか踏みとどまって微笑んでくれた。
「さて、私たちもあの子を追っている国家防衛軍の皆さんを目指し行きましょうか。」
パンと手を叩いてリュシルは提案をしたが、そんなの無駄。追いつけるわけがない。
だから、
「いや、寒いからここは国家防衛軍に任せて、屋敷に戻ろう。てか、戻りたい。」
俺は、ただ純粋に今思っていることを話した。薄着でこの吹雪の中だ。明日風邪引いてもおかしくない。てか、寒い。
しかも、もう藤崎花菜を追う必要もない。
「けど…国家防衛軍だけであの子を捕まえられるの…?」
最もの質問だ。正直なところ無理だろう。いや、無理だな。だが、俺には別の勝算がある。しかしこの勝算は教えられないから、ここは少し濁しておくとしよう。
「……ここは、国家防衛軍がどうにかしてくれるだろう。あの人たちなかなかのやり手みたいだし。」
これは本当の事だ。
俺は数時間前に1人の国家防衛軍に追われていた際にあの人混みの中をかわしながら俺に近づいてきた。あれは並の人だったらまずあの人混みをかわすところから困難を極める。
その点、あの国家防衛軍はすいすい近づいてきたから、国家防衛軍のレベルの高さが伺える。
「…そうね。国家防衛軍は精鋭しか集めていないから、ここはイクトと国家防衛軍を信じて私たちは屋敷に戻りましょう。」
こうして、俺はやっと屋敷に戻るようになった。ホントに長かった。
※ ※ ※ ※
「はあ。はあ。はあ。なんでこんなに飛ばしているのに。はあ。こいつだけはついてきてるんだよ!」
藤崎花菜は必死に入り組んでいる路地を駆け抜けていた。
だが、そのすぐ後ろを1人の国家防衛軍が追っていた。10人近く国家防衛軍はいたが、藤崎花菜のスピードについてこれたのがその1人だけ。
恐らく、その1人は自分より遥かに速くて強いと藤崎花菜は追われながら、確信していた。
「はあ。はあ。ここままだったらまずい…」
自分の体力が持たないか、それより国家防衛軍の1人が先に捕まえるか。どちらにせよ、もう時間の問題だった。
その時。
「こっちです。」
聞き慣れた日本語が聞こえた。
思わず藤崎花菜は驚いたが、状況が状況だったためその日本語を喋った少女に言われた通りに大人1人がギリギリ通れるかの細い路地へ入った。
藤崎花菜が路地に入ったのを確認した少女は、路地の入り口に向かって、
「ミライト!」
と、唱えると壁と壁の間に半透明の壁が出来た。とても神秘的な壁だったが、このままだと見つかってしまう。逃げなきゃと藤崎花菜が走りだそうと思った矢先、
「大丈夫です。向こうからは私たちの姿は見えませんから。」
「えっ!?」
その時、半透明の壁の向こう側にさっきまで追っていた国家防衛軍の1人が来た。
「…どこにいった。」
冷酷で感情の欠片すらない女性の声だった。思わず藤崎花菜は息までも殺してじっと、その国家防衛軍の1人を見ていた。
その国家防衛軍の1人は何度も周囲を見渡したが、すぐさま何処かへ風のように行ってしまった。
「はぁーー。助かったーー。」
藤崎花菜は思いっきり溜めに溜めていた息を吐いた。
「いやー。ホントに助かったよ。ところで、あんたは例の…」
藤崎花菜は日本語を話せる彼女の方を見た。少し改造されているメイド服を着ていて、水色の髪がこの吹雪と妙にマッチングしている。背丈は自分より少し低めで年も自分より下だと思う。
「申し遅れました。」
その彼女は流暢な日本語で自己紹介をしてきた。
「私、屋敷で使用人をしています、クルシア・ユユと申します。お話はお聞きしております。」
そうして、ユユは丈が少し短い改造スカートを掴み一礼したのであった。




