19話 魔法はチート
ここである少年の話でもしよう。
少年が1人いた。
その少年はいつもわからなかった。
何故、こんなに弱く脆いのかと。
貧弱。柔弱。軟弱。脆弱。虚弱。惰弱。懦弱。
わからなかった。
結果は変わらないのにそこまで抗うわけが。
わからなかった。
こんなつまらない。クソな世界で生きていくわけが。
少年はいつもわからなかった。
人という生き物を。
※※※
さて、俺は藤崎花菜に吹き飛ばされて宙に舞っている。
やはり魔法の力は恐ろしい。そして、怖い。魔法恐怖症があるのだったら、間違えなくその病気になるレベルだ。
「イクト!!今、助けるからね!!」
下の方からとても透き通って聴こえる美声をもつ少女が、その声を張り上げていた。とてつもない安心感を与えてくる。俺はなにもしないでこの安心感に身を任せよう。
…何で雪って白いんだろう…。
ぼんやりと吹雪の中、空を眺めていると、突然体が軽くなった。ホントに軽くなった。リンゴ三個分の比じゃないほど軽くなった。なんだこの軽さは。まるで無重力空間にいるみたいな、一切の荷重を感じない。
こうなった要因はだいたい察しがつく。
「イクトーー!!もう、風魔法かけたからゆっくりと降りてくるのをイメージして!!」
その張本人が大きな声を出して、指示してきた。確かに今はとても制御するのは難しい。てか、吐きそうなくらい気持ち悪い。速く言われた通りイメージしよう。イメージ…。イメージ…。
すると、体がゆっくりと落下し始めた。
魔法はやはり恐ろしい。物理の概念そのものが魔法によって否定されている。
自由落下からの重力加速度。本来なら既に俺の体には俺の体重の何倍の負荷がかかっていてもおかしくない物理の法則。その法則を無視している魔法はやはりチート的存在だと再確認させられた。
よいしょっと。ふう。
イメージ通りに着地することが出来た。思い通りに体を動かせたから、魔法もまたとてつもない可能性を秘めている。使い方次第ではとんでもない事になる。
「イクト!!大丈夫だった!?ケガとかない!?」
リュシルが血相を変えて駆け寄ってきた。
「おかげさまで、なんとか助かったよ。ありがとう。」
助かったので俺は素直にお礼をいった。
「どういたしまして。さて、イクトも無事だし、あの子を探しにいこう?」
リュシルの背丈はだいたい俺より10センチ低い。そのため少し俺を見上げる形で顔を少し傾けて提案してきた。
ぐはっ…。…さては尊死させる気だな。可愛さの限界なんて存在しないんじゃないのか。リュシルにとっては。
だいたいこんなお願い方をされて断る奴がこの世にいるのか。
…あ、そういえば1人いたな。
まあ、それはいいとして、天候だ。天候をどうにかしたい。
「あの~リュシルさん?張り切っているところ申し訳ないがこの天候どうにかしてくれません?」
「…ごめんなさい。イクト。ちょっと本気を出しすぎちゃって、恐らく一週間はこのまま…かも…」
と、衝撃発言をしてリュシルは頭を下げて謝った。
決して悪気があってしたことはないのはわかってる。だから、怒ってはいない。本当だよ。ただ、吹雪の中、俺は立ち尽くしたままリュシルの衝撃発言後、思った。
…まじか、と。