18話 魔法=チート
俺は『奇跡』なんて言葉は信じない。
それまでの前提や人の思考や能力。周囲の状況など目に見えない無数にある条件が重なりあって起こる予測できない必然な事であって、簡単な話、条件さえ合えば『奇跡』を起こす事も可能だし、『奇跡』を予測するのも可能である。そうなってくるとそれはもう『奇跡』ではなくなる。
だから、俺は『奇跡』を信じない。
元々、『奇跡』は神など超自然のものとされるできごと。人間の力や自然法則を超えたできごととされること。要するに『奇跡』は神の力いうことだ。
その時点で俺はもう『奇跡』自体を信じていない。だって、神などいるわけないから。
1日何千人の子供が死んでいっているこの世界に。
残酷で無情理な強者しか生きれないこんなクソな世界に。
神などいるわけがないだろ。
だから、俺は『奇跡』を信じない。
※※※※※※
「イ、イクトなの?本当にイクトなの?」
予想だにしない出来事で少し声が裏がってしまっているが、その声は万人の人が聞き惚れる声を持ち、世界三大美女があったら、間違えなく入っている老若男女全ての人を魅了する美貌を持った、このアインス王国の第1王女リュシルが本当に俺なのかを確認しに近づいてきた。
一方その頃、俺と同じのもう一人の…
「ねえ!イクト聞いてるの!?」
…近い。ホントに近い。
俺が向こうを見ている間にいつの間にか、鼻息がかかりそうな距離まで完璧なる美貌を近づいてきていた。
…なんていう破壊力。……。
…はっ。いかんいかん俺。落ち着け落ち着け。見とれてしまった。
てか、近い近いよ!
俺はすぐにリュシルから距離をとった。なんせこんな事は初めてだからどうするにもどうすればいいのかわからない。
…まあ、正直ドキドキした。
そんな話はいいとして、取り敢えずこの天候をどうにかしよう。いや、あまりにも寒すぎる。寒い。ホントに寒い。
そのためには…。
リュシルと藤崎花菜を正面衝突させる必要がある。
「心配してくれるのは嬉しいのだけど、俺ばかり気にしてていいの?」
そう言って俺はもう一人の藤崎花菜の方を見た。藤崎花菜はじっとこっちを見ていて様子を窺っていた。
今のうちに逃げればよかったのに。まあ、彼女は彼女なりの考えがあるのだろう。
「あっ!そうだった!」
リュシルはすっかり藤崎花菜の存在を思い出したみたいで、すぐさま立ち上がり、藤崎花菜の方を向いた。
「すぐに終わられるからイクトは後ろに下がっててね。」
俺の危険を心配してくれたのだろうが俺は今のこの吹雪の時点で、もう危険だけどね。だいたい……む?俺の後ろから…
「リュシル様ーー!!応援にきましたぞーーー!!!」
初老くらいの声だろうか。少しドスが効いている声が聞こえた。声の方へと見ると白を基調としている、戦闘服を着た国家防衛軍が数人があのわけのわからない生き物ピザに乗ってきてこっちの方へと来ている。
その声にリュシルと藤崎花菜は同時に気づき、ここで援軍が来ると圧倒的にリュシル側が有利になると踏んだ藤崎花菜が仕掛けた。
リュシルが援軍に気をとられている隙に、国家防衛軍が来ている出口の他にもう一つある路地へ繋がっている出口の方へと藤崎花菜は移動した。初速50㎞のスピードいや、それ以上に速いスピードで一気に出口へ近づいた。藤崎花菜はこれはイケるでも思っているだろう。口元が緩んでいることが確認できた。
が、リュシルはこれを見逃すわけがない。
藤崎花菜が向かっている出口にむけて、『アイスヘール』と言い放った。そうしたら、瞬時に出口を塞ぐように氷山ができた。魔法の力はとんでもない力だと再確認することができた。やはり魔法はチート。その認識で間違えてなかった。瞬時に氷が形成され、自分が思うがままに自在に変形、移動が可能。
核弾道ミサイル並みか、それ以上の脅威だと感じとれる。
出口が塞がれた藤崎花菜は塞がれたことに対して想定内だったのか出口が塞がれる前に既にもう一つの出口。国家防衛軍が向かってきている出口。へ進路を変更した。
これはまずいことになった。
なんせ俺がその出口の真ん中にいるからだ。
「あ!イクト!その子を捕まえて!!」
リュシルは俺がいるせいで魔法は使えない。完全に俺次第になってしまった。物凄いスピードでこっちに向かってきているのをどう捕まえろというんだ。いや、無理だろ。まあ、頑張ってみるか。
「どどどけけけけえええ!!!」
「アカーーーーン!!」
やっぱり無理だった。
いとも簡単に俺は藤崎花菜に吹き飛ばされた。
そして、今。俺は宙に浮いている。藤崎花菜が近づいてきたらとてつもない突風が吹いてきて、気づいたら宙に浮いていた。
恐らくあれが『風』の魔法だよな。
選ばれし者だけが扱える最強魔法か。なんだよ、触れることさえも許されないのかよ。
全くどんだけチートなんだよ。
この世界の魔法は。
そんな不満を溢しながら俺はまだ宙を浮いたまま彷徨い続けていた。