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16話 彼女の名

自由という言葉があるーーーーーーーー。

 他からの束縛を受けず、自分の思うままにふるまえること。これが自由だ。とても理想的な言葉だ。

 誰もが口に出したことがあるだろう。

 「自由になりたい。」と。

 だが、自由という言葉は存在しても、実際自由になれた人間なんていない。

 人間は完全な自由の下では困惑し、却って自ら支配されることを望む。

 自由からの逃走。

 人間っていう生き物は、自由を嫌うのだ。

 そして、無意識に人間は束縛をするようになる。それは、他人による束縛や、法による束縛。結局、人間は自由には生きられないのだ。

 じゃあ問おう。

 その自由とはいったいどうゆうことなのか。そもそも自由という概念はなんなのか。

 …さて、この話の続きはまた今度にしよう。時間が来てしまった。そろそろ、戻るとしようか。

 

 「じゃあ、代金はいいよな。オレは先に戻らせてもらう。」

 

 オレは席を立ってマスターへそう言って店を出た。

 

 「………さすがぁねぇ。」

 

 イクトが店を出たのを確認したマスターが薄微笑みを浮かべながら、楽しそうにグラスを磨け続けていたのであった。

 

 



 「おい!そっちに行ったぞ!」

 

 「逃がすな!!」

 

 ごった返す街中を数人の国家防衛軍が懸命に走っている。いや、追っている。

 

 「何言ってるのばーか!日本語で喋れよ!わかるわけないじゃん!」

 

 楽しそうに彼女はまさに風のように人混みを躱しながら走っていた。

 

 「…えっと。あっ、あったあった。ここの角を左っと。」

 

 彼女は大通りから入れ組んだ路地に入り込んだ。初めて来る人や土地勘が無い人は必ず迷子になってしまう路地を彼女は臆せずに走り続けた。

 彼女は藤崎花菜で大学の帰り道で異世界召還され、今はアインス王国国内重大危険人&国内重要指名手配者であることは彼女は知るわけもない。そんな彼女、藤崎花菜はただ今は国家防衛軍に追いかけてくるのを楽しそうに、また指示通りに走っているだけだった。

 

 「三つ目の十字路を右っと。」

 

 なんだか足が軽いなー。いや、体中が軽いなー。これだったらいつまでも走っていられるよ。

 藤崎花菜は軽やかにまた風のように路地を吹き抜けていく。

 

 「…そろそろあいつが言うには…。」

 

 藤崎花菜が何かをいいかけた時、

 

 「ここまでよ。召還者。観念なさい!」

 

 先回りしていた彼女は藤崎花菜を待ち構えていた。すぐさま彼女は準備していた、氷の上級魔法を放った。

 

 「『アイスタイム!』」

 

 その瞬間的彼女を中心とした直径20メートルの地面とその地面に接する物が瞬時に凍った。氷漬けだ。木や建物はもちろんのこと、草の一本まで全てが凍った。完全に初見殺しの魔法である。藤崎花菜もまた…。いや、藤崎花菜は凍っていなかった。

 

 「うひゃー!ホントだ!これが魔法か!凄いなー!」

 

 周りが瞬時に凍ったその景色に驚きながら凍った地面へと着地した。

 

 

 「くっ。悪運の強いお方なんですね。しかもこうも簡単に防ぐとは…。」

 

 この氷魔法を放った張本人の彼女は必勝の初見殺しを初見で破られた事に驚きつつ、藤崎花菜の運の良さに感心していた。

 この初見殺しの氷魔法『アイスタイム』は地面から凍る魔法。その魔法を防ぐ方法は簡単である。

 

 「偶然にも宙にいたなんて…」

 

 そう。放った瞬間に地面にいなければいいのだ。藤崎花菜は魔法が放たれた瞬間、偶然なのか少しジャンプしていて地上にいなかった。だから、この魔法は意味がなかったのだ。

 

 「流石だよ。私の十八番を破るなんて、けどね…。」

 

 すぐさま彼女は藤崎花菜の後ろへと回り込んだ。それは瞬間移動クラスの速さがあり、

 

 「ロック」

 

 彼女は氷魔法『ロック』を放った。彼女の手のひらから人1人が氷漬けできるまでの半透明の氷角が瞬間的にできた。そこまで1秒か2秒かかるかの速業。これもまた回避不能域の技である。彼女はこの技は確信していた。完全に捕まえたと。藤崎花菜が自分が回り込んでいるのに気づいた時には氷魔法を放っていたから。

 が、その期待はすぐに外れてしまった。藤崎花菜は氷漬けされていなかった。

 

 「ひやー。危ないよ!ホントに!」

 

 何故、そこにいる。

 

 彼女は驚きを隠せない。

 完璧だったはず…。なのに…。

 藤崎花菜は魔法が放たれた箇所から数メートル移動している。しかも藤崎花菜の口振りから、気づいてからだ。

 そんなはず…。だって、それだったら…。

 彼女は困惑していたが、あることを思い出した。

 藤崎花菜は風の魔法を使えると。

 なるほど。それだったら、辻褄があう。

 「驚きました。まさか『体空』がお使えるなんて。」

 

 「『体空』?それってなんなの?」

 

 藤崎花菜は初めて聞く言葉だ。タイクウ?なにそれ?おいしい?そのくらい見覚えもなければ全く知らない単語だった。

 

 「なるほど…。覚醒しているわけですね。そうなりますと、風が使えませんね。なるほど…。」

 

 彼女は少し考えこんで、物凄い真剣な眼差しで藤崎花菜を見た。

 その時、晴れていた空が急に雲行きが怪しくなってきて、雪が降りだしあげくの果てには吹雪になった。その異常気象に藤崎花菜は声も出なかった。直感だがその異常気象の原因がすぐ目の前にいるからだ。

 そして、その異常気象の根源となっている彼女言った。

 

 「試すような事をしてしまい、申し訳御座いませんでした。御詫びとしてこの第3代アインス王国第一王女。アーカシ・K・リュシルがあなたを全身全霊全力で捕まえますので。」

 

 荒れ狂う吹雪の中、紅に染まった瞳でリュシルはそう宣言したのだった。

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