15話 可能性
「ふーん。そういう経緯でここまで来たってわけね。」
俺は、この酒場までどうやってきたのかを事実のまま伝えた。そう事実だけ。流れゆくままにたどり着いたってね。そして、たどり着いた先にもう一人の転生者がいたという偶然も。
「けどさー、凄い偶然が重なってるね。流石、異世界って感じ。」
「……そうだな。」
まったくだ。都合が良すぎる偶然が重なり過ぎている。まるで、誰かが仕組んだ必然的な偶然のようだ。無理矢理にでも俺ら2人を合わせるように。
そんな事を思いながら、テーブルの向かい側に座って髪をクルクル手で回している茶髪かかったショートヘヤの少女。見た目から少し幼いイメージが感じとれるが、恐らくオレと年はそう変わらないだろう。オレのいくつかある仮定を元にそう判断した。あくまでも仮定だから迂闊に言ったりはできない。確信はあっても確定ではないから、今はその仮定を証明しようがない。だから、迂闊に言えないのだ。
まあ、その仮定が確定しても言ったりするのは別の問題だけど。
「…ここって一体どこだろうね。何で私たちだけ、異世界召喚させられたんだろうね。」
「…さあな。」
知るよしもない質問もされても困る。俺はこの少女よりはこの異世界の事を知ってはいるが、ほんの少しもいいところだ。ホントわからないだらけだ。いつかは、調べる必要があるな。
「あ。自己紹介してなかったね。私は、藤崎花菜。出身は九州。大学の帰りで突然召喚されました。」
さっきの幼い印象が全く消え、とても落ち着いていて、今の現象のことをしっかり理解して、受け止めている。そんな印象の自己紹介を藤崎花菜はしてきた。
まあ確かに自己紹介をしてなかったな。この異世界で出会った縁だ。
一応、俺もした方があとあとのためにもいいだろうな。
「オレは青木郁人。年は21。とある企業に就職していた。トイレに行きたくてトイレのドアを開けたら、異世界だった。」
「えっ。ちょっとまって。トイレのドアを開けたら、ホントに異世界だったの?」
「だから、ここにいるだろ。」
「ちょっとまって、めっちゃウケるんですけどw」
そりゃそうだよな。トイレのドアを開けたら異世界でしたって、どこにでもいけるドアかよ。今さらいってもどうしようもないけどね。
「しかも同じ年だし~w」
同じ年だったのか。まあこれに関してはあらかた予想していたからそこまでは驚かない。
それより…。
「何でここは室内なのにあんたを中心として妙な風が吹いているんだ?」
不自然にも目の前にいる藤崎花菜を取り巻くように微力ながら風が吹いている。
「それがわかんないんだよね。ここに来てからずっとこんな感じ。なんかこの現象について心当たりない?」
あるはある。
だが、それをいってはいいのは微妙なところだ。なんせオレには全くない能力だからな。ここは専門家に見てもらった方が確実だ。オレがどうこう言う事ではない。
「さあ…。わからないな。」
無駄に知ったかぶりするよりもわからないと言うほうが後々面倒なことにならない。
「そーだよねー。わかんないよね。けどさー、こうして異世界に来ているんだし、やっぱりモンスターとか倒したいし、王様とかもなってみたいよね。あ、私の場合は女王様か。」
考えてみれば異世界でこんなことしてみたいとか、考えてなかったな。いつも、異世界かなんかに召喚されねえかなと思っていただけだ。しかし、異世界に来て王になりたいとか実に面白いこと唐突に言い出したな。一応、理由を聞いてみるか。
「…何故、異世界で女王様になりたいの?」
「何故ってそりゃー。
……私がなりたいからさ。」
威風堂々。
その時、彼女を四字熟語で例えるとその言葉がぴったりはまっている。
それと同時に彼女を中心として取り巻くように吹いていた風がピタッと止んだ。
オレは不覚にも鳥肌が立ってしまった。
彼女の内に眠る大きな何かを感じ取ったからだ。
…面白い。
ここでもう1つ質問をしてみた。
「元いた世界に戻りたいか?」
「ない。」
即答。
予想通りの答えにオレはとてつもない可能性を感じた。
こいつなら、イケる。
とてつもなく面白くなってきた。
そして、オレは彼女に問いかけた。この彼女の内に秘めるとてつもない可能性に賭けて。
「…なあ。ちょっとした賭けをしてみないか?」