14話 想定範囲内
結局あれから色々と考えたあげく、右に向かって歩き続けることにした。人混みの流れに沿って。
正直右に行ってよかったかどうかはわからない。賭けに出た。もう直感で右を選んだ。だから、わからない。
ここの人混みはデパートとかの元いた日本の人混みの流れにどことなく似ている。
進行方向は右側。さらに言うなら、道の真ん中はあのピザという動物が積み荷を引いている道がある。その荷車も道を右側通行している。
律儀だなと思いつつ人混みの流れに沿って流れていく。
色んな人が人種がいるため、ユユを探すのも困難を極める。普通の人間や獣人に猫人間。数えるとキリがない。だから、よく人を見る必要がある。
……。
………。
何やら、やたらさっきからトカゲみたいな獣人と目が合うのだが。ここは当然無視しよう。
…。…めっちゃ見てる。いや、じっと見すぎだろ。さっきから。なにか俺の顔にでもついているのか?あんなに見られたらなんか気になるよな…。ここは少し距離を置いてみるか。
やたらこっちを見ているトカゲみたいな獣人からかなり距離を置いてみた。しかもこの人混みのなかだ。簡単に俺はその獣人を見失った。
さて、やっとしっかりとユユを探せるな。そう思った矢先。
……まったく。こっちみんな。
どうやらあの獣人は流れゆく人混みをかけ避けながら、俺を見つけてきて、またこっちを見ている。しかもだんだんと俺に近づいてきているじゃないか。
俺の直感がただならぬ危険、いや関わったら厄介事になるのを感じとっている。ここは走って逃げるしかないな。そう思った俺はすぐさま、ごった返す人混みをすり抜ける風のようにスルりと人混みを避けて走った。そのまま、まっすぐ体力の有る限り走り続けた。
その結果。
「…どこだ、ここ。」
そこはごった返した人混みは無く、人の気配すらない。中心街みたいに整備されていないただの砂利道だ。周りには農業でもやってるのか田んぼらしき広大な農地しかない。
どうやら、街の端に来てしまったようだ。まあ目的が街の端に行くことだったから結果はオーライか。最終的にはあの獣人から逃げた先が街の端だったのだが、結果が同じならそこまでの過程はどうでもいい。
しばらく、歩くとするか。
次の目的である、街外れにある酒場を探すために歩きだした。果たして、今いる街の端の方に酒場があるのかはわからないままだが。
緩かな登り坂を歩きながら、地図をもう一度開いて確認してみた。
「『酒』と書かれてある建物は…ここにあるだろ。そして、そこに続いている道は……ん?」
俺はある喜ばしい事実に気づいた。
「ちょっと待て。もしかして…」
俺は緩かな坂になっている砂利道を走り出した。
そしてその坂道の頂上にたどり着くと…。
「…やはりな。」
ここから150、200メートルぐらい先にポツンと建物が1つ確認することができた。
それが確認できたオレは緩かな下り坂の砂利道を歩きだした。
もうここまで来れば確信しかなかった。今のところは想定範囲内。あの獣人も想定範囲といえば想定範囲内だ。
恐らくあの獣人は騎士団の1人。なんだっけ?アインス騎士団だっけ?よくは覚えていないが、もう1人の召喚者だっけ?なぜ召喚者と言われているのかよくわからない。そもそもこの場合は転生者の方が妥当だと思うが。
まあそんなことは正直それほど興味が無いからどうでもいいとして、昨日からその騎士団がオレと同じ境遇にいるもう1人の同胞を探している。しかも王都をくまなく。
だから、オレはあの時疑いを一方的にかけられた。確かに王都では、オレみたいな普通の人間いや、人種と言うべきかな。普通の人種は一目でわかる。だから、あのトカゲの獣人は声をかけようして近づいてきたわけだ。
あるいは…。
いや、流石にそこまではないか。
考え過ぎか。そんな事を思いながら歩いていたらいつの間にか、例の酒場の前まできていた。木造の二階建ての建物。一階は酒場で二階は見たところ店主の住み場かな?
そして、木の色合いからして、20年近く立っているのが伺える。
こうして店の前で突っ立っているのも何だしそろそろ店の中に入るとするとしよう。恐る恐るとドアを引いて店内へと入る。そこには、酒場だと思っていたが店の中の雰囲気はどちらかというとbarだな。そして、カウンターにはマスターらしき人がグラスを磨いていた。
おしゃれな店だなと思いながら店の中へと入っていった。そしたらそのマスターがオレの存在に気づいた。と、同時に嬉しそうに残念がっていた。しかもかなりのオーバーリアクションで。
そのマスターのリアクションを見たオレは今まで何一つ繋がりもないバラバラだった仮定が全て繋がってしまった瞬間だった。