13話 人はこれを迷子と呼ぶ
「……こりゃ参ったな。」
駄目だ。
さっぱりわからん。
なんか中世のヨーロッパとかにありそうなレンガを使ったこの家さっきも見た気がするのだが、いやこの街全体がそういった造りになっているのか。もしかしたらラビットが名前につく喫茶店があるかもしれない。そう思ったら少しは気が晴れるが、状況は変わらない。
そう。
俺は今、迷子だ。
ホント犬のお巡りさんもワンワン泣き出しそうな位の迷子だ。何故そうなってしまったというと…。
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「イクト君。まだですか?」
「…あと、もうちょい。」
「もう…。あと少しですよ。…それにしても好きなんですね。」
「…まあ。」
俺は今、店の外にある展示用の戦闘機のプラモを見ていた。まさかの異世界でプラモ自体がお目にかかると思っていなかったから、見つけた瞬間は、三度見してしまった。
決め細かなところまで、忠実にまた丁寧に仕上げを施しているところを見るとやはり俺が知っているあのプラモだ。
…。
……。
……欲しいな。
プラモ自体は俺は好きか嫌いかと言うと好きな方に入る。だが、そこまで熱狂的ではない。せいぜい、10個か20個くらいしか作ったことがない。まあその作ったプラモは全て戦闘機だけどね。俺の戦闘機プラモコレクションに是非ともこのプラモも追加したい。と、言っても流石に今は無理だろうな。…諦めるしかないか。はあ…。 まあここは切り替えて、ユユを待たせてしまっているし、そろそろ戻るか。
…。
……。
………あれ?
ユユがいない。
まあ、ここは王都の中心街でこの人混みの中だ。そう簡単には見つからないのも無理ないか。さて、どっから探すか…。
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探し始めて軽く1時間はたっただろう。
ホントに参った。
建物が似たような造りのせいで、今自分がどこにいるのかもわからない。一応、ユユに今日行く場所と王都の地図を渡されいるが、なにしろ読めない。
そりゃそうだわ。
ここ異世界の地に来たのは昨日だからな。まだこの地は未知な地であってわからなくて当然だろ。
……はあ。困ったな。まあ少し一休みでもして、どうするか考えるとするか。どこか休めるところはないかな?
周りをキョロキョロと見渡すと、果物屋らしき店と武器屋みたいな店の間に路地があり、またそこには小さな段差があった。そこなら、座れて休めるなと思い、人ごみを華麗に避けながらその段差にたどり着き腰かけた。
はあ…。まったく…。人ごみは疲れるな。なんかすれ違う時に色んな人の視線を感じたのだが。やっぱりこの服のせいだな。王都だったら変じゃないのかと疑問があったがまさしく的中したな。けど、使用人の服がおかしいとはな…。ま、いいか。…けど、王都に来て異世界に来たんだなとやっと思えるようになったな。王都には猫耳が生えた人がいたり、獣人がいたりと、異世界のテンプレがようやく拝めてよかった。…いや、よくねーな。この状況をどうにかしなければ。この地図を見る限り…。
…うん。
…だめだ、わかんねえ。だいたいわかるわけねぇだろ。全く…。はぁ…。
…
……。
ぼーっと、全くわからない文字で書かれてある地図を眺めていたら、なにか見慣れた文字が目に止まった。
その地図には小さく書かれていたが、気づくと異物が混入している違和感しか感じない。だってそれは知っている文字だったからだ。
そう。
それは、『酒』
と、書かれた文字があったからだ。
しかも、丸印がつけてあり、この丸印はユユが今日の買い出しに行く店を印をつけたものだ。
沈んでいた気持ちが一気に晴れやかになった。学校で例えるなら、嫌な授業が突然自習になった。そんな感じの晴れやかさだな。
さて、そうと決まれば、この地図に書いてある『酒』。ようするに酒場に行けばこの危機を乗り越えられるな。
よっこらせっ。と立ち上がり、その酒場に向かおうと思ったその時、この危機を乗り越えられると思った自分が間違えだったと、根本的な理由で気づくハメになった。
「あ…。俺今どこにいるかわかねえから、酒場に行くのも無理じゃん。」
そうして、また振り出しに戻るのであった。