大臣と王様「王様、魔王の宝珠を発見しました!」
1000年前、この世界には魔王がいた。その力は強く、天が割れ地を裂くほどだった。
魔王の力に全人類は恐怖した。
そんな魔王にも必ず滅びの時は来る。
果たして、それは寿命だったのかそれとも別の強者によって滅ぼされたのか。
しかし、魔王の肉体が滅んだとしてもその魔力は滅びることなく残ってしまった。
今でも魔力は宝珠の形となり存在し続ける。
宝珠を解放した者は魔王の力を手に入れることができだろう。
「つまりその文献にある宝珠を見つけたというのだな」
「その通りです王様。まったく我が国の騎士団の優秀さには頭が下がりますな。」
そう言いながら私の前に大臣が一つの宝珠を掲げて見せる。
確かにその宝珠は手のひらにおさまるほどの小ささにも関わらず、
王であるこの私にして見たことがない妖しい輝きを放つ代物だ。しかし、逆にそれが疑わしい。
こいつ、騎士団のさぼりの言い訳を真に受けてるだけなんじゃないだろうか。
俺の疑わし気なまなざしに気が付いた大臣がニヤリと笑う。
「ほっほっほ、どうやら王様はこの宝珠をお疑いのご様子。
でしたらこの大臣めが王様の疑いを晴らして差し上げましょう。」
そういって大臣が宝珠を両手の指先でつかむ、精神集中をするように目をつむり数分の沈黙の後、その宝珠が大臣の手の中で二つに分裂した。
割れたのではなく、完全にさっきと同じ球が大きさも変わらず二つになって現れた。
「ご覧ください王様。
この宝珠はですな、魔力を注ぎますとこのように二つに分裂させることができるのです。
勿論どちらも本物ですぞ。さぁ手にとって王様もお試しください。
まぁ私のように一瞬で分裂させようと思うと少々の練習が必要ですがな。」
そう言って得意げな顔をした大臣が目の前でポンポンと宝珠を増やしていく。
大臣のやつめ…、どうやら最初に分裂させたときの沈黙はわざとだったようだ。
大臣の自慢げな顔にむかついた私はなんとか驚きの声を上げるのをこらえる。
確かにこんな不思議な宝珠は見たことがない。
伝説の宝珠が目の前で増えていく様子はなんとなくありがたみが減っていくような気もするが…。
試しに手渡された宝珠に魔力を注ぐと大臣の手の中で起こったのと同じように二つに分裂した。
「ふむ、なるほどな。これが本物であるというなら、今後わが国は伝説の魔王の力を操ることができるということか。大臣よ、まさかとは思うがその宝珠の使い方がわからんなどとは申すまいな。」
そう尋ねると大臣はさらに笑みを深めた。「ニヤリ」を超えて「ニィヤァリ」という感じだ。
「勿論でございます王様。
この宝珠から力を解放するための条件についても古文書に書かれておりました。
すでに翻訳も終わっております。」
大臣が宝珠について書かれた古文書を懐からとりだす。
「コホン、文献によりますとこの宝珠は直接魔力を注ぐことが呼び水となり、封じられた魔力を解放すると書いてありますな。
しかし、魔力を注ぐのはたった一人で、しかも一度きりで行わねばならないようです。
そして注ぐ魔力の量も重要でございますな。
もし、それを間違えれば宝珠は魔力を解放することなく二つに増えるとあります」
つまり、先ほど大臣が宝珠の数を増やしてみせたのは、宝珠の解放の失敗だったというわけか。
「それで大臣よ注ぐ魔力の量というのいかほどか?」
尋ねるが、大臣の言葉は返ってこない。
先ほどまでの余裕の顔もどこかに行ってしまいなぜか脂汗が頬をつたっている。
「どうした大臣。この宝珠から魔力を解放するにはどれほどの魔力が必要なのだ?」
もう一度尋ねると顔色の悪い大臣がしどろもどろに返してきた。
「えぇとですな、文献によりますと…。
全ての宝珠に注がれた魔力の総量を超えた魔力を注いだ時、宝珠は解放され、その力を発揮するだろうと書かれております」
今こいつは何と言った?
「…大臣よ、つかぬことを聞くがこの宝珠は今一体いくつあるのだ?」
目の前には大臣のせいで増えた宝珠が相当の数転がっている。
そのうちの一部には私が試しに増やした分も含まれているが…
まぁ、大臣が増やした数からすれば微々たるものだろう。
「…そうですな。城中で試しただけでおよそ100には増えました。そのうえ1000年も前からあるわけですから、その数は途方もつきません。」
つまり宝珠を解放するためには少なくとも宝珠100個分の魔力をたった一人で注がねばならんというわけだな。しかも今この瞬間にもどこか知らぬ土地で本物の宝珠は増え続け、その必要量を増やしているかもしれんいうわけか…。
私はその宝珠を指の中で転がしながら、自分がもつ最大の魔力を注いでみた。
勿論魔力量は足りず手の中で宝珠は二つに増える。
「それだけ魔力があるなら魔王になんぞ頼るか!」
そう叫んだ私は持ってた宝珠へ怒りを込めて壁にたたきつけた。
勿論1000年を耐えた宝珠がその程度で壊れることはなく、壁ではねた二つの宝珠は大臣と私の額にちょうど直撃し、二人して頭を抱えることになった。