08 王子の笑いのツボを探る会
翌日、午前最後の授業は防衛科の魔法座学だった。私の魔法の適正はほどほど。しかしジビラが案外高い適性を持っている。
隣りに席をとっているのはいつものことなので、これ幸いと双六のことを小声で話し合う。一応の準備は出来たようで、折りたたまれた紙を渡された。ジビラが少し眠そうなので、今度何かで労わねば。
紙のサイズは前世でいうところのA4くらいだ。本当はもっと大きくてもよいのだが、持ち運びしやすいサイズで作ってくれたらしい。駒は今回は丸い厚紙に色をつけてくりぬいたものを使うらしい。そのうち改良したい。
マスの中にはユッテたちも手伝ったのだろう、三種類の字で冒険の中身が書かれていた。最初の方は騎士と魔法師が喧嘩して一回休み、村人のおいしい食事で二マス進む、など他愛のない内容だ。それから中盤、終盤にかけて、魔王が魔力暴走を起こして二回休み、王都への魔獣の進行を止めるため三マス戻る、など少しずつあり得るかもしれない事象を含ませている。
しかしこれは魔王が駒に選ばれること前提なものが多い。普通に考えたら王様や王子とか騎士を選ぶだろう。失敗したかもしれない。
「大丈夫」
するとジビラが別の紙を取り出した。そこには遊び方が書いてあるようだ。
【これは王子がいつの日か魔王の手を取る日を望む物語である】
と、その一文から始まる遊び方には王子と魔王の駒が必ずあることで双六が始められることになっていた。どうやらユッテたちも途中で気づいたらしい。うまいこと考えたものだ。しかも物語というからには話を追いたくなる。
まだ試作ということを踏まえて、王子たちには遊んでもらおう。
昼休みに入ると、呼ばれたのは食堂の個室である。実は個室があるのだが、予約は身分の高い方々が軒並みおさえていて、私も入ったのは初めてだ。
今回は気軽に話したいから、とメンバーは王子以外はディーター様だけだった。クラスメイトとして親睦を深めたいということだろう。ホルトハウスには特に王族が羨むものがないからな。
「食事はこちらで準備しているからゆっくりしていくといいよ」
穏やかな笑みで迎えてくれた王子が鈴を鳴らすと音もなくメイドが机の上にお皿を並べ始めた。メニューは基本食よりもやはりグレードが高いらしい。
「個室は初めてかい」
私のお腹が輝く料理に鳴き出すと、笑いながら教えてくれた。
個室といえど本当は基本食なのだが、オプションとしてメイドをつけ、食事を変えてくれるらしい。王子であればきっとタダだろうと思ったらメイドは了解をとりつけているが、食事は自腹らしい。本当意外とがめついな、この学校。
「ライ、先に食べよう」
ディーター様が席に着くと、私も倣う。
「そうだね。まずは腹ごしらえだね」
食事はきちんとした味付けで美味であった。スパイスを足す必要は全くなかった。いつもの食事もけして美味しくないわけではないが、こちらを食べてしまうと物足りなくなりそうだ。危険である。
そしてデザートがなんといっても素晴らしかった。イチゴのミルフィーユとイチゴアイス、絶品。にこにこして食べる私を王子は楽しそうに、ディーター様はひきつりながら見ていた。
「イチゴ君はエーアトベーレが本当に好きだね」
「甘さの中に酸味があるものが好きなんですよ。うちの領地でもベリーなんかはいくつか採れますが、大体酸味が勝つので甘みという美味さに心から感謝したいです」
食べ物への賛辞ならいくらでもしたい。
甘味じゃなくたって、グレードアップのランチも私にはなかなか手が出ないものだ。しがない田舎貴族にはせいぜいデザート足すのが関の山。
食材は基本食と同じものなのに、いつもの少し固めのパンはふわふわの胡桃パンになり、ただ焼いただけの肉はやわらかくよい香りが口の中に広がる。スープだっていつもは野菜スープ一択なのにじっくり煮込んだポタージュスープだ。
「それにご飯が美味しいと怒りも和らぐし、気分も落ち着くものです」
美味しい料理は正義だ。こればかりは誰にも覆されない絶対だと思う。
胸を張って答えると王子は我慢できなかったのか、ついに机をバンバン叩き始めた。ひぃひぃと漏れる笑い声に目を瞬く。
「ライ」
「ディー、ほら、これだよ。イチゴ君を気に入っている理由。面白いだろう、彼は」
嗜めるディーター様にまだ唇をふよふよさせながら王子は告げる。どうやら本当に気に入られていたらしい。
「……すまん、ホルトハウス。ライはこうなるとなかなか笑いが引かないんだ」
もしかしなくても笑い上戸か。
「スヴェン、でいいですよ」
「そうか、スヴェン。ありがとう。今日は君のことがライの傍に居ても問題ないか、確認したかったんだが、よさそうだ。時々でいいから、こうやってライを笑わせてやってくれ」
「ディー、別に笑わせなくていいから。ただ時々一緒に食事でもしてくれるといいな。君といるとあんまり身分にこだわらなくてよさそうだ」
とりあえず侍るには問題ないとお墨付きをいただいたが、何がそんなにツボなんだ。こちらにとって都合がよいことは確かなので、しっかり便乗させてもらうが。
「領地が田舎なもんで、平民の子どもと一緒に育ったんですよ。だから、少しの無礼には目を瞑ってくださいね」
にやっと笑ってやると、王子だけでなくディーター様も笑ってくれた。なかなか退屈はしなさそうだ。
双六までいかなかった。
主人公のイチゴラブは主に私のせいです。




