27 侮られるのは許容しても、承知はしない
爺先生の講義以外は基本的に今までと変わらない。それはつまり合同授業もいつも通りということだ。突然の避難誘導や不審者の侵入、技師技能科の暴走、急遽始まる個人的な喧嘩など、結構色々あった前期だ。後期最初の講義はどうかというと、至極穏やかである。というか今回はいつも護衛として佇む私たちが接待を受けている。
講義の内容としては、騎士として招待を受けた時のマナーだ。そして今回はどちらかというと、家政科の実習と経営科の対応が講義内容のようだ。おかげでいつもより私たちは気が休んでいる。ただし相手は三年の家政科と二年の経営科だ。顔見知りがそういるわけではない私は少々落ち着かないし、王子の対応に当たった人は何もする前から胃をおさえていた。
「可哀想だなあ」
他人事のように呟けば、相席しているティモも私の視線を追って同情を見せた。
経営科は防衛科の相手を二人指名する。そしてその相手の情報を得るよう会話を進めるのだ。
「それは同意するな」
ティモは最初に指名してきた。慣れているというのが大きいのだろう。
「ティモは王子を指名しないの?」
「してもよいのだが、どうも罰ゲームのような扱いになっていてな。あれで殿下も楽しんでいるようだから指名はしないつもりだ」
そう言いながらホルトハウス領の現状を聞いてくる。それくらいならば全然問題はない。
「そういえばチーム戦をしているようだな」
「科が違っても知ってるのか」
「毎年後期になると防衛科の者たちは大変そうだからな。ちなみに二年も三年もやるんだぞ。こういう時は経営科でよかった、と思っている」
しみじみと呟くティモにひどい、と思う。しかし毎年なのかと少し絶望した。まさかこのチームのまま、ということはないだろうが。カールが嫌いなわけではないが、普通に私にも参加させてもらえる講義にしてほしい。
「家政科のフィッシャーだったな」
ティモが意味ありげに問うてくる。
「何か問題?」
「いや、……以前に防衛科三年の講義に駆り出されていたのを見たんだ。生徒の魔法攻撃をすべて弾いていた。なんで家政科なのかと思ってな」
魔力が多いらしいとはきいたが、すべてとはなんだろう。どれだけ化け物なんだ、それは。
首をひねる私に頑張れ、と苦笑いを浮かべてティモは席を離れた。結局彼より私の方が情報をもらった気がする。
二人目は初めましての女性だった。
「マルタ・ガストよ。初めまして」
「スヴェン・ホルトハウスです。よろしくお願いいたします」
経営科に女生徒はそう多くない。女性の官吏もいるので、多くはないが特に問題があるわけではない。ただ自分がなるという意思を持つか、事情があって次代を担わなければという状況でなければ、大体男が多い。それなりに前は仕事で充実していたことを思うと、もっと女性が活躍していてもいいと思う。
「ホルトハウス君とは一度話してみたかったんだ」
「それは光栄です。何か聞きたいことでもあるんですか?」
ガスト先輩は目を輝かせて首を縦に振った。私よりも随分ちんまりした先輩は小動物のようでかわいらしい。
「殿下と仲良くなったんでしょう? あとローザリンデ様とどんなことをいつも話しているのかな、と思って」
興味津々な様子の先輩に少し困る。
「どんな、と言われましても……」
「まずは殿下の普段の様子を教えてよ。教室で皆と仲良くしてる? 誰と仲良し? どんなことが好きそう?」
矢継ぎ早にかけられる質問に当たり障りのない程度で答えることにする。
「真面目に受講されていますよ。一緒に居るのはやはりディーター・アンハイサーですかね。よく和やかに話をされています。級友たちにもやさしく話をしてくださいますよ」
ガスト先輩はふんふん、と頷いている。こんな情報で喜ぶなんてどれだけ王子のファンなのか。
「あと意外と笑い上戸ですよ」
「ええ!」
これくらいはいいかな、と付け加えるとますます楽しそうだ。申し訳ないが王子様には少し犠牲になっていただこう。そう思っていたのだが、急に先輩は口を噤んだ。
「スヴェン、あんまりこいつに情報を流すな」
背後に立ったのはディーターだ。
「なんで?」
「校内新聞作ってる奴だ」
「あー……、なるほど」
先輩をひと睨みして、ディーターは去って行った。わざわざそれだけの為に来たらしい。視線を戻せば小さくなっているガスト先輩がいる。
「ごめんねぇ~」
「あはは、怒られちゃいましたね」
ガスト先輩は新聞サークルのメンバーで、今回の講義にこれ幸いとネタを探しに私を指名したらしい。単純に武術トーナメントでの興味もあったようだが。
「でも君、ほとんど有用なこと話してくれないね。これは殿下もいい子を見つけたもんだ。笑い上戸、ていうのは初めて聞いたけどね」
謝りながらも残念そうに口を尖らせる。
「本当はローザリンデ様についても聞きたいんだけど……ダメ?」
自分の見せ方をよくわかっている女性だ。ガスト先輩は小さくて可愛らしい。そんな人から上目づかいで見られたら、ぐらっときちゃう人もいるんじゃないか。
「ローザリンデ嬢のことはさすがに話せませんよ。私たちのお茶会について気になるんでしょうけど、我慢してください」
「そこを何とか」
「駄目ですよ。私の信用に関わります」
うるうると瞳を滲ませるカワイイ先輩だが、演技とわかっていれば騙されようもない。ただ少し可哀想にも思ったので一つ条件を出す。
「では私の嬉しい情報をもらえたら、簡単にサロンでどんなことをしているのか、教えて差し上げます」
「う、嬉しい情報?」
今一番欲しい情報はチーム戦のものだ。先輩はうんうん唸って考えている。しかし無情にも講義終了の時間が迫っていることに私は気づいていた。
家政科の先輩にいれてもらったお茶を飲み、ついでに美味しかったので何のお茶かを聞いた。笑って私たちを眺めていた家政科の先輩は、快く教えてくた。その後すぐに実習は終了した。
「嘘っ! ホルトハウス君、ねえ、猶予ちょうだい! 君の欲しい情報を仕入れたら真っ先に行くから、簡単でもいいからサロンでのこと教えてよね!」
「私が満足するものでしたら」
「絶対だからね! 絶対行くわよ!」
小さい体で飛び跳ねながら、ガスト先輩は去って行った。
でも、私が渡せる情報はお菓子の試食会、というものなのだけど。彼女が怒らないかが不安である。
その時は素直に謝ろう。
タイトルが毎度うまくいかないなー




