24 魔法師でないと言いながら魔法師以上とはこれ如何
カール・フィッシャーと名乗った教師は本当に若かった。まだ二十三歳。このハーゼンバイン王立学校の卒業生でもあるらしいが、この若さで教師になれたということはかなり優秀なのだろうか。
「……ええと、ホルトハウス」
「スヴェンでいいですよ」
他のチームは和気藹々としているが、こちとら二人しかいない。和やかムードなど皆無だ。戸惑いからの手探り状態だ。
「一つ聞きたいことがあったんだが……」
ひどく言いにくそうに口ごもるカールに不思議に思う。今まで相対したことはないはずだ。それとも知らないうちに接触していたのか。
「……お前が双六を作ったのか?」
「は? そうですが?」
予想外な質問だ。質問の理由がよくわからない。何かもごもごと口の中でぼやいているが、はっきりと口にしない。
「なにか?」
「……いや……もういい」
疑問があるなら聞いて欲しいとこちらから振ってみたが、カールはやはり口ごもる。なんかすごく疲れた顔をしているが聞くのはやめるらしい。
「講義内容に戻る」
無理矢理話題を変えた彼はひとまず自己紹介を始めた。カール・フィッシャー、なんと防衛科ではなく家政科の教師だという。ただ講義は持っておらず補助として色々な教師にこきつかわれているようだ。今回防衛科の講義に参加する羽目になったのは自分の魔力の高さのためらしい。
「事情があるんだ」
「はあ」
高い魔力を制御する術を学ぶという目的もあり、卒業後まだ学校に留まっているらしい。ちなみに家政科の講義はきちんと履修しているので出るとこに出れば、きちんとした応対は出来るらしい。今は私が相手なのでその能力は発揮しないといわれた。
肝心の講義内容であるが、今回は見ての通りチーム戦である。各チームごとに達成目標は異なっているという。私とカールの達成目標は武術トーナメントで使ったような魔法陣で他チームに勝つ、というものである。しかも全チームに。
不利じゃないかと抗議したが、一チーム負かせばとりあえず単位はくれるらしい。そう考えると他のチームもきっと同じような条件が課されているのだろう。勝利条件はわかったが、講義中でなければ勝敗はつけてもらえない。事前準備が必須だと考えると二人なのはやはり不公平な気がするが。
「魔力なら貸してやる。実験も兼ねてなんだろ。オレとお前の陣の」
渋面を作るとカールが目をそらしつつ答える。
「オレの魔力は多すぎてな。減らせるなら歓迎するよ」
「そんなに?まあ、私は魔力が多い方じゃないから助かるけど。それにしても魔法師じゃないのに魔法師の真似事して大丈夫なんですか」
「そこは気にするな。魔法師ではないが、本職の奴らに引けはとらない」
そこで初めて笑みらしいものを浮かべた。若干悪どいものだったが、昔何かあったのだろう。とりあえず一々畏まった態度も必要ない、と言われたのでもう砕けた口調で押し通す。あまり教師ぽくないせいか年上の友人ができたようだ。
ひとまず今日のところは私が武術トーナメントで何をしたか、と他愛ない話をして終わった。観戦はしていたらしく、カールもそこは興味を持っていた。だが実際にしていたことを話すととても地味だな、と感想を頂いた。
「まずはその仕組みとどうやって勝てるように作戦を立てるかが問題か」
最初はやる気がなさそうだったが、やはり気にはなるようだ。実験に少しだけ積極的だ。
「あとでコロ商会の幼馴染にも声かけときますよ。作ってもらわないと私たちだけでは多分難しいので」
「うむ。経費で落とせるように教官に伝えておく」
「お願いします」
次の講義までに私たちは作戦を考えることに決めて、別れた。
放課後、ローザリンデ嬢からサロンへの招待を受けた。要件は十中八九転校生のことだろう。久方ぶりのお茶会に赴けば、いつものメンバーが揃っていた。ちなみに今日のお菓子はわらびもちらしい。
「来たわね」
「朝はゆっくりお話し出来ませんでしたからね。彼女のことでしょう? 家政科ではどうでした?」
ヒロインは彼女だろう。
エリーゼ・ハック子爵令嬢。先ほど会った限りでは引っ込み思案なように見えたが。
「そうですわね。おとなしくしてましたわ。まだ勝手がわからないようで、おどおどしてましたけど」
「ねえ、ローザ様、エリーゼさんはわたしたちとは違うんですよね」
家政科であるクリスタとユッテは一緒に講義を受けて、違うと判断したようだ。ジビラと私は接触がなさすぎて判断できない。おとなしく彼女たちの会話を聞いている。
「……ええ。休みが明ける前に会ってから言動を見ていました。またいくつか質問も浴びせてみましたがほぼ間違いなくわたくしたちとは別ですわ」
ローザリンデ嬢は休みが明ける少し前に引き合わされたという。そしてまずは敵対しないように、刺激しないように、とやさしく対応したらしい。おかげですぐに彼女はローザリンデを信頼した。
「あの、怯えていた様子だったのは慣れていなかったからでしょうか」
「あれは彼女の性格もあるようですわ。元々主張の控えめな子なのと、母親が亡くなってしまったことで心の支えがなくなっているのよ。平民から貴族になってしまったことで色々精神的にきているの」
質問したジビラも控えめではあるが、元々貴族であるし、彼女の両親は健在だ。
「もう少し学校に慣れれば、不安は減ると思うわ」
エリーゼ嬢が母親を亡くしたのはまだ半年ほどのことだという。母を亡くした代わりに父に迎えられたのは、生きていくということにおいてはよかっただろう。だが平民から貴族になるということは大変だ。崖っぷち貴族の私だとて、平民と同じように生活していてもまったく同じではない。すべてにおいて責任を求められるのだ。上に話を任せてしまえ、と投げることは簡単に出来ない。
「貴族の常識については勉強中ね。家政科ならある程度の常識も身に付くと思うから、彼女の頑張りにかけるしかないわ。でも、そうじゃなくてね。わたくしが一番気になるのは、それでも彼女は殿下たちを魅了するか、という点よ」
ヒロインで間違いないだろうエリーゼ・ハック。
しかしヒロインという自覚はなくともゲームのように王子たちを落としていくのか。
確かにそれは、とっても重要だ。




