22 クリスタ・アイルツの世話焼き
学校で仲良しなお友達なんてできるかしら、と入る前は悩んでもいたけれど取り越し苦労でしたわ。初日からかましてくれたイチゴ君に目が飛び出るかと思いました。そしてすぐにユッテが動いたことでわたくしも知ることができた。転生なんて夢物語が存在していいとはね。
ユッテとジビラは秘密を知る大事なお友達になったわ。ただイチゴ君は大事だけど、わたくしにとっては利用してもいいお友達かしら。当人もわたくしの性格を把握してきたみたいだもの、せっかく害のない異性の友達なのだから使わせていただきたいわ。
長期休暇は王子たちの日程からずらして、わたくしたちもホルトハウス領へ向かいました。ユッテが意地を張って行かないと駄々を捏ねたりもしたけれど、行ったら行ったでイチゴ君に請われるまま色んな料理を教えていたわ。素直じゃないわね。ジビラは二人の様子にホッとしていたから、休暇前に驚かせ過ぎたわね。あの子はいまの穏やかな関係が変わることを恐れていた。それでも最初に異性であることをきちんと認識させておかないと、イチゴ君を利用して近づかれることもあるからね。イチゴ君は一応わかっているみたいだから、わたくしたちといるときは周りを見てくれている。紹介してほしい、という話があるのも知っている。けれど未だに紹介されたのはイチゴ君のルームメイトくらいだ。守られていることは気づいている。
「ここはゆったりした時間が流れているよね。気持ちいいなあ」
ユッテが長椅子に背を預けるとイチゴ君の表情が和らぐ。
「気に入ってくれたなら嬉しいよ。そうだ、後で兄が挨拶したいそうなんだ。連れてきていいかな」
「お、お兄さん? なんで?」
凭れた背をシャッと戻すユッテには生憎だが、おそらく双六のこととか仲良くしてることへの感謝だろう。双六はわたくしたちの手を借りたことを伝えた、と言っていた。あれは雨の日はもちろん、寝る前の一勝負としてなかなか遊んでくれているらしい。
「ホルトハウスのことに親身になってくれたからね。とても助かったんだ」
やはり双六のことらしい。
そういえばイチゴ君には兄が二人いて、どちらも領内で基盤を作ることを考えているらしい。だからイチゴ君は外に出ることを考えているのだろう。これはユッテにとって喜ばしいことになるのだろうか。
イチゴ君の兄という人は翌日会うことが出来た。上のお兄さんはやさしそう、というか少し心配になるくらい細い人だった。これでも太い方だと言ったイチゴ君の言葉は本当だったらしい。ちなみに下のお兄さんも細いが、そちらは筋肉がしっかりついているのがわかる。防衛科だったそうなので、次期領主としてよりも領内の警備担当なのだろう。三人並ぶと表情がよく似ている。ふっと薄い笑みを浮かべた時など特に。
「色々と弟が世話になったと聞いている。感謝申し上げる」
長兄は少々堅苦しいようだ。領内に立つ立場ならばそれも仕方ないことだろう。ユッテとジビラは案の定固まっていた。
「それに皆美人なお嬢ちゃんたちだな。我が弟ながら羨ましい」
人好きのする笑みの次兄はその弟の頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜていた。力の強さにイチゴ君の頭が揺れに揺れていた。
「滞在する間に、よければ学校での様子を教えてくれるとうれしいな」
社交辞令のようにも思えるその言葉は思いの外、真剣な色を持っていた。きっと武術トーナメントや王子の滞在でやってしまったことを知りたいのだろう。差支えのない程度に情報を流すことにしよう。ユッテたちも少し呆れた顔でイチゴ君を見ていた。当の本人は、そんな恥ずかしいことはやめてよね、と呑気なものだったが。
さて、楽しい旅行ももう最後となった夜に、わたくしは三人に時間をとってもらった。
ローザリンデ様からの伝言をしなければならない。先にホルトハウスへ来たローザリンデ様はどうしても機会を得られなかった、と手紙を寄越してきた。
「ヒロインが転校してくるわ」
わたくしはローザリンデ様からの手紙を机の上に広げる。内容はハック子爵の娘として後記から学校に来るだろうということだ。まだ本人には会っていないが、公爵から不足がないように手を貸してやってほしい、と言葉を頂いたらしい。
「でもマルトリッツ公爵様はハック子爵の娘なんて構わないでいいんじゃないのか。身分差が激しいだろ」
「イチゴ君、それはゲームの設定でね。公爵様とハック子爵は実は身分を超えた親友というやつなのですよ」
ユッテが頬を掻く。そう、設定なのだ。まさかここでその設定くるんだ、とわたくしも思ったわ。
「うーん、でもまだ会ってないならどんな子かわからないと動けないね」
せめて性格がわかれば、とジビラも呻く。素直で害がなさそうならば特に問題はないのだけれど、問題は素直で明るくて王子たちを籠絡していく性格な場合だ。しかも悪意がなかったら余計に性質が悪い。寧ろ同じ転生女子の方がなんとか出来そうだけれど。
「女子の輪の中にさすがにこれ以上入れないなあ。私の場合は王子たちとの様子を気にした方がいいか」
「そうね。お願いしたいわ」
逆に男の子たちの中での評判はわたくしたちから容易に尋ねることは憚られる。下手に詮索すると面倒なことになるかもしれない。
「あとね、これは学校に行ってから命令になるみたいだけど、イチゴ君に魔法師の実験が義務付けられるみたいよ」
「はあ?!」
すごい形相で向けられた顔には困惑がありありと浮かんでいる。だがこれに関してはわたくしも知らないのだ。
「ええ? どういうこと?」
「ごめんなさいね。ただ伝えてってことだったの。ちなみに授業を受けることはしなくていいみたいよ。その代わりに誰か魔法に詳しい教師がつくとの話よ」
何とも言い難い表情を浮かべている。仕方ない。目立つ真似をしたイチゴ君の自業自得だ。
「……こんな面倒なことになるなんて思わなかった」
深い溜息を吐くイチゴ君に皆乾いた笑みを浮かべる。なんとも声はかけられない。
でもわたくしは少し気になっている。わざわざローザリンデ様が伝えてきたこんな情報。ただイチゴ君の困る様子を見たかったという理由もありそうだが、それだけで一個人の情報を流すとも思えない。
でもすべては学校が始まってからだ。ヒロインのことも、イチゴ君のことも、わたくしたちのことも。
「ああ、休み明けが憂鬱だよ」
肩を落とす友人の姿に不謹慎ながら、わたくしは笑ってしまった。




