21 ライナルト・フォン・ハーゼンバインの休暇
学校と王宮はそれほど離れていない。寮生活から王宮へ戻ると途端に息苦しく感じる。王宮では王子としてずっと生活しなければならない。学校では王子としてありながらも、学生だった。同年代の多くと同じ場所で過ごすというのも楽しかった。
入学するまではディーターやわずかな側近たちと過ごしていた。それはそれで悪くない日々だったが、刺激は少なく物足りなかった。何処にいっても緊張を強いられるのは疲れた。
学校で見つけた面白い最たるものはスヴェン・ホルトハウスだろう。最初の切っ掛けはただ珍しい子がいる、という程度だ。線のように縦長の少年は身長だけなら学年で一、二を争う。しかし幅がない。あれでも身内の中では太いというから驚いた。ぼくが王子と知ってもあまり態度を変えないところは希少を通りすぎて心配にもなる。だが嬉しかった。
ディーターは警戒していたけれど、武術トーナメントで対決してからはあからさまに気に入る素振りを見せた。強い相手に相変わらず弱い。これで好敵手となってくれるならぼくとしても助かるが。学年で頭一つ飛び抜けているので、まさか魔法を使わされるなど思ってなかったはずだ。ディーターの魔法は最後の手段なのだから。
それにしても不思議な子だ。
ローザが警戒しないというのも気になる。あの子はああ見えて警戒心が強い。だが彼との出会いを教えたところ、途端に自ら皮を脱いだ。それにホルトハウスとつるむ三人の女子たちにも。ぼくも知らない何かの繋がりがちょっとだけ妬ましい。それ故の覗きはローザにすぐにバレたけれど。
ぼくに身分を関係なしに出来る者はいない。それでももしかしたらと淡い期待を持ってしまう。
休みに入ってすぐにホルトハウスへの宿泊を打診した。残念ながらまだ戻っていなくて待たされたが、彼の帰還に時間が掛かるのはわかっていた。行くのはぼくとディーター、それにローザ、あとは護衛と侍女が数人。護衛のせいでどうしても増える人員は仕方がない。日程の調整にも戸惑ったが、彼らは快く迎えてくれた。
ホルトハウス領は自然豊かでのんびりしている。まあ、田舎だ。ただ空気はうまいし、ゆったりしたいときには確かによい。あと料理も頑張っている。
「どうですか? うちのチーズうまいでしょう?」
自慢げに胸を張る彼に、ついつい笑みが浮かぶ。料理を作ったのは彼ではないはずだが、とても誇らしそうだ。
「とても美味しいわ。お土産にいただくことも出来るのよね」
ローザは気に入ったらしい。早速購入の意思を示した。それに喜びながらも彼は他にも見てから選んでみてください、と思いの外控えめだ。主に彼がぼくらについてくれているが、これはどうやら他の住人では荷が重すぎるかららしい。帰郷早々兄に怒られたと舌を出していた。
早々の問合せはホルトハウスの者たちを怯えさせたようだ。少々悪いことをした。
領内をあちこちと案内してくれて、ついでに体験教室もやってみた。あまり身分の高い者はしたがらないらしいのだが、なんでも経験だ。牛の乳搾り体験はなかなかに興味深かった。
それから彼の手がけているという畑も見せてもらった。土属性と知る前から手をかけていたということで、普通の畑に応用できることもあるらしい。他の地域とかに広めることも可能か、と尋ねたところひとつひとつは大したことがないものなので、やりたければやればいいと返ってきた。実際に領内の畑でも行われ、効果があったものは他領にも勧めてみようと思う。
ホルトハウスに居たのは三日ほどだ。それでもゆっくりした時間を過ごすことができたと思う。王都のように賑やかではないし、欲しいものも簡単には手に入らない。それでも楽しいと思える時間だった。
「ところでイチゴ君、今後どうするんだい?」
楽しい時間は早く過ぎてしまう。帰る間際に気になることを聞いておこう。尋ねるとしかし彼は首をかしげる。
魔法はあまり得意でないと言った彼の使い道が皆のしていない使われ方だ。魔法師の教師たちからは注目されているはずだ。騎士になるのだ、と言った彼の未来図には他の道も繋がっている。
「あー、うーん、特になにもしないですよ。このまま控えめな騎士になりたいと思っています」
欲をかかないこの学友が、ぼくは本当に面白いと思う。うっかり声をあげて笑ってしまった。
出来れば学校にいる間はこのままただの友達でいたい。




