18 勝つために足りないもの
「イチゴ君、おつかれさま」
「イチゴ~、よくやったー」
応援席に戻るとローザリンデ嬢を皮切りに、クラスメイト達が口々に試合のことを褒めてくれた。そして秘密は何かと暴きにかかる。もう秘密にすることもないので、コロ商会のことを伝えておいた。
「魔法の行使はわかったけど、無詠唱? できるの?」
「元々土いじりしながら勝手に魔法を覚えていたので、手を地面に触れていればできたんですよ」
私にとってはもう普通のことなので、そのまま答えてやると一様に変な顔をされた。
「あなた、変人だとは思っていましたが、規格外ですわね」
「はあ?」
背後で頷くクラスメイト達の態度が腑に落ちない。
「魔法についてはまた後で講義してさしあげますわ。教師陣も何やらもめていましたしね。それより、もうすぐ試合が始まりますわ」
準決勝まで進んでいた試合、一学年で残っているのはディーターだけだ。三回戦で残っていた二学年の生徒を打ちのめしてしまったので、二学年は全滅している。だから相手は最上級生の三学年。
「しかも相手は同じ王子の護衛の担当」
にやりと笑うお嬢様に、私は試合へ目を向けた。
軽口を言い合って、互いに礼をしている。
審判の構えの合図で二人とも同じ体勢をとる。きっと同じ人から指導を受けているのだろう。
開始の声に、二人同時に動き出す。正面から互いに剣をぶつけ合う。力ではきっとディーターの方が勝っている。相対した時に相手の剣が少しだけ沈んでいた。けれど巧みに力を逸らされている。
「あの人に勝てたことないのよねえ、ディーは」
食い入るように試合を見つめながら、教えてくれる。
「いつも兄みたいに慕っている人だけど、勝ちたい。そう言ってるのだけど……」
簡単に実力は覆らない。
二人のぶつかり合いは続いている。力で押すディーターをいなす先輩。これは勝利をもぎ取るには何か起こさないと難しい。
試合時間は十分間。時間としては短い。だからこそ試される。自分の実力でできる戦い方の構築、相手が決まった時の戦術の柔軟な変更。それを実行に移す力。
剣戟だけが響く試合はなんとも単調だ。ディーターは段々と焦れてきているように見える。相手の先輩はそれを狙っているのか、変化は見えない。
残り二分を切ったところで、ディーターの踏み込みが深くなる。力技で押し込むつもりらしい。しかし振りが大きいので相手にも構える時間が生じている。ふと振りかぶるディーターの剣を持つ手に違和感を覚えた。なんだろう、と思う間に振りかぶりかけた剣は突きへと転じる。
「おお」
思わず感嘆したが、相手も柔軟に構えを変えてきた。逸らした刀身をひねり、応対する。突き出したディーターの腕に手を掛け、地面に引き倒す。
そして首元に剣を突きつける。
ディーターは、降参した。
「お疲れ、ディーター。入賞おめでとう」
結局のところ、三学年の生徒が優勝、準優勝と三位を手にし、ディーターは唯一下級生で入賞となった。不服そうにしながらも、無理やり笑みを作り、学長に褒められて戻ってきたディーターに声をかけた。
「戻ってきてたのか」
私の顔を見て、安堵した表情を見せる。
「今度、手合せ頼むよ。あんな隠し玉は予想してなかった」
「それはこっちの科白だ」
気安い会話ににやっとする。
私とディーターはなんだか漸くちゃんと友達になれた気がした。
初年度の武術トーナメントはこうして幕を閉じた。
そして明後日から休暇が始まる。
8月は忙しかったです。
とりあえず次からは休暇へ




