16 速度と火力と
ちょっと短めですが、キリがいいので。
……勝たせるか、負かすか、私の中でかなり悩んだ。
開始の合図はかけられたが、私もディーターもすぐに動かなかった。策は講じている。それでも動けないのは、ディーターの隙が見当たらないからだ。
魔法は掛けている。まだ気づかれていない。だから動かなければならないのに、動けない。
「動かないのか?」
ディーターの口角が上がる。楽しそうな目元に、ひやりとしたものが背中を伝う。
私は足をぐっと床に押しつける。靴底の魔法陣は私の意思を汲んで魔法を無言で行使する。静かに音もなく、魔法は完成される。
「ここからだよ」
私は息を吸い込むと、一気に駆ける。出来れば一度で勝負をつけたい。
ディーターのすぐ傍まで走り寄ると、真正面から剣を突きつける。だがそれは彼の剣で防御される。わかっている。ここまでは想定通りだ。
今度は一度間合いを取り、彼の前後左右から何度も剣を繰り出す。防御に回っていたディーターが隙をみて攻撃を仕掛けてこようとしている。そこで、彼は違和感に気付いたようだ。それに付き合ってやる必要はないので、私はまだ攻撃を続けるしかない。というか彼には私の剣は軽すぎるので、どうしても動きを封じるしかないのだ。
「スヴェン、お前……!」
答えてやる余裕はない。呻きながら剣を捌く彼とは違うのだ。
「見た目ひょろっとしてるくせに、よくもやってくれたな」
思わず、げっ、と眉を顰める。どうにも私の小細工が気に入らないらしい。今回は最初の睨みあいの時に足を地面に埋めた。そして距離を詰める前に少しずつ背中に植物の蔦を成長させて這わせ、腕に巻き付けるようにしていたのだ。気付いた時には動かすことが困難になってくるはずだった。
「せこいぞ!」
「正攻法じゃ、君には勝てないんだ」
思わず返す。私の武器は何度も言うが、速さだ。速いということは即ち軽いのだ。逆にディーターは力、パワー重視の攻撃をする。だから単純に一撃が重い。私ではそう何度も受け止められない。
響く剣戟に、私の呼吸は段々荒くなってくる。だがディーターも私の魔法をうまく破れないのか、腕をやりづらそうに動かしている。
「大体、土属性じゃないじゃないか!」
文句を言われても苦笑を浮かべる余裕はない。額から汗が滴り落ちる。
「なんで? 土だよ!」
ディーターの剣を力の限り押し込める。
「植物は土魔法じゃ成長しねえよ!」
押し返されて、目を見開く。皆知らないのか。
蔦に絡まって動けないディーターだが、私の剣先を誘導していくらか切らせていた。よくも頭が働くことだ。
「土魔法は土を動かすだけじゃない。そもそも私は植物との親和性が高い」
荒い呼吸を整えながら私は足の裏に力を込める。
「土と呼んでいるが、固形物の粒子を動かし状態を変化させるのが土魔法だ。だから舞台の石材を削り、ディーターの足を埋め直した」
勿体ない。だから私以外に相手の足を埋めた生徒はいなかったし、皆驚いていたのか。
「栄養を含ませた地面を形成してやれば草花は早く成長する。その時に私の意思を少しだけ反映することもできる」
「はあ? ……な、おい、こらっ!」
蔦を切り払うディーターの足下から人の腕ほどの芽が出た。そのまま上へと伸びていくごとに枝が太り、彼を巻き込んで建物の三階ほどの高さまで成長する。叫んでいるディーターの声がかすかに聞こえる。私は場外へ向けて枝を揺らす。このまま彼を舞台の外へ落としてしまえば私の勝ちになる。
枝が揺れ、しなりだすと私の意図に気付いたらしい。だがもう遅い。私はふう、と息を吐き出した。
「おつかれさま」
「お前がな!」
えっ、と思うと同時に植物が見る間に燃え出す。即座に顔を上げると、私目掛けて落ちてくるディーターがいた。真正面まで彼の顔が近づいたところで、腹部に強烈な痛みが走った。




