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転生女子会の黒一点  作者: ケー/恵陽
一学年前期
15/33

15 魔法の種類も使い方も、人ぞれぞれ


「開始!」

 審判の合図とともに私はその場から右へと跳んだ。相手が魔力を溜めているのはわかっていた。だから予測をつけたのだ。大体試合開始にかけるならこの場所を目掛けて行使するものだから。跳んで避けたのだ。

 しかし避けただけではすぐに二撃目がくる。だから着地したとともに私は全速力で駆ける。

「うわっ!」

 すると目の前にはもう相手の姿がある。つまり相手にとっては私がすごい勢いで迫ってきているのだ。逃げようと慌てて足を動かそうとするが、それは出来ない。

「嘘だろ! 足が……!」

 魔法は詠唱がなくても行使することができる。私は通常手をついた状態からならそれが可能だった。しかし手をつけない状況で無詠唱もできたならば、なんと素晴らしいだろう。それがコロ商会に依頼したこの魔法陣の書き込まれた靴で可能になる。

 ちゃんと機能するか少し不安ではあったが、大丈夫だったようだ。相手の足が舞台の中に沈んでいる。

「すみません、先輩」

 私は動けない先輩に、構えた剣を振り上げーー下ろす瞬間手の向きを変えるとお腹に柄をめり込ませた。

 ぐえっ、と蛙の潰れたような声が聞こえた後、彼は崩れるように落ちていった。

「勝者、スヴェン・ホルトハウス!」

 一回戦、私の試合は制限時間の大半を残して終了した。

控え室に戻ると教師からの視線を頂戴した。それはきっとどんな奥の手を使ったか、聞きたいということだろう。だがまだ教えられない。


「お疲れ様」

 観覧席に戻るとディーターと王子が歓迎してくれた。王子は素直に、ディーターはにやにやと笑って、である。

「あの先輩はそんな弱くないんだけど、よく勝ったね」

「何か秘密兵器があるようだな」

 私はノーコメントで通す。いま秘密を明かすわけにはいかない。へらっと笑ってやる。

「あれ、ローザリンデ様は?」

「もう少ししたらあいつの試合なんだ」

 次の次が彼女の試合らしい。最近はユッテたち以外の他の女子とも親交を深めているようだ。そんな彼女の不安は自爆しないか、ということだ。本人から言われたのだが、魔力は多く持っている。魔法も問題なく行使できる。ただし運動神経はないので相手から攻撃される前になんとかしないと絶対負ける。とのこと。慌てて、避けようとして、転げて、気絶、なんてことになりそうだとぼやいていた。

 自覚があるなら対処できそうな気もするが、どう頑張っても何もないところで転げるのは阻止できなかったらしい。

「それにしてもイチゴ君は足が速いんだね」

「取り柄はそこですからね」

 寧ろそれ以外に取り柄がない。この長い足を活かすのが代々ホルトハウスの戦い方だ。

 そのうちにローザリンデ嬢の試合が始まった。三学年の先輩が相手だということで、お互い気合いが入っている。

 試合開始の合図でどちらも魔法の大技を繰り出す。相手は横に避け、ローザリンデ嬢はすぐさま防御の魔法を唱えた。しかしそれを見て更に攻撃を加えられ、防戦一方になっている。攻撃に転じたいところだろうがなかなかタイミングが掴めないようだ。

「これは魔力勝負だな」

 ローザリンデ嬢の魔力は多い。彼女が全部防御出来るなら彼女が最終的には勝てる。だが途中で尽きれば攻撃にさらされる。この間にも攻撃は休まらない。

 それにしても大きな魔法は見ていて美しい。炎の揺らめき、水の煌めき、風の瞬き、あれこそ剣と魔法の世界だ。その点でいけば、私の魔法は落ちこぼれだ。私の土魔法は見た目は何も起こらない。ただ植物に力を分け与えたり、土を移動させるのは相性がよい。あんな風に空中でひらめく魔法はちょっとうらやましい。

「あ」

 ついに相手の魔法が途切れた。ここぞ、とローザリンデ嬢は大きな魔法を唱える。そして今だ、と足を踏み出し――踏み出し、転んだ。魔法は消え、その上たたらを踏んでよろけ、舞台から落ちた。

 王子とディーターを見ると、顔を両手で覆っている。さすがに私も言葉がかけられない。勝てる、という場面での流れるような自滅だった。相手も呆然としている。

「あいつ、ほんともう……」

「ぼく、何て言ったらいいかな。ローザに」

 魔法だけみたら確かにすごいのに。相手の先輩の魔法を防ぎ切ったローザリンデ嬢は本当にすごいと思う。あとは踏み出した瞬間に転げなければ、よいだけだ。

 彼女の幼馴染をするのは大変なようである。

 戻ってきたローザリンデ嬢はちょっぴり恥ずかしそうだった。王子とディーターに申し訳なさそうな様子だ。

「イチゴ君も応援してくれたのに……。いつも肝心なところで失敗しちゃうのよ」

「こればっかりは運もあります。少しでも回避できるように、これから考えていきましょう」

「ありがとう」

 私の下手な慰めで笑ってくれたことに安堵する。


 そして試合はついに私とディーターの二回戦の番がやってきた。

「どっちが勝っても恨みっこなしだぞ」

「わかってる。寧ろこっちは勝てるか五分もないと思ってるけどね」

「じゃあ、負けてくれるのか?」

「まさか」

 舞台の上で軽口を交わす。

 審判の構え、の声に私は剣の柄に手を伸ばした。



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