14 強い弱いは自分ではわからないが
武術トーナメントの対戦カードは当日朝にならないとわからない。必ず一回戦は違う学年と当たることになっていて、私の相手は二学年の男子だった。
知らない名前だ。剣士タイプか魔法師タイプかは試合で確認するしかないようだ。
「スヴェン〜」
トーナメント表の近くで、ぴょんぴょん跳び跳ねている者を見つけた。ホルストだ。
「当日になって悪かったな。親父たちからは絶対勝ちなさい、ってよ」
「あはは、頑張る。私のお願いした通りに出来てるね。ありがとう」
ホルストに靴を渡される。私はそれに履き替える。元履いていた靴はホルストがこれも後でやりかえするから、と袋にしまった。
私が依頼していたものはこの靴だ。魔法陣は通常より手軽に魔法を使うことのできる便利なものだが、通常使われるような紙に書いた上での使用では相手にも予測されてしまう。ならばと考えたのが靴である。
「あ、イチゴ君だ」
ホルストと話していると、ユッテたちがやってきた。
「上で応援してるからね」
「がんばってください~」
「怪我に気を付けてね」
だがホルストが横にいるのを見て、離れたところで手を振ってくれた。ホルストの方は何故か私の背に隠れて様子を窺っている。三人が居なくなったのを確認するとやっと元の位置に戻った。
「……あれがお前の取り巻きか」
「なにそれ。てか、ホルストもしかして女の子苦手なのか」
「苦手ではない。ただ集団で来られるとちょっと困る。なんでか人の頭を撫でまわそうとしてくるからよぉ……」
それは苦手ということではないだろうか。しかしホルストはきっと小動物的な扱いをされているのだろう。なんとなく理解した。
防衛科の全員が対象となるため、試合の制限時間は十分。舞台から落ちたら失格。気絶しても失格。相手が降参をしてきても尚攻撃を向けたら失格。
今、試合をしているのは王子だ。あの人、騎士タイプかと思えば実は魔法師タイプである。王城で習っていたので剣の腕もそこそこらしい。ただ魔法の方が得意とのことだ。人は見かけによらない。そして試合は王子が相手ということで緊張してしまった先輩に既に押しまくっている。このままいけば勝てるだろう。
「イチゴ君は二学年の先輩が相手なのね。羨ましい」
つまらなそうに試合を見ているのはローザリンデ嬢だ。彼女は三学年の女子と当たったらしい。
「でも私はそう強くないですからね。なんとしても一回戦は勝つ努力しますけど」
ユッテとも約束したし、勝たないとコロ商会の面々が恐ろしい。
「あなた、イマイチわからないのよね。飄々としているから。今回しっかり確かめさせてもらうわ」
「俺も気になるな」
ローザリンデ嬢の向こうに座っていたディーターが私に視線を寄越す。どうやら王子は勝ったらしい。試合から目を離し、私を凝視する目は観察者のそれだ。
しかし気になると言われてもどうしようもない。強いかと問われてもわからないのだから。故郷であれば兄たちとの手合せは完敗だけど、子ども達の中では快勝だった。おかげで自分の強さは真ん中くらいかな、と思うくらいだ。授業の試合では勝てることも多いが、授業と試験は違う。
「一回戦は勝つんだろう。じゃあ、二回戦はよろしくな」
「え?」
ディーターがニヤッと笑う。トーナメント表は一回戦しか見ていなかった。
「お互い勝ち上がれば、二回戦で当たるぞ」
顔をしかめた私とは反対にローザリンデ嬢が歓声を上げた。
「あら、どっちを応援しようかしら! 迷っちゃうわね。ともあれどちらも一回戦を突破しないとでしょう。がんばってね」
ディーターは王子の護衛をしているだけあって強い。授業で軽く手合せした程度では実力はわからない。ただ彼の一撃は重い。身長では私が勝っているが、私の家系は皆軽さが武器なのだ。とても戦いたくない相手だ。
「ふふ、楽しみですわね」
無邪気に笑うお嬢様に、私は深い溜息を吐いた。
試合の並びはディーターの後に私だったらしい。
絶賛試合中のディーターだが、残念ながら私は控室に籠っている。このトーナメントは前の試合は見ることが出来ない。歓声が上がっていることから何がしかが起きているのはわかっているが、まったく見ることができないのだ。
「仕方ない。諦めろ。アンハイサーは一学年で上位の強さだからな」
控室の担当教師が気楽に笑ってくる。
「だが、完全無欠なわけではないからな。狙う部分をよく考えればよい」
一応騎士タイプの人間対策もある。一回戦は騎士タイプがよいと思ったが、こうなると魔法師タイプにしてもらいたい。
「先生、私の相手はどんな人ですか?せめて剣か魔法かどちらに特化してるか教えてもらえたら嬉しいんですが」
ダメもとで聞いてみたが、にやっと笑うだけだ。教えてくれないらしい。
「まあ、見たらすぐわかるさ。がんばれ、ホルトハウス」
教師は結局ニヤニヤするばかりで、私の試合の時間になってしまった。入れ違いで戻ってきたディーターはかすり傷程度だった。私に待ってるな、と笑うくらいには余裕だったようだ。さすが学年上位の猛者。
そして私の試合だ。舞台は石造りの円形で、試験以外にも演劇祭などで使われている。対する相手は分かりやすく杖を持ってくれていた。魔法師タイプだ。
互いに礼をし、審判の構えの言葉に剣の柄を握る。次いで開始の言葉と共に私は跳んだ。
書いていたらあっちこっちに話がうろうろするので困った。まだ試合でなくてすんません。




