11 乙女の園に触れてはいけない
転生女子会(定例)にローザリンデ嬢を連れて行った。王子とディーターも気にしていたが、女子だけの集まりに私が一人いるだけだ。何を心配することがあるだろう、と丁重にお断りした。そもそも転生女子(確定)以外の者に参加されてはろくに話もできない。
ユッテたちに引き合わせると、最初は緊張していたが芋羊羹の件で三人とも私と同じ意見に思い至ったらしい。
「あの、ローザリンデ様はもしかして前世を覚えていらっしゃいますか?」
すごく聞きにくかっただろうが、クリスタが尋ねる。もちろん答えは頷きで返ってきた。
「うれしいわ。こんなに居たのね。だったら、この世界がゲームと同じということも貴方たちは知っているのかしら」
どうやらこの世界というものの把握はしているらしい。そしてどうやら自身の立ち位置も。
気づいたらゲームの世界だと知っていたのは私たちと同じだ。けれど彼女は私たちと違ってモブではない。悪役令嬢だ。ただこのゲームでは没落とかそういうのはないので、単なる邪魔者役という感じらしい。
「正直最初どうしようかと思ったわ。ライやディーとはもう会っていたし、時々遊ぶような関係だったもの。これでも一応二人や他の攻略者から離れようと思っていたのよ」
離れられなかったけれど、と彼女は微妙に頭を傾ける。ゲーム内での彼女の役割は本当にただの邪魔者らしい。ヒロインの行く手をあの手この手で邪魔をし、時々小さないじわるをする。その程度。だから必ずしも悪役令嬢だからと悲観することもないそうだ。ただ邪魔者だという認識をしている人物に自分がなっているのは複雑だったようだ。
彼女の方でも私たちに聞きたいことがあるようだ。
「貴方たちはこれからどうするつもりなのかしら? それと折角共通の話題ができるのだから、もうこのメンバーで同好会でも作りましょうよ」
前半はゲームに対して、現実の動向ということだろう。それはとりあえず自分たちに害のない程度に調査しながら静観するつもりだ。後半については考えなかったわけではないが、どういう同好会にするかが決まらなかったのだ。それに安易に参加したいと言われても困るのだ。
「ああ、そうね。ならばわたくしが音頭を取ったことにしましょう。気に入ったメンバーだけを入れるの。とりあえずは同好会ではなくサロンのメンバーとして四人を迎えてよ? そうね、研究内容はわたくしの試作お菓子会かしら」
そういいつつ彼女の視線はユッテの作ったお菓子に向いている。これはただお菓子を食べたいだけなのか、それとも本当に研究するつもりなのか謎だ。
「けれど突然親しくするにはおかしくありませんか?」
今日明日でいきなりこのメンバーで活動します、は不審すぎるんじゃないだろうか。だが彼女は全然気にした様子はない。
「わたくしがディーターと王子にどう見られているか、貴方は見えていたでしょう。ちょっと昔のことを思い出して発言しちゃうことがあるのよね。そうするとこの世界では可笑しな風にとられてしまうのよ。だからまたいつもの気まぐれか、と思うはずよ」
「……そうですか」
意外とこのお嬢様は自分がどう見られているか、わかっていたらしい。
「それにこのお菓子、本当においしいわ。えっと、貴女が作ったのよね。わたくしにもいろいろ教えてもらえないかしら」
じっと見つめる先はユッテの作った大福だ。この女子会ではユッテがお菓子を担当している。彼女自身も好きに作れるのが嬉しいらしく、またお試しで前世のお菓子も作ってくれる。それがまたおいしいのだ。
ローザリンデ嬢はどうやら、まだ芋羊羹の製造を諦めていないらしい。目が爛々と輝いていた。
私たちがゲームと同じかどうか、調べようとしていたことを話すと彼女は他の攻略者についても教えてくれた。
先日会ったベック侯爵家嫡男のアルベルト殿はローザリンデ嬢もよく知っていたらしい。ディーターや王子と共と頻度は落ちるが、幼馴染といっても差支えないそうだ。
「後はザシャとホルストと……もう一人魔王様は誰だったかしら」
ユッテたちがハッとする。皆は魔王の名前を覚えていなかった。
「ええと、とにかく家政科の教師よ」
攻略者は生徒だけじゃなかったのか。
「元生徒のはずよ。名前まで思い出せないけれど、そこそこ若い教師を調べれば目星はつけられるでしょう」
ローザリンデ嬢の発言にユッテとクリスタが調べてみると名乗りをあげた。三人ほど若手の教師がいるらしい。
それから残りの攻略者である、ザシャ・クライネルト伯爵子息も家政科である。彼はチャラチャラした感じだが、公私をきちんとわけている人物だという。ローザリンデ嬢ではなく、王子の取り巻きの一人として名が挙がったことがあるらしい。正式ではないが、身の回りの世話を任せる一人になりそうだとか。
最後に技師技能科のホルスト・コロは商人の子である。そして私も顔見知りだ。
「イチゴ君、知ってたの?」
同い年だというのに、背も低く幼さの残るホルスト。彼はホルトハウス領のお隣に居を構えている。いまだ女の子と間違われると憤慨する少年は周辺の田舎貴族には馴染みのある商人の二男なのだ。
「友達だよ。実家に居たら月に何度かは会ってるくらいの」
兄が家業を継ぐので、ホルストは私と同じように補佐できるようなことを仕事にしたい、と器用な手先を活かして技師技能科を選んだのだ。
「これで懸念事項は魔王とヒロインかしらね」
ちなみにヒロインについてはローザリンデ嬢も考えているが、まだ誰かわからないらしい。次の学期から現れるということは病気や怪我で来られないか、庶子が引き取られたか。彼女は庶子の線が強いだろうと予測しているそうだ。
「まあ、ともかくね。イチゴ君。あの扉の所から覗き見してくる男どもを蹴散らしてくれる? 乙女の園は出入り厳禁よ」
ハッと彼女の視線の先を映せば、ディーターがこっそり覗いていた。慌てて扉を閉める姿が見える。
「まさか最初から覗かれていたの?」
「ローザリンデ様が心配だとしても、あれは……」
「……ないですわね」
ユッテ、ジビラ、クリスタがそれぞれ眉を寄せる。多分ディーターの傍には王子もいるのだろう。
「ということでイチゴ君」
ローザリンデ嬢が惚れ惚れする笑みを浮かべる。
「君はこのサロン唯一の騎士よ。追い出してきて。わたくしが許すわ」
胸をそらすお嬢様。私は苦笑と引き換えに騎士の礼を取る。右手を胸に、左手を背中に、頭を下げる。
「仰せのままに、お姫様」




