10 ご令嬢は和菓子がお好み
双六はあの後試作第二版を作り試してもらった。マスの内容を詰め、修正後にもう一度サンプルを作って試したら完成品となる。
ちなみに盤面となる紙の裏の一部に厚紙を貼り、綺麗に折りたためるようにした。そうすることで場所を取らない。駒は技師技能科の有志が作ってくれるらしい。ジビラに聞いたところ、王子が使う物ならばと王家のファンの先輩が力こめて制作してくれている最中だという。
ホルトハウス領の双六は次の休暇で持ち帰れればいいので、とりあえず相談しながら問題を作っているところだ。
双六、と遊んでばかりいるように見えるがそろそろ皆試験準備を始めている。二月から始まった学校は六月に差し掛かっている。一月は年頭行事や祭りが各地であるので学校は二月からだ。そして七月終わりに長期休暇に入る。その七月は試験の月だ。
座学はまだ教えあえるからよいのだが、防衛科には実技試験という名の武術トーナメントがある。もちろん私も参加する。まだ一学年なので早々に負けても怒られはしないだろうがせめて一回戦は勝ちたい。ということで放課後に自分の戦い方を見直しているところなのだ。
「スヴェンの魔法属性は?」
「あまり言いたくないんだけどな。土属性だよ」
王子の護衛として修練をつんでいるディーターに戦い方を指南してもらおうとお願いした。基本的に私はスピード勝負だ。持久力がないのは自覚がある。体を重くしすぎると動きが鈍る。
「手合してみるかい」
横で見ていた王子が審判しようか、と手を振る。
「してやりたいが今日は時間がない。ローザリンデ嬢を迎えに行かないといけないんだ。だからアルベルトが後で来るからな」
「ああ、そうだったね」
誰だろう。聞いたような気もする名前だが。
「イチゴ君、マルトリッツ公爵令嬢の名前も覚えてないのかい」
「マルトリッツ公爵……」
さすがにそれは覚えている。ただ令嬢の名前がうろ覚えだったことは確かだけれど。
「彼女、ちょっと入学直前に怪我をしてしまってね。やっと回復したから来週から学校にくるんだ。緊張してると思うから仲良くしてあげてね」
「ユッテ嬢たちにも伝えておきましょうか」
女子ならば女子の方が気が休まるだろう。私も一応女だったものだが、今は見た目も男だ。無用に怖がらせるわけにはいかない。
「そうだね。お願いできるといいけど、身分的に周りがなんか言いそうだけど、その時はぼくに言っておくれ」
にっこり笑う王子の背後に黒いものが渦巻いて見えた。こくこくと頷く私。どうやら大事にされているらしい。もしかしてそれは恋とか恋とか恋とかいうんだろうか。
「まあ、会ったらどんな子がすぐわかるよ」
私の女子だった部分が期待に胸をときめかせていた。
かくしてローザリンデ・マルトリッツ公爵令嬢は予告通り学校へ訪れた。ユッテたちにも何かあったら助けてあげてほしいと伝えていたが、彼女たちは少し考えているようだった。
曰く、パーティなどで出会う彼女の噂があまりよろしくはないようだ。加えて実はゲームの中の悪役令嬢(居たのか!)が彼女だったらしい。噂は性格が悪いとかそういうことではないようなのだが、三人とも直接話をしたことはないそうだ。
放課後の食堂で、王子によって紹介された彼女はとても美人であった。
「初めまして、ローザリンデ様。スヴェン・ホルトハウスと申します」
さすがに今回はきちんと挨拶をした。けれど彼女はキリリとした目で私を睨みつける。何か粗相をしただろうか、と思い返すがまだ何もしていない。というか挨拶しかしていない。
「ローザ、イチゴ君が困っているよ」
「イチゴ?」
王子が助け舟を出してくれたが、その呼称で呼ぶのはどうだろう。何故イチゴなのか、説明をされたローザリンデ嬢は睨んでいたわけではなかったらしい。パチパチと目蓋を弾かせると、小首を傾げて私を見つめてきた。切れ長の目が意思の強さを想わせる。美人である。そのうえ、胸も大きく腰が細い。女子としては羨ましい体型だ。
「イチゴ……」
何故か彼女はイチゴが気になるらしい。そして何か考えていたと思うと、おもむろに顔を上げた。
「わたくしは、イチゴはムースが一番おいしいと思うわ」
ふん、と鼻息を漏らすローザリンデ。王子とディーターは何故か頭を抱えている。
「ローザ、また変なこと言って困らせないでくれる」
「ローザリンデ嬢、学校という場所だから気が緩むのはわかるが――」
「違うわよ! もう二人ともひどい!」
キッ、と今度こそ二人を睨みつける。そして今度は私に向き直り、微笑んだ。これは直視するのはなかなか勇気がいる。微笑むと表情がやさしく、かわいい。普通の男よりは女子に耐性があると思っていたけれど、美人の破壊力半端ない。
そんな私の心を知ってか知らずか、ローザリンデ嬢は私の手をぎゅっと握る。そしてのたまった。
「イチゴは好きよ。でもわたくしはそれ以上に、芋羊羹が好きだったわ……。貴方は作り方を知っていて?」
一瞬にして熱は冷める。
あ、この人、転生女子(確定)だ。




