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捨て猫、拾いました  作者: トランキーロ幸村
第1章 出会い―捨てられていた猫
4/4

第3話 罵詈雑言と契約

ホントにお久しぶりです。

暫く投稿できませんでした。数少ない読者の皆様。どうぞお楽しみください。

「お前、何であんな所にいたんだ?」



いきなりだが、確信をつかせてもらった。この猫を保護するにも、飼い主のところに追い返すにも捨てるにも、素性というものを知っておかないと、どうにもならない。先程まで、ふうふうとホットミルクを覚ましていた猫は、その言葉を聞いて、急に黙り込む。言い難いことがあるのかもしれないが、そこは言ってもらわないと保護をした俺も困るので

「ど う な ん だ ?」

「何で貴方に言わないといけないの?勝手に連れてきただけでしょ?」

まだ懐かないのか。可愛げの無い猫だ。尻尾みたいなポニーテールはピンとは立ってはいないが、その表情と前足を胴体の前で組んでそっぽを向くという行動は、確実に不機嫌を表している。

「保護した側にはその動物の素性を知るという義務があるんだ。」

「何それ、保護されてないし。」

「お前が素性を話さない謎の人間大の猫なら、俺は迷わずに保健所に送るぜ?得体の知れない人間をいつまでも置いておくほど、俺もお人好しじゃないんだよ。」

「私は猫じゃないっていってるでしょ?」

眉の角度がさらに急になる。こいつ、黙ってれば可愛いのにしかめっ面ばかりで飼い主様に与える印象は最悪に思える。多分、それが原因で飼い主様と喧嘩をしたか何かだろう。頬にアザもあったことから、とても激しい喧嘩だと思われた。

「ハイハイわかったわかった。」

「誘拐されたと通報するわよ?」

「その場合、速攻でお前を家から叩き出す。多少の暴力行為もいとわないから。ずぶ濡れの中で死にたいならそうすれば良い。」

そこまでの脅しをかけると、猫は俯いて黙り込んだ。前足で、耳の横の毛を繕い始める。

流石にこの言葉は効いたらしい。これで黙り込むということは、帰る場所は無いが、余程言いたくない事情があるのだろう。

そこで、話題を変えることにした。

「お前、いつまでここにいる。キャットフード買うぐらいの金ならあるけど。」

「いい加減殴ってもいいかしら?」

なるほど、会話になってない。やはり種族が違うと会話もできないのか。

「種族の違いは認めるけど、偶然話す単語は同じなんだから、質問に答えてくれ。いつまでいるんだ?バカ猫。」

「名前言ったでしょう…!もういいわ。貴方が出ろと言った時に出ていく。それで良い。」

おや?と首を傾げる。こいつ、行く宛が無くてこのマンションに避難してきたのに、さっさと出ていってしまっても良いのだろうか。そうすると、いよいよ野垂れ死にしそうで怖くもある。

「行く宛は?」

「あると思うの?」

「ここに来てる時点で無いと思ってるよ。」

「じゃあその通りよ。」

「何だよそれ。」

そう言うことならば、つまりは行く宛が無いと言うことだ。

「じゃあ、俺が追い出したらどうすんのさ?」

「別に。ただ帰る。それだけよ。」

「帰る場所あるんじゃないか。」

「いいえ。私の居場所はどこにもない。」

暗く、黒くなった声で猫が言う。

意味が分からない。帰る先はあるのに、居場所は無いという構造が理解できない。その帰る先がこの猫の居場所では無いのか。

「悪いけど、俺は小説家でも劇作家でもないんだから、そんなヘタな言い回しをされても全く理解できないんだよ。」

「小学生でも理解してくれると思うわよ?やり直した方がいいんじゃない?」

本当に生意気な猫だ。恩を忘れて、もう罵詈雑言か。

「はぁ…。で、居場所が無いってどういうことだ。」

「だから、言葉の通りよ。」

その言葉がわからないから苦労してるのだが。

俺のイライラもつゆ知らず。言いくるめてすっかり機嫌が良くなった猫は、だいぶ冷めたホットミルクを美味しそうに飲んでいる。それを見て、俺も自分のホットミルクの存在を思い出し、口に含んだ。

「ぬるい…」

「丁度良いわよ?馬鹿じゃないの?」

「何でぬるいのをぬるいと言っただけで貶されないといけないんだよ…」

「これぐらいじゃないと、飲めないでしょ?」

なるほど、猫は猫らしく猫舌で、その傾向を俺にも押し付けたいらしい。ただ生憎、俺は人間だ。

「お前が熱いの苦手なだけだろ。このバカ猫。」

「はぁ!?あんな熱いの普通に飲めないじゃない!」

「騒ぐなバカ猫。話が逸れる。」

こんなくだらないことでムキになるのも、やっぱり猫だなと感心する。

ふと思いつく。場所はあるけど居場所は無い。確か目の前の千里と言う名の猫はそう言ったはずだ。アイツのキツそうな性格上、周りに敵を多く作るタイプなのだと想定すると…

なるほど、これは人間関係を読み取るのが絶望的に下手だと言われてきた俺でも分かる。

「お前、親と仲良くないだろ?」

「…。」

「友達もいないだろ?」

「…。」

マグカップを置いた猫は、下を向いたまま話さない。沈黙は肯定。面倒を見たなら、真実を知る権利もあるだろうと畳み掛ける。

「なるほどな。そんなキツそうな性格だから、どこでも苦労してるわけだ。今日も学校か家で喧嘩でもして「黙りなさいっ!!」ッ!?」

急に二本足で立ち上がった目の前の猫は、聞いたことも無いような大声をあげた。猫ならあまり出さないはずの感情がむき出しになっている。

「保護したから全て聞く権利でもあると思ってるの!?初めて会った人に何でそこまで話して、私の性格を罵られないといけないの!?大人は皆そう!私を見た目や言動だけで決めつけて、毎回そういう風に言われるのはもうイヤ!いなければいけない場所はあっても、私が自らいたいと思える居場所なんて全く無いのよ!」

その迫力に呑まれそうになった。綺麗な顔を歪ませ、涙を流し、声を震わせながら大声で叫ぶ猫。それを聞いた瞬間、俺が言葉を間違えたことを悟った。いや、わかっていたんだ。言い過ぎてることぐらい。でも、今までは親のコネや実力で許されてきたけど、この猫にはそれが通用しない。


面白い。


出てきたのは、申し訳なさではなく、純粋な興味。今まで親や同僚など、人間味の無いやつしか見てなかったが、こいつは違う。

まさか、猫に人間味を感じるなんて思わなかったから、尚更興味を持った。

「…。とりあえず座れ。」

「はぁ!?貴方が無神経だから…!」

「座れ。」

元々目つきが悪いと言われる顔で全力で睨みつけると、猫は怯えた様子であっさりと椅子に戻った。素直な良い子だ。

「お前、家に帰りたいか?」

「帰りたくないわ。」

「それは何故だ?」

「言いたくないじゃダメなの?」

「いいや、それでいい。それだけ聞ければ充分だ。」

こいつは俺に人間性を教えてくれるはずだ。俺に足りないもの。それを埋めてくれるピースになるかもしれない。

「どういうこと?」

猫は不審そうに顔をしかめる。これから言うことに驚くのは確定だから、構わない。

「お前、うちで暮らすか?」

「もしもし、警察ですか?」

「ちょっと待て、電話はまずい。」

全力で止めに入る。何やってるんだこのバカ猫は。人生で1番慌てたかもしれない。

「女子高生に突然同居を提案するなんて、あなた正気?死んだら?」

「ペットを飼うだけで何で通報するんだよ。捨て猫を拾っただけじゃないか?」

「やっぱり通報するわね。」

その言葉を聞いて、猫から全力で携帯電話を取り上げた。

「返しなさいよ!」

「まだ優秀な医者としての道を歩み始めたばかりなんでね。簡単にお縄ってのは御免こうむりたいんだよ。」

「貴方の発言が変態だからでしょう!?」

「まぁ聞け。理由はある。」

「変態の理由なんて聞きたくないわ。」

なんと失礼な。これでも彼女いない歴=年齢だぞ。純粋な男に言う言葉じゃない。

「お前は家に帰りたくないんだろ?」

「何度もそう言ってるじゃない。」

「なのに、ここに暮らすのは嫌なの?」

「まず、家に帰りたくないイコールここに暮らしたいになるあなたの脳を調べてみたいわ。」

あまりの生意気な言葉に、流石の俺でも少しムッとした。返事がわりに、猫の頬を両手で挟んでやる。

「ははひなはいよ!」

「何言ってるか分かりませーん。」

これで黙るだろう。俺は話を続けることにした。

「よく聞け。これはギブアンドテイクだ。」

「ふぁ?」

「お前がさ、猫なのに言動や行動が想像以上に人間臭いから、興味持った。家に帰らなくてもいいし、ある程度なら養ってやるから、ここで生活するってのはどうだ?」

そう言うと同時に、腕を振り払われる。想像以上の力に少し驚いた。

「私がここにもいたくないっていう選択肢は存在しないわけ?」

「もしそうならしょうがない。とりあえず、帰ってもらうことにする。」

「くっ…!」

この猫の家嫌いは筋金入りのようだ。かなり突き放す言葉で話しているのに、迷っている感が伺える。


本当に面白い


人間臭さの塊のような目の前の猫に、俺は笑いを堪えきれなかった。

「な、何を笑ってるのよ!」

当然、それを受けた猫は激怒する。全身の毛が逆立っているようにも見えた。

「お前が、あまりにも人間臭いから。」

「はぁ!?」

「俺はお前に興味を持った。ずっと見ていたい。お前から人間関係とは何かってのを学べそうな気がするからな。で、お前は家にいたくない。なら、俺の家で好きに生活してもいい。部屋は貸すし、お前の生活には殆ど干渉しない。これでどうだ?」

考えられる限り、最高の条件を出したはずだ。これで拒否されたなら諦めよう。そう思って、また下を向いた猫の答えを待つことにした。

「…こが、…い。」

何か言った。しかし、聞こえない。

「悪い、もう1度頼む。」

「ここが、いい。」

今度はハッキリと聞き取れた。

『ここがいい。』

マシじゃなくて、良いと言ったことが少し気になるが、これで契約成立だ。

「よし、じゃあ暮らす上でのルールを決めないとな。俺にも社会的立場ってのがあるし。」

互いが互いのことを利用する相手としてしか見ていない奇妙な同居生活。

それが今、始まろうとしている。




第4話へ続く。

いかがでしたでしょうか?

将輝くん、意外と性格悪いです。

ギブアンドテイクの生活がどうなるのか?

次話を楽しみにして下さい。

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