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捨て猫、拾いました  作者: トランキーロ幸村
第1章 出会い―捨てられていた猫
3/4

第2話  人間大の猫は意外と素直

2話目です。お願いします!

 都内の24階建て賃貸マンション。そこの23階の角部屋。間取りは3LDK。家賃は自動引き落としだから忘れた。そんな俺の部屋に、他人もとい他猫が入るのはとても久しぶりだった。いや、後ろから付いて来ているこいつが猫ならば、猫を家に招くのは初めての経験ということになる。

 車の中でさっき見た時間が午前8時49分。夜はすっかり明けきっているが、空はどんよりとした曇天なので微妙に暗い。その後ろを全身をずぶ濡れにして、その濡れた髪が顔を覆って表情の見えないままの人間大の何かがびちゃびちゃという気持ち悪い足音を立てて付いて来ているというホラー映画もびっくりの展開が今起こっている。

 まあ、その正体が性格のひねくれたただの猫だと理解しているので、怖いとは思わないのだが。

「思ったんだけど。」

 目的地に着いたエレベーターを降り、俺の部屋に向かおうとした時に低体温症間近の猫が、震える声で話を切り出す。俺としては無駄なエネルギーを使わないようになるべく黙っていて欲しいのだが、雰囲気が悪くなるといけないので話を聞くことにした。

「何。」

「あなた、いいところに住んでるのね。」

「別に。こんぐらいの部屋、そこそこ金があれば借りられるぜ?」

 部屋の前に着き、開けるための鍵を探しながら返答する。

「でも、あなた自分でアラサーとか言ってたけど、まだ20代でしょう?その年でこんな綺麗なマンションに…」

「開いた、入れ。」

 家庭状況のことを聞かれるのはあまり好きではないので強引に話を打ち切り、猫を中に入れる。後ろ手にドアを閉め、履き慣れたランニングシューズを脱いであがる。少し歩くとふと後ろの足音が止まったことに気づき、振り向くと猫はオロオロと立ち尽くしていた。

「早くあがれよ。今更躊躇すんなって。」

「でも、足も、濡れてるから。」

 へぇと感心する。この猫は自分の声が途切れ途切れになるぐらいに低体温症が進行していても、自分が暖を取るよりも他人の家の床を心配する思いやりがあるらしい。

「別にすぐに掃除するから構わねぇよ。風呂はあがってからすぐ右のドア。お前今けっこうマズイ状況だから早く風呂入れ。洗濯物は風呂の真ん前にある洗濯機にでもぶち込んでろ。俺が洗っといてやる。着替えとタオルは俺ので我慢しろ。」

 よく見るとかなりメリハリのあるボディをしているこの猫を水に濡れて服が張り付いている状態でこれ以上見続けるのは俺の目に良くないので、矢継ぎ早に必要事項を連絡して一番奥のリビングに逃げるために背を向ける。かなり早口で言ったので全て理解できたかどうかはわからないが、この際風呂の位置さえ伝えられておけばどうでも良い。すると後ろから聞こえてくるのはお邪魔しますという声。見た目はあれだが、意外と常識があるんだなと俺はますます感心した。

 下着はどうにもならないから我慢してもらうとして、シャツとズボンはなるべく体のラインが目立たないものを用意してやろうと、タンスの中を漁る。たまたまその条件に合う上下を見つけたのでシャワーの音が聞こえる浴室に走り、タオル、下着、たまたま見つけたチェック柄のパジャマ上下の3点セットを置いて、俺は直ぐ様浴室を後にした。

 体の芯まで暖まれよと風呂向かう前に念を押しておいたので、猫は1時間以上かけてじっくりと風呂に浸かってきたようだ。暖まったと言いながらパジャマに身を包み、リビングへとやってきている。髪がまだ湿っていたのでドライヤーを貸してやると、猫は金髪を乱暴に手にかけて髪を乾かし始めた。その間に、ホットミルクの準備を済ませておく。

 ここでふと気になっていたことを聞いてみた。

「その髪さ、染めてんの?」

「地毛。海外の血が入ってるからこんなんなの。」

「ハーフ?」

「残念、4分の1よ。」

 猫は笑いながら答える。つまりはクォーターらしい。髪染め+ピアスの不良コンボだと思っていたが、どうやら片方はハズレのようだ。指示はきちんと聞いていたらしく、ちゃんと暖まって体の震えも止まっている。ひとまず安心といったところだろうか。あとは猫のいかにも海外の血が入ってそうな顔に何個か付いている新しいアザや、切った口を消毒するだけでいいだろう。

「救急箱持ってくる。」

「ありがとう。」

 体調に余裕が出てくると精神にも余裕が出てくるのだろう。猫は素直にお礼を言ってきた。人からこんなに素直な言葉を向けられることが少ないから少し照れくさい。救急箱を持ってくる間に、猫は長い金髪を先程とは違い、丁寧に櫛で梳いていた。

 怪我の消毒が終わった後、ホットミルクを2人で飲む。まだ出会って1時間と少ししか経っていない男女が部屋で2人きり。この状況だけでもすでに異常なのに、着ていた服から判断するとおそらく相手は10歳以上年下の女子高生。突飛なことが何もない日常に退屈を感じてはいたが、まさかこんなことになるとは頭が痛い。しかし、このままあの不審な行動の理由を聞かないわけにはいかないので

「なぁ。」

 1番疑問に思っていたことを尋ねてみることにした。

「お前、何であんなところにいたんだ?」



              第3話に続く

次回に猫もとい千里のエントランスにいた秘密を明らかにします。なので今回は短めです。めでたきブクマ1人目!!本当にありがとうございます!

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