君は紫のアネモネと共に。
『時田先輩にキスされた』
そのLINEが俺に届いたのは、地元の花火大会の真っ最中。
ひと際大きな花が空に咲いたときだった。
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「鍋島、お前来週末の花火大会誰かと行くん?」
夏休みに入る1週間前、俺は放課後教室に残っていた鍋島怜に声をかけた。
鍋島は校内でもかなり目を引くほどの美人で、彼女に嫉妬する一部の女子を除けば、誰からでも好かれる性格の女の子だった。
同級生はもちろん、先輩や後輩からもよく告白されたくさんの人が玉砕していった。
そんな鍋埼と俺が接点を持つようになったのは、春同じクラスになってから1か月が過ぎようとしていたときのこと、俺は忘れ物を取りに放課後の教室へひとりで戻るとそこに鍋島がいた。いたというか、机に突っ伏して寝ていた。
下校時刻もとっくに過ぎていたので、俺はやむなく鍋島を起こすことに。
「鍋島、おい鍋島。下校時刻過ぎてんぞ」
声をかけるだけじゃ起きない。仕方なく耳のそばで呼んでみることに。
顔を耳に近づけたとき、ふわっとした甘い匂いが鼻の中を駆け抜けていった。
鍋島が起きてしまうのではないかと思えてしまうくらい、俺の心臓はドクドクと音を鳴らしていたと思う。
学校一の美女が目の前で寝ている、寝顔は見えないがすぐそばに。目の前に。
まあだからといって変な行動を起こそうという気にはならなかった。
なぜなら、下校時刻を過ぎても学校へ残っている(何かしらの理由で先生の許可をもらっている場合は別だが)生徒は、次の日に反省文を書いてこなければいけなくなるからだ。
「起きろ鍋島!」
さっきよりも少し大きい声で、鍋島の耳元で名前を呼ぶと、
「はいっ!すみません聞いてませんでした!・・・え!?待って、相護くん!うわっ、恥ずかしい!なんでいるの!?あっ!下校時刻過ぎてるじゃん、やば!」
机に突っ伏して寝ていたせいでおでこが真っ赤になった鍋島がひとりでわいわいしている姿を見て、俺は思わず笑ってしまった。
鍋島でもこんな風にわいわいしたりするんだと思うと少し不思議だ。
いつも見る鍋島はおしとやかというか、柔らかいというか、お嬢様のような印象だったので、焦って慌てて顔を赤らめている姿は新鮮そのものだった。
「鍋島なんで寝てたの?」
「めっちゃ眠くて、ちょっと仮眠してから家帰ろうと思ってみっちゃんに帰る前に起こしてって頼んだんだけど・・・」
みっちゃんとは、隣のクラスの三島美津のことだろう。
よく廊下で話しているのを見かける。
「お前たち、下校時間は過ぎてるぞ!ちょっとこい!!」
俺らはお互いに顔を見合わせ、苦笑いをした。
声のする教室の入口へ顔を向けると、ただでさえ怖い生活指導の先生が不機嫌そうな顔で俺らのことを見ていた。
「相護くん、わたしのせいでごめんね?」
お互いに反省文の用紙を貰い、じゃあと別れの挨拶をして帰ろうとした俺に鍋島が声をかけてきた。
意識しているのかしていないのか、少し上目遣いで謝ってくる鍋島がいつもよりもかわいく俺の目に写る。
「鍋島は寝過ごしただけで別に悪いことしてないじゃん。だから謝らなくていいよ」
「これから相護くん予定ある?」
「何もないけど、どうして?」
「わたし作文苦手なの、確か現代文のテストでいい点とってたよね。てことは作文得意なんじゃないの?」
確かに現代文のテストは毎回3位以内の現代文大好き超文系男子の俺ではあるが、そのことを鍋島が知っていたことに少し驚いた。
「ああ、作文は得意だよ。ちょうど19時過ぎでお腹減ってきたし、鍋島がいいならどこか寄って夜ご飯食べながら一緒に考えてあげようか?」
「本当!?わたしも今お願いしようと思ってたの!!嬉しい助かる!」
そんなこんなでそのまま俺は鍋島と食事をし、反省文を一緒に考え、学校や交友関係などたわいもないことを話し合った。
店を出るときには21時30分を過ぎようとしていたので鍋島を1人で帰らせるわけにもいかず、俺は鍋島を家まで送っていった。
「家まで送ってもらっちゃって本当にありがとう相護くん、気をつけて帰ってね!」
22時過ぎに鍋島を家に送り届け、俺が家に着いたのは23時を回ってからだった。
風呂に入り、髪を乾かし、歯を磨き、明日の準備を済ませ、部屋の電気を消して俺はベッドへ飛び込んだ。
寝る前に溜まっているだろうLINEを返そうとスマホを見ると、追加していないはずの鍋島からLINEが着ていた。
『LINE勝手に追加してごめんね、ちゃんと帰れてるかな?今日は本当に助かったよ、ありがとう^^』
それから毎日連絡をとるようになり、学校でも話す機会が増えた。
俺は、気づけば鍋島が好きになっていた。
鍋島は誰にでも優しい。だから俺のことも仲のいい男子くらいにしか思ってないだろう。
それでも周りの男子より一歩踏み込めてはいる。
あまり男子と喋らない鍋島が俺に話しかけてくれることが何より嬉しかった。
俺はもしかしたら、鍋島にとって特別になりつつあるんじゃないか。なんてことすら思えた。
『今日3組の長井くんに告白されたんだけど、長井くんてどんな子?』
月に2回くらいの頻度で鍋島は異性に告白される。
自分はみんなが思うようないい人じゃないしもっとかわいい人がいるのに、と告白されるたび鍋島は俺に報告してくれるようなり、みんなの鍋島への認識が重圧になっていると愚痴をこぼすことさえあった。
『特定の人と付き合ったら、もう告白されないのかな?』
『まあ、それはあると思うけど、だからって誰でもいいから付き合うとかは鍋島のためにもよくないと思う』
『だよね。大丈夫、誰でもいいとかは思ってないから(笑)』
『そういえば、時田先輩も鍋島の事狙ってるらしいよ~』
時田先輩というのは、1個上でイケメンで運動ができて頭もよく、非の打ち所がないとは彼のことを言っているのだと誰もが口を揃える完璧人間。
俺は時田先輩の所属している部活と部室が隣で、ついこの前、内容はよく聞き取れなかったが鍋島のことを時田先輩が他の先輩たちと話している声が偶然聞こえてきたことを思い出したのだ。
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7月になった。期末テストが終わり、来週から夏休みだ。
俺の地元では学校の修了式の次の日、夏休み初日に花火大会が毎年開催される。
放課後、居残り勉強を教室でひとりでしていた鍋島を見つけ、声をかけた。
「鍋島、お前来週末の花火大会誰かと行くん?」
「あ、相護くん。時田先輩に誘われたんだけどね・・・」
俺に気づいた鍋島は少しばつが悪そうにそう言った。
それを聞いて、俺は胸に刃物をグサッと刺されたような感覚に襲われた。遅かった。
そもそも俺みたいなやつが鍋島を花火大会に誘うこと自体難しいのに、先客が学校一のモテ男ときたらもうだめだろう。
「そっか、時田先輩めちゃめちゃ優しいしいい人だよ!みんなにも人気あるしよかったじゃん!」
いつもより自分が饒舌なのがわかった。これだけ仲良くなればもしかしたら、と思っていた矢先これだ。
俺は恥ずかしくて情けなくて、そして何よりこの場から早く逃げ出したかった。
「相護くんそれ本当に言ってるの?」
「え?本当だよ、時田先輩いい人だよ。かっこいいし誰もがうらやむよ」
「もういい」
鍋島は勉強道具を鞄に強引に入れ、俺の隣を通って教室を出て行ってしまった。
そのとき、初めて言葉を交わした放課後に嗅いだふわっとしたあの甘い匂いが、また俺の鼻を駆け抜けていった。
鍋島からLINEが返ってこなくなった。
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あっという間に時間は過ぎ、修了式が終わった。今日は花火大会。
俺はクラスの仲いい男子グループ6人でむさ苦しい花火大会を楽しむことになった。
鍋島とのトーク画面を開く。俺が最後に送ったメッセージには「既読」の2文字がはっきりとついていた。返信はまだ返ってこない。
「見渡す限りのリア充だなあ、ムカついてきたぞ」
「いっちゃんは彼女いるでしょ」
「そーやん、なんでいっちゃん彼女と花火大会行かんだん?」
裏切者のくせに~、彼女と行けよ~、などグループ唯一のリア充であるところの安藤樹がみんなから野次を飛ばしている。
「別れたよ、あんなやつ」
「「「「「え!!?」」」」」
みんなの驚きの声が綺麗に重なった。
それもそのはず、ほんの数週間前まで樹は彼女とラブラブだったのだ。
1年記念だとか何とかいってディズニーに1泊2日で遊びに行っていたくらいだ。
「何があったん?」
「時田先輩だよ」
「は?時田先輩がどうしたんだよ」
俺は過剰に反応してしまったらしく、みんなの顔が一斉に俺のほうを向いた。
ごめん強く言い過ぎた、と謝るといっちゃんが、
「どうもこうも、時田先輩とセフレだったんだよアイツ。時田先輩、いい顔してるからみんな騙されてるけどありゃゴミだ」
その顔は紛れもなく憎しみただ一色で、どれほど時田先輩をいっちゃんが嫌っているかが一目瞭然だった。
時田先輩は鍋島の事を狙っていたはずで、今現在も鍋島はその時田先輩とこの会場のどこかで一緒にいるはずなのだ。
「俺偶然知っちゃって、彼女問いただしたんだよ。そしたら、もうヤってないから許してほしいだの今は俺だけだからとか言ってきやがった。俺と付き合う前から毎週のようにヤってたらしいんだけど、時田が先月くらいに鍋島の事狙い始めたらしくて捨てられたんだとさ。俺とヤったのが初めてって言ってたのにその何か月も前に時田に処女奪われてたんだよ、本気で殺意沸いたわ」
だからお前らも彼女できたら処女だよって言われても信じるなよ~、と悲しげにいっちゃんは笑った。
時田先輩が鍋島の事を話していたのを聞いた時期といっちゃんの彼女が捨てられた時期が一致している。
俺は無性に鍋島の事が心配になった。
『鍋島!今どこにいる!すぐ教えて!!』
気づいた時には鍋島にそう送っていた。
ヒュー、ドォン。と、頭の上で花火が開いた。
隣でみんなは「お、始まったなあ!」「見れるとこ探そ!」とはしゃいでいる。
そんなみんなの後ろに俺はついていったが、花火なんてもうどうでもよかった。ただただ、鍋島の事が心配だった。
いろんな色の花が黒の空一面に広がり、遅れてその産声が鼓膜を揺らす。握りしめたスマートフォンに、返事はいつまでたっても届かない。
『時田先輩にキスされた』
ひと際大きな花が空にちょうど咲いたとき、鍋島から返事が届いた。
『今は屋台通りの近くのトイレにいるんだけど、たぶんこのままだとホテルに連れてかれちゃうかもしれない。今日女の子の日?って聞かれた、どうしよう』
胸のあたりがカーっと熱くなっているのがわかった。
そして、体が勝手に動いた。俺はみんなにごめんとだけ言って走り出す。
どうしたんだよ!と後ろから聞こえたが、答えずに走り続ける。
屋台通りを抜けて、トイレを探し、女子トイレの近くで誰かと電話している浴衣姿の時田先輩を見つけるまで体感では15分ぐらいに感じたが、実際にはどうなのだろう。
時田先輩が通話相手になんて言ってるか聞こえた瞬間そんな考えは、さながら手品のようにぱっと消えてしまった。
「今トイレに籠ってる。おう、久々の上玉だわ。ガード固いって聞いてたから今まで保留してたけどマジアホだった、ガードゆるゆる。こんなんなら初めから声かけとくんだったぜ。鍋島怜ちゃんの処女いただきまーす♪やべ、出てきたから切るわ。写メ1枚1000円で売ってやんよ!じゃあな~」
先輩が電話を切って、ちょうど鍋島がトイレから出てきた。白い浴衣を着ている鍋島はいつもより大人っぽく見え、お団子にした髪型もとても似合っている。
大丈夫?お腹痛い?と、先ほどとはまるで別人のような優しい声で鍋島の肩に手を置く。
「鍋島!」
体よりも何よりもまず先に、声が出た。ふたりが振り向く。
鍋島は驚き、時田先輩はきょとんとしていた。
「相護くん!」
「誰かな、君。怜ちゃんの友達?」
そう言って時田先輩は俺のほうへ歩み寄ってくる。
俺の目の前で足を止め、
「今からタノシイコトするから、どっか行ってくれないかな?」
鍋島に聞こえない声量で、その顔は爽やかな笑みを浮かべて俺に言った。
「鍋島!今からでも俺と花火見よ!!」
お腹に鋭い痛みが走った。
鳩尾に先輩の拳がめり込んだからだった。
息ができなかった。喧嘩なんか生まれて一度もしたことない俺は、とっさの攻撃に反応できなかった。
「邪魔すんなっつってんの。聞こえてねーのかよ」
「相護くん!?大丈夫!?」
鍋島からの位置だと、俺が殴られたのが先輩の体が遮って見えなかったのだろう。
いきなり腹をおさえて座り込んだ俺を心配して、駆け寄ってきた。
「お腹痛くなってきたから帰るって。さ、怜ちゃん行こ?」
「で、でも・・・」
いいから、と鍋島の腕をつかんで先輩は強引に連れて行こうとする。
だいぶ腹の痛みも引いたので、俺は立ち上がりまた鍋島!と呼びかける。
先輩が鍋島の腕を離して近づいてくる。
俺の目の前にまた立ち鳩尾を殴る。が、その攻撃は俺が先輩の腕を掴んで食い止める。
「同じのなんて、2回も食らいませんよ」
「うざ」
今度は掴んでない方の手で顔面めがけて殴りかかってきた。
首を傾けてそれを避け、掴んだ手を放し右足の回し蹴りを先輩の腹に入れ込む。
「うっ」と小さく呻いてしゃがみ込む。ちょうど鳩尾に入ったのだろう。さっきのお返しだ。
俺は鍋島に駆け寄って、
「遅くなってごめん、俺本当は・・・」
「相護くん後ろ!!」
先輩が走って、襲い掛かってきた。
殴りかかってきた右手を払い、顎を思いっきり掌底で突き上げる。
後ろによろめいた先輩の浴衣の襟を左手で、左腕の袖を右手でそれぞれ掴む。
そしてそのままくるんと回って、先輩の体と俺の背中を密着させスっとしゃがみ思いっきり両腕を引き寄せる。
2年ぶりの背負い投げが綺麗に決まり先輩を地面にたたきつけた。後ろでドォーンと花火が鳴り俺を照らしていた。。
先輩は半泣きになりながら、着崩れた土だらけの浴衣の帯がほどけないように走って去っていった。
鍋島の口はぽかーんと開いたまま塞がっていなかった。
「怖い思いさせてごめん、大丈夫だった?」
俺がそう聞くと、はっとして
「だ、大丈夫!相護くんこそ大丈夫!!?喧嘩強すぎじゃない??」
「実は小中と柔道やってたんだよね・・・、喧嘩はしたことなかったんだけど何とかボコボコにされなくてよかった」
「ボコボコにする側だったじゃん!!」
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俺と鍋島は近くの公園へ行き、ベンチに腰を下ろした。
お互い少し気まずく、少しの沈黙が続く。
すると鍋島が立ち上がって、俺のほうを向いた。
「連れ出してくれてありがとう、喧嘩したときは怖かったけど、それでもかっこよかった」
俺も立ち上がり、向かい合う。お互いの視線が重なり、1秒1秒がその時俺には無限にも思えた。
「俺、本当は嫌だった。本当は俺が一緒に花火大会行きたかった。鍋島が好きなんだ」
「ねえ相護くん、この花の名前、わかる?」
髪飾りについている紫の花を指さして、怜は俺に尋ねた。
花の知識なんて皆無といっていいくらい知らないので俺は首を横に振る。
「アネモネっていうの。本当は春の花なんだけどね」
「アネモネって消える希望とかそんな花言葉持ってる花じゃなかったっけ?」
昔やってたアニメのキャラクターがそんなことを言ってた気がした。
「相護くんよく知ってるね!そう、確かにアネモネ全般にはかない恋とか恋の苦しみとか見捨てられたとか、相護くんの言った通り消える希望って意味があるよ」
「ならなんで?」
「ふたつ!理由があるの。ポジティブな理由と、ネガティブな理由。どっちから聞きたい?」
頭を左に傾けながらにこっと俺に笑いかけて、鍋島はそう言った。
そんな何気ない仕草でさえ、俺の心を揺らす。
ああ、間に合って本当によかったと心の底から思う。
「じゃあ、ネガティブな方から」
「わたしね、相護くんに花火大会誰と行くのー?って聞かれて、あ!これ相護くん誘うチャンスだ!ってめっちゃ思ったの。で、時田先輩に誘わたんだけど相護くん行く相手いないなら一緒に行ってくれない?って言おうとしたらさーーー」
もー、と本気ではないのだろうが少し怒ったようなそぶりを見せ、
「相護くんったら時田先輩のことべた褒めしだすんだもん、あれじゃ時田先輩と行ってこいって言ってるようなもんだよ!だから、わたしの希望は消えた、見捨てられたって意味でアネモネ」
「そっか、ごめん・・・」
「ううん。もうひとつのポジティブな方を聞いて。このアネモネ、何色?」
「紫?だよね、どう見ても」
「そう、紫のアネモネ。紫のアネモネには〈あなたを信じて待つ〉って意味があるの。とっても怖かった、本当に。・・・でも、相護くんが来てくれた。あなたを信じて待ってたら、本当に来てくれた。わたしも相護くんが好きだったんだよ」
鍋島は少し頬を赤く染めて、その両目を少し潤して、微笑んだ。
俺はそんな鍋島を自分のもとへ抱き寄せた。華奢な体が、少し震えていた。本当に怖かったのだろう。
びっくりして固まっていたようだったが、鍋島は自分の両腕を俺の体にまわした。そして小さな声で泣き出した。
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鍋島が泣き止んで、俺たちはまたベンチに座った。今度は手を繋いで。
「放課後、下校時刻過ぎて一緒に先生に見つかって、反省文一緒に書いて。思えば俺はあの日から鍋島の事が気になってたのかもしれない」
「えー!?あたしはもっと前からだよ!!だからあの時は起きたら相護くんいて本当に恥ずかしかったんだから!」
再び沈黙が場を染める。
「あのさ、鍋島」
「なあに、相護くん」
「好きです、怜。俺の彼女になってほしい」
どさくさに紛れて鍋島のことを名前で呼び、俺は怜の目をまっすぐに見つめる。
怜もまた俺の目をまっすぐと見つめ、
「はい、喜んで」
と顔を赤らめ下を向きながら答えた。
右手で怜の顎をクイっと持ち上げ、
「時田先輩にキス、されたんだよね?」
「うん、目にゴミがついてるから目閉じてって言われて・・・そのままされてしまいました初キスですごめんなさいぃぃ、んっ」
一瞬の出来事だった。怜が両手で俺の目を覆って何も見えなくなった瞬間、柔らかいものが唇に当たった。
俺の目を覆った両手が離れると、さっきよりも顔を赤くした怜が上目遣いで俺を見ていた。
「上書き・・・です」
お互い数秒見つめあい、そして肩を寄せ合って笑いあった。
花火大会はクライマックスを迎える。
絶え間なく打ちあがる花火が咲いては消えてを繰り返し、俺と怜を照らす。
ずっとずっとこの時間が続いて終わらなければいいのに、と俺は怜の手を強く握った。怜もまたそれに答えるかのように俺の手を握り返す。
どうも。
前作よりもだいぶ長くなってしまって正直疲れました。
まだまだ書き慣れてないなととても実感しました。
この物語は、前作を書き終えた瞬間にぽっと頭の中に浮かんで、8月が終わるまでになんとか書かなければ!という使命感のもと書きました。
あまり頭の中で広げず即興で打ち込んだストーリーなので完成度(とくに締め)ががばがばなのは申し訳ないです(笑)
いつか締めだけでも書き直そうと思います・・・(笑)
感想・アドバイスお待ちしております。
それでは。