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6 真相

「では、君たちは、真犯人は別にいると?」

「当然です」

 やや気分を害した感じの警部に、自信たっぷり断言する、うら若き双子の乙女。


「でもその前に、確かめる必要があることが、一つあります。本当に毒は被害者の左手の刺傷から入ったのかしら」

「犯人のフェイクと考えられなくもないわ……。警部さん、被害者の腕の傷口から毒物が出てくるか調べてみてよ」

 ルナとリナの女子高生的かつ圧倒的パワーに押され、人生を五十年は過ごしている藻岩警部が、たじたじとなった。大倉山刑事に、鑑識に電話して確認するよう、憮然とした表情で指示を出す。


 大倉山刑事は、女子高生の発言に言いなりになる悔しさを前面に押し出しながら、電話をかけるために入口のドアを開けて、廊下へと出て行った。

 大倉山氏が廊下に出た途端、両手の人差し指を使い、渾身のあっかんべえをドアに向かって出す、リナルナ。すかさず、私もあっかんべえの助太刀をする。

 これで清々したのか、リナルナが穏やかな表情で、一同の方にふり返る。


「では、分析結果が出るまで、さっき云った『必然』と『偶然』について、整理してみましょう。それが、私たちの云う『当然』に変わる瞬間が必ずありますから」

 リナの言葉にルナが頷き、横にいた兄のナオキさんに、そっと耳打ちをする。


「ええーっ、やだよぉ」

 何か、ルナの指示に反抗しているらしい、ナオキさん。ルナの、平手打ちが彼の頭頂部に決まる。渋々、ナオキさんが席を立った。

「ちぇっ、オレはお前らのしもべかよ――。仕方ねえなあ、ちょっと待ってて」

 ぼやきまくりのナオキさんは、数分して、外から戻って来た。


「ほれよ、お望みの品だ。近くの文房具屋で買ってきた」

 それは、太めの黒マジックと、大きめの白模造紙一枚だった。ブツクサ云いながら、ナオキさんが自分の席に戻る。


「じゃあ、これにこの事件の必然と偶然についてまとめていくわね」

 リナが模造紙をセロテープを使って、壁に貼り付ける。ルナがマジックを持ち、紙を三等分するよう、縦線を2本引いた。

 さらに、右の欄に『必然』、真中に『偶然』、そして左の欄に『当然』を書き込む。


(かわいい! 探偵たって、やっぱりやってることは、高校生じゃん!)

 私は密かに双子の頭をなでなでしてあげたくなった。


「じゃ、まずは『必然』から」

 ルナの開始の合図に、リナが「きゅっきゅ」と幾つかの字を右側の欄に書き込んだ。

「まずは、四人がカラオケ屋に集まったこと、それから、今井さんの左右に西さんと酒井さんが座ったこと、そして、酒井さんの横に最初、小川さんが座ったこと」


 えっ?


 眼鏡の地味な男、小川さんが不思議がる。

「だって、小川さん、酒井さんのことが好きなんでしょう? 見てればわかりますよ」

 ルナの率直な言葉に、小川さん赤くなって縮こまる。それに比べ、酒井さんの反応は薄かった。


「そして、一番大事なのが」

 リナがきゅきゅっと文字を付け加える。

「ダーツの針に毒が付いていたこと」

 ルナがそう云うと、藻岩警部も含め、全員がざわついた。


「だって、あなた方は、もしかしたらダーツが凶器ではないと云っているのでしょう? そしたら、それが必然に入るのは、おかしくないの?」

 西さんが、強烈にお姉さん風を吹かせて、双子に迫った。

「いいえ……。それこそが、まさにこの事件の最大の必然なんですよ」

 リナの言葉に、一同の顔色が曇る。意味が判らない、という感じだ。

「つまり、犯人は別の誰かに罪を着せようとしていた――ていうこと」

 ルナの説明に、驚きの表情を見せる、大学生たち。


「次に、『偶然』を並べてみるわね」

 リナが、マジックを器用にまた動かしだす。

「まず第一に、カナちゃんが部屋を間違えてこの部屋に入って来てしまったこと」

 ルナの言葉に、一々深々と頷く、カナちゃん。

「そのとおりよ。それはホントに、私の起こしてしまった偶然だった」

 カナちゃんがそう云うと、リナルナが、そして私が大きく頷いた。


「次に、第二の、そして最大の偶然は」

 リナがそう云うと、ルナが模造紙の貼った壁をはたき、バン、と音を立てた。

「毒付のダーツの入ったダーツケースを、カナちゃんが入り口付近で拾ったこと」

 リナが、真剣な表情で黒いマジックの文字を書き込む。

「要は、小川さんが偶然にもそのケースを落としてしまった、ということよ」


 その言葉を聞き、今までいちいち頷いていた西さんの顔色が曇った。

「え? じゃあ、あんたたちが云いたいことって――」


 そのとき、久しぶりに大倉山刑事の姿が、この部屋に戻った。

「警部、大変です! 鑑識の結果、被害者の腕の傷口からは、毒物は検出されませんでした。この忌々しい女子高生たちの云うとおりです!」


 ああん?


 刑事に注がれる女子高生たちの厳しい視線。

「何だって? じゃあ、毒物はどこから摂取されたというんだね?」

 藻岩警部が、しきりと首を傾げた。


 大倉山氏に睨みをきかせたまま、ルナが云う。

「やっぱりね……。あの腕の刺し傷は、フェイク」

「毒は、別な部分から、被害者の体内へと入った」

 リナが、相槌を打つ。


「と、いうことでぇ」

 双子は声を合わせてそう云うと、遂にやって来た謎解きの瞬間のために、「せーの」という感じで、揃って深く息を吸い込んだ。

「『当然』は、こうなります!」

 ルナが叫ぶのと同時に、右手に持ったマジックを動かしだす、リナ。


『犯人は酒井葵さん』


 リナが模造紙からその手を離した瞬間、紙の左側の『当然』の欄には、ひときわ太い文字で、そう書かれていた。


「結局、被害者に毒を仕込めたのは、被害者のすぐ傍にいたあなた、酒井葵さんしかいないのよ。論理的に考えればね」

 振りかえったリナが、冷静に話した。


「酒井さんが犯人だって? そんなわけあるか!」

 珍しく興奮した小川さんが、体をわなつかせ、席を立つ。西さんは瞬きもせず、恐怖に引きつった目を酒井さんに向けている。酒井さんは、無表情な顔を下に向けたまま。私にはその表情が読み取れなかった。


「あなたもお人好しだよねぇ……。犯人にされそうになったのに」

 ルナの言葉に、リナも頷く。何処に不満をぶつけてよいかわからない、といった感じで、仕方なくまた席に腰を下ろす、小川さん。


「酒井さん、あなたは小川さんと酒井さんがトイレの前で会ったあのときに、小川さんのダーツに毒を塗ったのよね」

 リナの決め付けたような、言葉。それに対し、酒井さんは、ゆらり、と徐々に顔を上げていく。不気味なまでの、落ち着いた笑顔。


「証拠は? 私が毒を仕込んだという証拠はあるの?」

「恐らく」

 ルナは歩いて酒井さんに近づくと、酒井さんが抱えている、茶色のハンドバッグを指差した。

「恐らくは、そのバッグの中にまだあるわ」


 ぴきっ


 それは、酒井さんの顔の表面を覆った壁のようなものにひびが入った音だったのか? 奇妙な音がカラオケルームに響いた気がした。

 酒井さんの目付きがきつくなる。


「酒井さん、あなたのくちびる、妙に一部分だけテカッてるわよね。それも下唇の下の方が――。それ、リップクリームなんじゃないの?」


 えっ?


 リナの発言に、酒井さんの顔に皆の視線が集まる。確かに、酒井さんの下唇辺りが、照明の光を反射し、テカっているように見えた。

 急いで右腕の甲を唇に当て、拭おうとする酒井さん。その隙を突き、ルナが酒井さんから膝の上のハンドバッグを取り上げた。

 酒井さんのハンドバッグを開け、中から緑色のリップクリームのスティックを取りあげる、ルナ。


「証拠はこれよ」

「それから多分、口を拭いた後のティッシュペーパーが、その花瓶の中にあるはず。隠すとしたら、そこしかないもの」

 リナが、ソファーの横にある台に置かれた花瓶を指した。良く見ると、花は造花だった。大倉山刑事が仕方無さそうに花瓶に近づき、中を覗く。

「あ、残念なことに、確かにくしゃくしゃになったティッシュが中に!」

 大倉山刑事がそう云うと、藻岩警部が左のてのひらに右手のこぶしをポンと当て、探偵物映画でよく見たことのある、あの有名なポーズをした。


「そうか、わかったぞ! 君たちの云いたいことはこうだな? このリップクリームには毒が含まれていて、それを口移しで、……つまり、キスなどにより、被害者の口から毒物を仕込んだのだ、と――」

「そうですっ」×2

 リナルナが、揃って自信たっぷりに答えた。


「それで葵、カラオケ中、食べ物とか飲み物にほとんど口を着けなかったのね――」

 西さんの言葉に、酒井さんは答えることは無かった。

「この事件の流れを説明すると、こうなります――」

 こういう理路整然とした話をするのは、リナの方が向いている。その推理内容を要約すると、以下の通りだ。



――被害者の今井大和さんを殺そうと決意した酒井さんは、毒入りリップクリームをハンドバッグに入れ、このカラオケ屋にやって来た。もちろん、彼の引き立て役として選ばれるであろう小川さんが、いつもダーツケースを持ち歩いていることや、最近買ったものを自慢げに話していたのも知っていた。それから、最近しつこくモーションを掛けてくることの多くなった大和さんが、カラオケ中に自分を近くに引き寄せたり、酔ったフリして腕をまわしてくるなんてことも、計算済みだった。


 そして計画は、実行された。小川さんがトイレに立ったのを見計らってすぐそのあとに席を立ち、偶然を装って小川さんのダーツを見せてもらう。このときこっそり、リップクリームをダーツの一本に塗っておく。トイレでは毒入りリップクリームを自分の唇に塗って、準備完了。もちろん、自分で毒を飲み込んではいけないから、飲食は控えていた。


 部屋に戻り、盛り上がるカラオケ。そして遂に、大和さん殺害のチャンスが到来する。ドサクサに紛れて大和さんは葵さんを引き寄せ、左腕をまわしてきた。今だ! と思った葵さんは大和さんの左腕に毒の付いていない安全ピンを突き刺して、無理矢理キスした。腕に傷があれば、当然警察はそこから毒が入れられたと思うはずで、まさか口から毒が入れられたとは思わないだろう。これなら、先の尖った物体が所持品の中から調べられることとなり、本当の凶器であるリップクリームが疑われることはない。そして、毒の付いたダーツを持った小川さんが犯人として疑われるはずだ――。


 ところがこのとき、二つの偶然が起きた。一つ目は、突然の停電。そして、二つ目はカナちゃんが部屋に紛れこみ、小川さんの落としたダーツケースを拾ってしまったこと。これにより、酒井さんの計画が、大きく崩れた。

 しかし、事件はそのまま展開する。口を閉ざされている大和さんは、痛い、という声も出すことができなかった。まさか葵さんからキスをしてくるなど思ってもいなかった大和さんは、驚いて思わず自分の唇を舐めてしまい、毒を自ら体内に入れてしまった。まさに、死の接吻せっぷんってところね。


 そして、それとほぼ同時に、停電が収まった――



 静まる、カラオケルーム。

「そのリップクリームとティッシュを分析すれば、毒物は出てくるはずよ」

 リナが、感慨深げな表情で云った。

 もはや、酒井さんは観念したように見えた。静かな口調で、話し出す。


「そう、その通りよ。犯人は私。推理も、まあ、合ってるわ」

 酒井さんは全身から力が抜けたように、天を仰いだ。

「まーったく、この高校生の小娘がこんな大事な時に部屋に紛れ込んでくるとはね……。計画はオジャン、えらい迷惑よ。でもね、私は捕まらないわ。何故なら――」

 酒井さんが、ルナの持ったリップクリームを奪い、キャップに手をかけた。きっと、それを舐め、自殺する気だ!


「リップクリームを奪って!」

 ルナの叫びに、騒然となるカラオケルーム。

 瞬時に大倉山刑事が彼女の体を押さえた。すかさずナオキさんが自由を奪われた彼女の右手からリップクリームのスティックを取りあげた。ガクッと膝を折るようにして床に倒れる、酒井さん。


「酒井葵、あなたを今井大和さん殺人容疑で、逮捕する」

 警部の合図で、大倉山刑事が手錠を酒井さんの両腕に掛けた。



――こうして、当事件は双子女子高生探偵『リナルナ』の活躍により、終わりを告げたのだった。

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