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2 双子探偵、始動!

 ナオキさんの後に続き、私もリナルナの二人も廊下に出たとき、停電は終了した。


「ほええ、良かったあ」

 明るい光の中、リナの安心した声が廊下に響いた。私たちの前にあるのは、ルームナンバー「1」のカラオケルーム。そのドアは開け放たれていた。


「誰か! 誰か早くきてぇ」

 また、その部屋から悲鳴にも似た叫び声がした。先ほどとは違う女性の声か?

 ナオキさんを先頭に、部屋へとなだれこむ、私たち。その後ろからやって来たのは、先ほど受付にいたイケメンのお兄さん店員だった。


「どうかしましたか?」

 店員とナオキさんのほぼ同時の掛け声。

大和やまと君が、大和君が……」

 入口付近に立ちつくした格好の眼鏡の男が、部屋の奥の方に向けて指差した。そこでは、一人の男が女子大生っぽい歳格好の二人の女性に囲まれながら、うつ伏せに倒れていた。左手は自分の咽喉を押さえ、右手は頭の上に目一杯伸ばしているような形だった。


 男のすぐ横には、高校生らしき制服を着た女性が一人、耳を両手で塞ぎながら、うずくまっていた。髪が長く、顔が良く見えない。

 状況をすぐに察知した医学生のナオキさんが、駆け足で部屋の奥へと向かう。


「だめだ、もう死んでいる……」

 右手首の脈をとったナオキさんが、呟いた。

 一瞬の沈黙の後、二人の女性が悲鳴をあげながら、泣き出した。

「大和君! 大和君!」「キャアア!」

 入口付近の男は、手を握り締めながら、「なんでこんなことになったんだ」 といって、俯いた。


 ここからが、ナオキさんのすごいところだった。

 ナオキさんはまだ呆然と立ち尽くしていた妹のリナ・ルナに命じ、二人の動揺した女性をクッションソファーの端の方に連れていかせ、そこに座らせるようにした。

 それを見届けると店員さんに向かって、

「警察を呼んでください! 早く!」

 と叫んだ。我に返ったように、店員さんはダッシュして、受付へと走って行った。


「さあ、キミもソファーに座って」

 まだショックで身動きの取れない私を尻目に、ナオキさんは入り口でうずくまる女性に近寄り、肩を抱くようにして、立ち上がらせた。

 その女子高生の着ていた服は、自分たちの着ていた制服と同じものだった。


(うちの学校の生徒?)

 そう思ったのも束の間、その女子高生の顔を見た瞬間、

「カナちゃん!」

 私は、叫び声をあげてしまった。

「どうしてこの部屋にカナちゃんが?」

 私の質問に、カナちゃんは上手く答えられなかった。ただ、泣きじゃくり、嗚咽おえつを漏らすばかり。


 リナとルナが、慌ててこちらにやって来る。

「カナちゃん……。とにかく座って!」

 双子の女子高生は、ほぼ完璧に同一の口調でそう云うと、カナちゃんを二人で挟み込むようにして優しくソファーへと座らせた。

 カナちゃんは、下を向いたまま泣きじゃくり続けた。



「……一体、何があったんです?」

 ちょっと時間をおいて、ナオキさんが、二〇代前半ではあるが服装がやや野暮ったい感じの(まあ、はっきりいうとオタクみたいな感じね)、眼鏡の男性に訊ねた。


 男性は、絞り出すように、ぼそりと語り出した。

「最後は、彼、大和君が歌ったんですよ。

 彼は、今倒れている場所のすぐ後ろのソファーに座りながら歌っていましたが、歌い終わってマイクをテーブルに置いたとき、停電が発生しました。

 一瞬真っ暗になって、非常灯が点いたのですが、何故か、その高校生の彼女が部屋に入って来たんです。と思ったら、彼が急に苦しみ出して、前のめりに倒れたんだ。

 ……それにしても、この娘が部屋に入った途端に大和が苦しみ出したんだから、これは彼女が――。」

「彼女は、そんなことする娘じゃありません」

 私が、眼鏡の男に突っかかるようにして、答えた。


 ナオキさんは、「まあまあ」と私とその男性が言い合いになりそうな雰囲気をなだめるようにして、今は動かなくなってしまった男性の傍に移動した。

「停電の後にカナちゃんが部屋に入って来て、被害者が苦しみ出した、か――」

 ナオキさんが、被害者をあまり動かさなように気をつけながら、調べ出した。

「呼吸困難と瞳孔散大……。神経毒の症状だ。恐らくはアルカイド系の毒で――」


「多分、トリカブト。毒殺ね」

 それは、ルナの声だった。

「成分はアコニチン。毒殺よ」

 リナも、ルナに賛同する。


「おいおい、これは女子高生がじっくり見るようなものじゃないぞ」

 いつの間にやら被害者を中心にナオキさん、リナ、ルナの三人兄妹が取り巻く状況となっていた。ナオキさんの追っ払い行動に対して抵抗する、双子の女子高生。


「な、なによ、お兄ちゃんだってただの未熟な医者の卵じゃない」

「そ、そうよ、同じ未熟者だし私たちだけダメってことはないわ」

 言葉の長さまで揃った双子の抵抗に遭いながらも、ナオキさんは何とか双子を私とカナちゃんのいる場所にまで追いやって、こう宣言した。

「これは恐らく、殺人事件です。犯人はこの中にいる可能性が高い……。警察が来るまで、誰もここを離れてはいけませんよ、勿論、カナちゃんもね」

 悲しそうな目で、カナちゃんを見つめるナオキさん。


「ナヌ? 聞き捨てならぬ! カナちゃんが容疑者だっていうの?」

 私がナオキさんに食ってかかろうとするのを、リナとルナが制した。

「仕方ないよ……。この状況ではね。カナちゃんも事情を話しできないようだし――」

 隣の席では、カナちゃんがまだショックを引きずるようにして、泣いていた。


 と、双子のリナとルナが突然に、そして同時に、立ち上がった。

「お兄ちゃん、いや『ワトソン君』、ご苦労だった。ここからは、ホームズ役の私たち、双子女子高生探偵『リナ・ルナ』に任せてくれたまえ」

 二人の唐突、かつ一糸乱れぬピタリとタイミングの合った発言に、しーんとなるカラオケルーム。


 そのとき、ようやく警察がこの事件現場に現れたのであった。

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