school life
今時の高校生のノリがわからない。
(2018年4月14日加筆・修正)
それは、本当に唐突な話だった。
「ルイ、学校に興味ある?」
「……学校?」
首を傾げたルイと向かい合うように座り、ユエは頷いた。
物質界に再び来て、何気ない日々を過ごしていた二人。流星石のめぼしい情報も特になく、これからのことを思案していた所に、冒頭のユエの言葉が放たれたのだった。
二人共、物質界に合わせると中学校か高校に通っているはずの年齢だ。だが、あくまで流星石探しの為に物質界に来ているだけで、常にいられる訳ではない。別に学校に通わなくとも何の問題もないのだが、ルイのことを考えて、ユエは学校に行くことを提案したのだ。物質界について知らないことが多い、即ち物質界における一般常識が殆ど通用しない彼女に、少しでもこの世界のことを学んで貰おうと思ったからだった。それに、歳の近い少女達と一緒にいることは、彼女にとってもいいはず。
ルイは暫し考え込む。『学校』がどういうものなのか、彼女はよく知らなかった。勉強をする為に通うような所だとは聞いていたが、詳しいことはわからない。
「学校か……其処は楽しいのか?」
「うん。それにほら、友達だって作れるでしょ? 何も勉強するだけの場所じゃないからね」
「ふーん。……少し、気になるな」
学校に対し、興味が沸いたようだ。用意した物が無駄にならなくてよかったと、ユエは微笑む。足元に置いていたそれを机の上に移動させながら、彼は呟いた。
「よし、それじゃあ始めようか」
「……始める?」
不思議そうな顔をしたルイの前に、分厚い本が何冊も詰まれた。椅子に腰掛けた彼女と同じ位の高さになったその本の山に片手を置きながら、ユエは向かい側に座る彼女を覗き込む。
一冊一冊がうんざりする程の分厚さの本だ。背表紙には、何やら見覚えのない、堅苦しい印象を与える文字が書かれている。嫌な予感がして、ルイは恐る恐る尋ねた。この本の山はどういうことなのかと。
すると、ユエは一番上に詰んでいた本を手にしながらこう告げた。
「今日から二週間で、小学校から高校位までの勉強をするよ。ルイのレベル次第で年齢は多少誤魔化すから。ルイなら高二辺りまで出来るでしょ、多分」
その『多分』には何の根拠もない――理解出来ない単語の数々に戸惑いながらルイはそう思ったが、反論は受け付けないとでも言うように、ユエは煌めく笑顔を向けていた。煌めいている割には、何処か腹黒く感じる笑顔を。
拒否権はなしか。ルイは大きく溜息を吐き、諦めてユエから手渡された本に目を向ける。参考書というらしいその本のページを捲ってみると、見たこともない言葉や記号が、これでもかと言う程びっしりと書かれていた。見ているだけで頭が痛くなってくる。
「全くわからない。そもそも読めない……」
「それは英語だからだよ。慣れないとわからないかもね。中央界とかと違って、物質界は色々な文明があるから。……まぁ、それなりに覚えれば何とかなると思うよ?」
天使や悪魔といった存在は、どの世界の人間にとっても概念に近い。それ故に、その気になれば誰であろうと言葉は通じる。ルイには理屈はよくわからないが、他の世界に移ることが出来る存在の話す言葉は、そういった特殊な物なのだ。
ただ、表記する、或いはそれを読み解こうとするならば、最低限のことは覚える必要が出てくる。遺跡の調査をしてきたユエも、言語についてはかなり勉強していた。
机の上にノートや筆記用具を並べると、ユエはまるで教師のようにルイの前に立った。その手には、彼の物と思われる参考書がある。
読めないが、ルイは取り敢えず『算数・数学』という字の書かれた参考書を開いた。数字については何処であろうと殆ど変わらないらしい。詳しい内容は抜きにして、一応読むことは出来た。
「足し算から始めようか。えっと、これなんだけど――」
参考書に並ぶ文字をペンでなぞりながら、ユエが説明を始める。それに合わせて、ルイは参考書の字を目で追った。思えば、こうして人に何かを教わるというのは、天界を出て以来経験していない。久しぶりのことだった。
最初はユエの説明も直ぐに理解することが出来て、あっという間に進んでいった。しかし、難易度が上がると共に、どういう訳か眠気が強くなっていく。
勉強を始めてから数時間後――部屋には机に突っ伏して眠るルイと、何とか彼女を起こそうと奮闘するユエの姿があったのだった。
* * *
それから一か月後のこと。ユエが色々と誤魔化した編入試験にも無事通過した二人は、爽韻高校と呼ばれる学校の正門前にいた。色々な専門学科がある為、この学校は難易度の差が激しいらしい。そう下の方ではない科に通うことになったが、二週間強でそれ程出来るようになるとは、ルイは決して頭が悪い訳ではないようだ。寧ろ、かなり物覚えはいいと言える。出会った頃から真面目に勉強させていれば、もっと上も目指せたかもしれない。緊張した面持ちで隣に立つ彼女を眺めて、ユエはそんなことを思った。
試験から数日が経った今日は、同じ科の生徒に校内を案内される予定だ。此処でその生徒を待っているが、中々姿を見せない。ルイは溜息混じりに呟いた。
「……まだ来ないな」
「そうだね。授業が長引いているのかなぁ」
時計を見上げれば、昼休みの時間帯に入っている。その証拠に、校庭には運動をしている生徒の姿もある。
一体どうしたのだろうか。ユエが首を傾げた時、校舎の方から自分達の方へ走ってくる人影が視界に入った。
「ごめんごめん! 待ったよね?」
二人の方に駆けて寄った少女がそう言うと、彼女の後ろを歩いていた少年が、挨拶代わりにユエに軽く手を振った。どちらも二人より少し年上だろうか。制服を着こなしているその姿は、如何にも高校生に見える。
待ったのかと問われたが、その通りだと返すのもどうかと思い、ルイは取り敢えず首を横に振った。彼女の答えに少女はほっと息を吐き、名前を名乗る。
「えっと、明日から同じクラスになるんだけど……流川青音です。青音って呼んでね。それで、そっちの男子が風間黒斗」
黒斗と呼ばれた少年は軽く会釈をすると、宜しくと呟きながらユエに片手を差し出した。戸惑いながら握手を交わしたユエは、視界の端でルイがくすりと笑みを零していることに気付き、肩を竦める。握手を求められたことが少ない為にどうしようかと逡巡してはいたが、笑うことはないだろう。
青音の口から出た説明によると、どうやら彼女達二人は級長のようだ。転入生の案内を教師に任されたのだと説明していた。尤も、任されなくてもするつもりだったらしい。
「転入生って気になるじゃん? 早く会ってみたかったの」
青音はルイの方に顔を向けて微笑んだ。その愛らしい笑みに、ルイは自分とは大違いだと感じていた。
不意に青音に名前を問われ、ルイは返答に困ってユエの方を見る。どう答えるべきかと目で問い掛けると、ユエは任せろとでも言うように片目を瞑った。
「俺は月城ユエ。名前で呼んでいいよ。こっちの子は星野ルイ。宜しくね」
ユエの口から出て来たのは、この学校の試験を受けた時に使った名前だ。それぞれの名字は、ユエが考えた。この国では漢字と呼ばれる物が一般的らしいので、違和感がないように考えたのだとルイは聞いている。
確かに、名字を変えるのは当然のことかもしれない。ただでさえ転入生として注目を集めているのに、更に耳慣れない名字を使っては目立ち過ぎる。
可愛い名前だと青音に言われ、ルイは少し頬を赤く染める。どうやら青音は、気になったことや思ったことを直ぐに口にするタイプのようだ。人のことを何でも聞いてきそうな彼女と共にいるには、慣れが必要かもしれない。彼女のような明るいタイプが、ルイは少し苦手でもあった。同じ明るいでも、ユエとは異なるタイプだ。
青音はルイの気持ちを知ってか知らずか、早速案内をしようと親し気に彼女の手を握り、校舎の方へと引っ張っていく。
再び困った表情を浮かべて、ルイはユエに視線を向ける。だが、彼は既に楽しそうに黒斗と世間話を始めており、ルイの助けを求める視線には気付いていなかった。友人関係を築きつつある彼の様子に、ルイは置いていかれたような気分になる。
置き去りにされた気持ちとは反対に、ルイの身体は校舎の中へと引き摺られていった。
* * *
一通り学校の案内が終わり、ユエ達四人は屋上で休憩がてら周囲に広がる景色を眺めていた。青音は運動場で練習をする部活を眺めながら、傍らに立ったルイに説明する。
「真ん中の方にいるのが野球部。何度か甲子園にも出てるんだよ。端の方で走ってるのが陸上部で、去年は全国大会で優勝してるんだ。ちょっと遠いけど、あっちの球技コートにいるのがテニス部で……」
先程から校内の設備などについて延々と続く説明に、ルイはそろそろ頭の整理が出来なくなってきていた。学校に来てからというもの、初めて聞く言葉を片っ端から覚えようとしていたが、最初の方に聞いたことは最早覚えていない。
ちらりとユエに目を向けると、彼はルイの気持ちを今度は汲み取ったようだ。苦笑いを浮かべながら、青音に一旦説明をやめるように言ってくれた。どうしたのかと首を傾げる青音に、黒斗が困惑するルイの方を指差す。彼も、大体の理由を察していたようだ。
「一気にこの学校のこと、覚えられるわけないだろ。少しずつ説明してやれよ」
「あ、そっか」
両手を合わせてごめんと呟く青音に、黒斗は溜息を吐いていた。
これまでに教えられた言葉について暫し考えていたルイだったが、やはり理解が追い付かない。彼女は眉を寄せながら、ユエの顔を見上げた。
「ユエ……その、やきゅうとは何だ? てにすとは何だ? それからやきゅうとは何だ?」
「うん、同じこと二回も聞いてるね。大丈夫?」
「言葉とはあんなに難しい物だったか?」
「そんなことないからね。取り敢えずちょっと落ち着こうか」
ルイの頭を優しく撫でて、ユエはそっと微笑む。前々から思っていたが、彼女が戸惑っている時の反応は、普段の強気な性格とは正反対のものだ。それ故に、とても可愛らしいと感じる。
暫くルイの頭を撫でてやっていると、何やら青音が意地の悪い笑みを浮かべていることに気が付いた。何かあるのかと問えば、彼女はユエとルイを交互に見やり、くすりと笑い声を漏らす。
「ふーん、二人って実はそういう関係? だから同じ学校に来たの?」
どうやら、色々と勘違いをされているようだ。彼女の言う『そういう関係』が、ただの友人や仲間といった物ではないことを、ユエは知っていた。残念ながら青音が期待しているような関係ではないと否定して、ユエは密かに溜息を吐く。
二人の会話について、ルイはよくわからなかったようだ。どういう関係のことだと問われて、ユエは気にしなくていいと呟く。ルイにとって、自分は旅を共にしている仲間に過ぎない。これからそれ以上の関係になることは、まずあり得ないだろう。色恋に関して、彼女は疎過ぎるから。
何でもないならいいと告げて、ルイは屋上の端へと移動した青音を追い掛けて、ユエの元を離れた。彼女の背を見つめて、ユエは少々悲しいような気持ちに襲われる。隣に立っていた黒斗に、慰められるように背中を叩かれた。
ふと思い出したように、ユエは屋上に佇むルイの姿を眺める。フェンスに近付いて下を覗き込んでいる青音の傍らで、彼女も興味深そうに運動場を眺めていたが、何処か距離を置いているように感じられた。人見知りをする彼女が、完全に青音に馴れていないことだけが原因ではない。隠していることがあるという、申し訳なさからの物でもある。ユエもそれは同じだった。黒斗も青音も親しみを持って接してくれているが、やはり何処か距離を置いてしまうのだ。
二人に全てを話すには、まだ時間が必要だろう。本当に互いのことをよく理解出来る関係になれたのなら、話してもいいかもしれない。
そんなことを考えていたユエだったが、二人に全てを話す機会は、彼の予想を遙かに越える速さでやってきた。
「あれ、ルイちゃんってピアスしてるの?」
不意に青音に問い掛けられて、ルイははっとして耳を押さえる。目立たないように小さめの物を選んで付けていたが、髪が風に靡いたことではっきり見えてしまったようだ。校則違反にはならないが、真面目そうなルイがピアスをしているとは思わなかったのだと、青音は呟いていた。
「あー……でも、体育の時とかは取った方がいいかも。先生が煩いんだよね、危ないとか何とか」
青音も髪型などで注意されたことがある為、体育の教師は余り好きではないのだ。転入生となれば、暫くは教師に注目されるかもしれない。気を付けた方がいいとルイに忠告して、彼女の耳で煌めくピアスに指を触れた。
触れられた直後、ルイの耳に微かに痛みが走る。同時に皹の入るような音が聞こえたかと思うと、青音が慌てた様子で手を離した。彼女の片手には砕けた金属の破片と小さな飾りが乗っている。見覚えのあるそのデザインに、ルイはピアスが壊れたのだと直ぐに悟った。
「ご、ごめん! ちょっと触っただけのつもりだったんだけど……って、」
ふわりと風に靡いたルイの髪を見て、青音は目を丸くする。不思議に思ったルイだったが、視界に入った自分の髪の色に、何故驚かれているのか納得した。姿を普通の人間のように見せる為に付けていたピアスが壊れた――即ち、ルイの髪が銀色に戻ってしまったのだ。
ちらりと視線を動かせば、しまったという表情を浮かべているユエと、彼の隣で青音と同じように驚きに目を瞬かせている黒斗がいた。
「もしかして、私……凄く拙いことしちゃった?」
恐る恐る問い掛ける青音に対し、苦笑を向けることしかルイには出来なかった。
* * *
自分達が人間とは異なる存在であること、別の世界から来たということ、何を目的に旅をしているのか――仕方なく青音と黒斗に全てを語ったユエは、ルイのピアスを手に溜息を吐いた。まさかこんなにも簡単に壊れるとは思っていなかった。この世界に来る度に使ってはいるが、壊れてしまう程ではないだろう。
金具の破片を見る限り、直すことは難しそうだ。諦めて新しい物をルイに渡すことにして、ユエは壊れたピアスをポケットに仕舞った。
青音は興味津々といった様子でユエの話を聞いていた。ルイのような銀色などに髪を染めた者は偶にいるが、彼女程に美しい髪は見たことがない。ユエの髪もそんな風に変わったりするのだろうか。
「ユエ君は普段、どんな感じなの? 剣士みたいな格好とか似合いそうだけど」
「……あの、さ。俺が言うのもどうかと思うけど、まさか俺の話信じてるの?」
ユエは青音の質問にそう問い返す。ある程度まだ話していないこともあるが、それでも素直に信じてもらえるとは到底思えなかった。夢物語だとバカにされても仕方ないと考えていたのだ。
しかし、青音は不思議そうな表情こそ見せたものの、疑っている様子は欠片もなかった。それ所か、詳しく教えてもらいたくて仕方がないようだ。黒斗もまた、妙に納得しているように見える。
疑問に思ったことをユエが率直に口にすると、青音と黒斗は暫し顔を見合わせてから、平然と答えた。
「だって、目の前で見ちゃった訳だしねー、魔法っぽいこと。ユエ君の話、全然嘘っぽく聞こえなかったし」
「……黒斗は」
「普通、もっとマシな嘘吐くだろ。それに、魔法以外でさっきのをどう説明するんだ?」
鋭い指摘に、ユエは閉口してしまう。助けを求めるようにルイの方を向くが、彼女も返す言葉が思い付かないらしく、肩を竦めていた。
頭の中でユエの話を整理した青音は、残念そうに呟いた。
「そっか。じゃあ、二人はそんなに学校来られないんだね」
中央界を中心に動いているユエ達は、それらしい情報がなければ他の世界にはまず行こうとはしない。だが、正面に学校に通うとなれば、中央界を離れることの方が多くなってしまう。自分達の正体や能力を隠し、慣れない世界で生きることは簡単ではない。魔法などの存在が普通である中央界が、やはりユエ達には過ごし易い場所だ。
そういった理由があるなら仕方ないと、青音も黒斗も直ぐに切り替えていた。二人の切り替えの早さに、ユエは感嘆すると同時に呆れのような感情を抱く。どうせ信じてもらえないと考えて当分は隠すつもりでいたことが、こんなにも簡単に受け入れられてしまってよいのだろうか。細かいことを気にしない性格だとしても、もう少し疑いの目を向けるべきではないのか。それともこの世界の人間は、ユエが思っていたよりも大雑把なのだろうか。悩むユエの肩を軽く叩き、黒斗がそっと微笑んだ。
「俺も青音も、何か隠しごとされてるような気はしてたんだ。変に距離置かれてるように感じてたし。ちゃんと話してもらえたんだから、内容なんて関係ないって」
何時もそういう考え方をしていると、彼は言葉を付け足した。青音と黒斗は級長という立場を抜きにしても、同級生に内密にしてほしい相談など、色々な話を聞いている。だが、内容について深く考えたことは一切なかった。隠しごとがなくなり親しくなれるだけで、充分なのだと。
黒斗の言葉に、ユエの考えは別の方向へと変わっていった。よく相談に乗るという話に、人のよさそうな黒斗の笑顔。男の自分から見ても、彼は中々素敵だと思える。もしかしたら内密にしてほしい相談は、女子生徒からも多いのかもしれない。仲がよさそうに見える青音との関係も、気になる所だ。
物珍しそうにルイの銀髪を撫でながら、青音はもっと色々な話を聞かせてほしいとユエに頼んでくる。話せることであれば、何でも聞きたいという様子だ。大人しく彼女に撫でられているルイにどうするか問うと、特に問題はないと答えた。青音との距離感にも慣れてきたのか、撫で続けていた彼女の手を掴み、そろそろやめてくれと呟いていた。
ルイが構わないのであれば話してもいいか。早く聞きたいのか急かしてくる青音に苦笑を浮かべながら、ユエは再び口を開いた。
* * *
「――まぁ、そんな訳で。聞いてた通りの子達だったよ」
夜風が吹き込む部屋の中で、壁に寄り掛かかった人物は楽しそうに笑った。窓枠に座り込んでいる黒服の青年は顔を上げ、静かに溜息を吐く。余り知られたくない情報を隠そうとするのは予想していたが、あっさり話さなければならない状況になるとは。壁際に立つ人物の口から語られたユエの様子に、青年は呆れていた。
「詰めが甘いのは相変わらずだな。……これからどうするんだ、お前は」
問われた人影は暫し考え込む。青年の言葉は、同じように秘密を抱える自分が、ユエ達に何時そのことを話すつもりかという意味だ。
まだ互いに知り合ったばかりで、自分のことを話すには早過ぎる。ユエの嫌う存在が共にいる、そして自分がどういう存在であるのか――今話しても、彼らは困惑するだけだろう。それに、話しても理解してもらえそうにないこともある。
「暫くは様子を見ようと思う」
「……好きにすればいい。但し、俺のことは当分は言うなよ」
それなりの機会でないと、余計に嫌われてしまうだろうから。青年がそう呟くと、人影は再び笑った。
「わかってるよ、ルシファー」