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初めての世界

ギャップ萌再び。


(2018年2月7日加筆・修正及び前編・後編を結合)

 人どころか動物すらも中々寄り付かない洞窟は、水の音が響くだけで静かなものだった。

 だが、そんな洞窟に、今は空気を読まぬ明るい声が響いていた。


「はぁぁぁ……知ってる? この遺跡って何世紀も前に出来たんだよー」


「はいはい」


 壁画や石碑を眺めては幸せそうな溜息を吐くユエと、彼の言葉を華麗に流して手元の地図に目を落としているルイの姿が其処にはあった。

 洞窟、もとい地底の遺跡に残された数々の痕跡を目にしては、新しい情報を書き留めて騒いでいる。そんなユエの様子を見たことで、ルイは彼を放って置くことにしていた。興味のある情報は書いているものの、彼は地図上の遺跡の位置関係や今まで通ってきた道について、全く頭に入れていないようだった。こんな所で出口もわからず彷徨う羽目になるのは御免だと、ルイは忠実に地図に目を通している。


「あー、やっぱりいいよね、こういうのって。趣とか感じちゃうよねー」


「はいはい」


「……ねぇ、ちゃんと聞いてる?」


 ユエの言葉の大半を無視して、ルイは手元の地図を見ながら、足元に道標となる赤い円を書いていた。先程から、曲がり角や別れ道に来る度にやっている。ユエは、道に迷わないように工夫している彼女の気苦労も知らないようだ。

 情報を書き留めていた帳面を閉じ、ユエは肩を竦める。貴重な遺跡に興味を示さないルイの気持ちも、彼には理解出来なかった。


「全くもう……興味ないのはわかったけどさ、もう少しちゃんと聞いてくれたっていいんじゃないの?」


「煩い、道に迷いたいのか?」


「……ゴメンナサイ」


 微妙に噛み合わない気がする会話を謝罪の言葉で打ち切り、ユエは溜息を吐く。ルイの態度は少々厳し過ぎる気もするが、そのことを指摘すると痛い目を見そうだと思い、口にするのはやめた。

 ルイが苛立っている理由には、薄々気が付いていた。ただでさえ使いこなせていなかった力が、ユエの力によっていきなり制限されたのだ。本当に暴走しないのか不安に感じているのだろう。もしかしたら、思うように力が使えなくなっていて、余計に苛立っているのかもしれない。


「ねぇ、ルイ?」


「……」


「ねぇってば。無視しないで聞いてよ」


 ユエが拗ねたように話し掛けると、ルイは漸く振り向いた。何だか、先程よりも不機嫌そうに見える。


「しつこいぞ。今度は何だ」


「そうやって苛々を人にぶつけないでよ、気持ちはわかったからさ……。で、聞きたいことがあるんだけど」


 もしもくだらないことだったら怒る――ユエの問い掛けに耳を傾けながら、ルイはそんなことを思う。だが、彼は意外にも真面目そうな表情を浮かべていた。一応は正面な質問なのだろう。


「流星石、探しているんだって言っていたよね?」


 ルイは頷く。そして、まだ彼にきちんとした説明をしていないことを思い出した。

 流星石とは、過去に起こった惑星十字列(グランドクロス)の際に降り注いだ特殊な隕石。それから生まれた宝石の一種である。惑星十字列の不思議な力を取り込んだ、未知なる石。封印や無効化の力を強く持つ物だ。古くから神の齎した奇跡と噂される石だが、その性質上、利用されることは少なかった。その為、文献などは殆ど残っていない。

 流星石は何処にあるかまずわからない。惑星十字列の力を取り込んだ物もあれば取り込まなかった物もあり、隕石が降った場所だけでなく、世界さえ違う。ただ共通するのは、其処が世界が交わり掛けている所と言うことだけ。


「天界だとか魔界だとか関係なく、何処にでもあるな」


「でも、俺達がその二つの世界に行くのは危険過ぎるよね?」


 二人共、自分達の生まれた世界から中央界へ移動してきた身だ。人間には他の世界に移ることは出来ないが、信仰の対象とされる天使や精霊、悪魔のような存在は、他の世界に行くことが出来る。その世界で必要とされているからだ。

 だが、それ故に他の世界に影響を及ぼしていると考えられる。世界が交わろうとするのは、彼らが自分の住まない世界を行き来しているのも、原因の一つかもしれない。

 自分の住んでいた世界に戻れない立場である為、天界も魔界も二人には危険過ぎる。そもそも、天使は魔界に、悪魔は天界に行くことが出来ない。性質の違う世界に行けば、身体が耐えられなくなる。どの世界を行き来しても問題ないのは、力の強い堕天使ぐらいだろう。


「そうだろうと思って考えてたんだ。一番安全で、一番楽な所で探せばいいってさ」


「……一番、楽な所?」


 そう問い掛けると、ユエはにこりと優しく笑った。


「物質界だよ」


「……気乗りしないな」


 少し目を逸らしてルイがそう答えると、ユエは態とらしく声を上げて身を乗り出した。

 ルイが嫌そうにしている理由が、彼にはわからないようだった。どうしてダメなのかとしつこく問い掛けてくるので、溜息と共に言葉を返す。


「物質界は、要するに科学とやらが発達した世界なのだろう? その代わりに魔法を失った、もう一つの中央界とも言える」


 そう、元々中央界と物質界は、一つの世界だったのだ。

 かなり昔のこと、丁度物質界で言えば神話が数多く作られた時代。その当時は魔法が主となっていたその世界は、科学の研究が進んだある時に、二つの世界に分裂したと言われている。ただ、その記録は中央界や天界には残っている物の、物質界からは魔法を使うのは非現実的なことだとされて消されてしまったらしい。

 そして、現在物質界に住む者は、中央界の存在を全く知らずにいる。

 魔法を否定した世界は僅かに信仰が残るだけで、ルイ達にとって非常に生き辛い場所だ。今でも問題なく物質界で生きられるのは、伝承も数多く残されている精霊ぐらいだ。


「じゃあ聞くけど、中央界で延々探すつもり?」


 ルイは閉口してしまう。中央界ではついこの前出会った山賊や海賊によって、旅を邪魔されることも少なくない。その度に危険な目に遭うのは、彼女も嫌ではある。物質界ならば、普通の人間として過ごしていればまず危険な目には遭わないだろう。

 説得しようと必死になっているユエを見て、ルイは両手を軽く上げた。もう返す言葉がないと、素直に降参する。


「まぁ、確かに……流星石は物凄く珍しい物だから、中央界だけで探すのには無理があるな。だが、物質界へ行っても、どうやって情報を集めるんだ?」


「心配ないよ。俺、何度も物質界に行っているから」


 何をしに行っているのかとルイは疑問に感じたが、直ぐに理由は思い付いた。物質界にも、遺跡の類はそれなりに多く残されている。物質界の人間から見た世界の情報があるのだ。ユエは、それを目的に行っているのだろう。

 どうせまた付き合わされるのだろうな――顔を引き攣らせたルイに対し、ユエは得意気な表情を向けた。


「ま、俺に任せてよ」


 * * *


 遺跡の最深部に辿り着いた二人は、一際大きな壁の前で足を止めていた。絵などの描かれていない壁は、自然に出来た物のようだ。岩肌がそのまま見えている。


「此処が丁度いいかな」


 手の甲で壁を軽く叩いたユエは、足元に落ちていた岩の欠片を手にする。尖った先端を壁に向けると、何やら複雑な文字や記号を書き始めた。砕けた破片が岩肌に付き、白い傷のような跡が残る。最後に門のような形で記号を囲み、ユエは壁から離れた。

 壁に描いた白い線が、俄に光り始める。書かれていた記号が岩肌に吸い込まれるように消えたかと思うと、門の中に穴が空くように岩肌が窪み、其処に黒い渦が現れた。

 ユエのような魔に属する者が移動に使うのが、この門なのだろう。書かれた文字や記号は、ルイには理解出来なかった。何処へ通じるか、その情報を書いたのだとユエは説明した。

 物質界に行ったことのないルイに任せてしまうと、何処に出るかわからない。そして、二人が移動したことに気付かれないよう、出来るだけ人気のない場所を選んだ方がいい。ルイはこの二点を踏まえて、言われた通り、ユエに任せることにしたのだ。

 此処に迷い込んだ誰かが間違って移動してしまわないように、時間の制限も設けてある。早く移動しようと、ユエはルイの背を押した。


「……お前が先に行ってくれ」


 流石に物質界のことをよく知らない自分から行かせるのはどうなのか。踏み止まるルイの顔を眺めたユエは、彼女が足を進めない理由を思い付く。


「もしかして、怖いの?」


 図星だったのだろう。ユエの問い掛けに対し、ルイは沈黙してしまった。賊には平気で立ち向かう彼女が、『知らない場所』を怖がるとは。意外だと感じる一方で、ユエは思わず笑ってしまう。


「な、何がおかしい!」


「いや、ちょっと意外で……ふふ」


 笑い声を抑えようとしているユエの肩が震えているのを見て、ルイは頬を膨らませていた。機嫌を損ねてしまったようだ。

 怒らないで、とルイを宥めながら、ユエは彼女の手を握る。怖いなら一緒に行くと伝えると、彼女は不服そうではあったが、黙って手を握り返してきた。


「じゃあ、行こうか」


 慣れない様子で半歩後ろを歩き出したルイを先導しながら、ユエは黒い渦の中に足を踏み入れる。ルイも彼に続き、渦の中に入る。

 二人が入って間もなく、渦は消えてしまった。門の模様も直ぐにただの傷へと変わり、何ごともなかったかのように岩肌に残るだけだった。


 * * *


 奇妙な浮遊感――何時だったか、自分が中央界に来た時と同じ感覚を懐かしみながら、ルイは地面へと降り立った。ずっと握っている手の先には、大丈夫かと問い掛けてくるユエの姿があった。

 此処が物質界かと考えたルイは、思わず息が詰まるような空気に顔を顰める。先程までいた中央界や、ルイが育った天界と比べて、圧倒的に空気が悪いと感じた。

 空を見上げれば、彼女が見たこともないような高い建物が犇めき合っていた。聞こえてくる喧騒は、彼女の知る街とは比べ物にならない程だ。

 辺りを見渡すが、近くに人の姿は見当たらない。薄暗く狭い此処は、中央界とは大分違うが、路地裏のようであった。


「ちょっと待ってね。……はい、これ」


 ユエはポケットから何かを取り出して、ルイに差し出した。小さな十字架の形をしたピアスだ。二つあったそれの内の一つを片手に持ち、彼女に問い掛ける。


「ピアス、付けられる?」


 大丈夫だとルイが頷くと、ユエは彼女の左耳にそっと触れる。彼の指先をくすぐったく感じたが、大人しく我慢していた。

 やがてユエの手はルイから離れる。確認するようにルイが頭を軽く振ると、付けられたピアスが揺れた。太陽の光を反射して煌めくと、ルイの身体は仄かな光に包まれる。

 気付いた時、ルイの容姿は一瞬にして変化していた。銀髪だった髪は黒髪に変わり、服装はワンピースや薄手のカーディガンといった、物質界における『普通』の姿となっていたのだ。

 自分の変化に驚いてわたわたと慌てるルイを見て、ユエは笑いそうになるのを必死で堪えた。今笑ったら、また怒られるだろうから。


「さて、移動しようか」


 ユエも同じように容姿を変え、ルイの手を取って表の通りに出た。

 喧騒からも薄々感じていたが、中央界に比べて圧倒的に人々は多い。ルイは呆気に取られ、口を半開きにして立ち尽くしてしまう。だが強引にユエに腕を引かれて、転びそうになりながら彼の後に続いた。


「ね、行きたい所ってある? って言っても、何があるかわからないよね」


 苦笑したユエに、こくこくと頭を上下に振って答えた。ルイの物質界についての知識は少々偏っていて、詳しいことは知らないのだ。


「うーん……。じゃあ取り敢えず、楽しめる場所にでも行く? まだ来たばっかりだし、いきなり情報収集とかはしなくてもいいよね?」


「それは構わないが……何処へ行くんだ?」


 また遺跡か何かかとルイが問い掛けると、ユエは首を横に振る。それから照れ臭そうに頬を掻いて、笑顔を浮かべた。


「ちょっと行ってみたい所があるんだ」


 * * *


 ユエに連れて行かれたのは、物質界の中でも特に賑わっている場所のようだった。鳴り止まない音楽と人の声。そして、周りにいるのはやはり人、人、人……。

 気を付けないと迷子になってしまいそうだ。おろおろとしながら視線を彼方此方に向けていると、ユエがしっかりと手を引いてくれた。

 そう、此処は特に人が集まる場所。――遊園地だ。

 人の波に揉まれながら、ルイは必死にユエの背中を追う。人混みのない場所に早く出てほしいと願いながら、彼に声を掛けた。


「あ、あの、ユエ」


「ん? どうかした?」


 ユエは一度足を止め、ルイの方を振り返る。突然立ち止まった為に、ルイは彼の背にぶつかった。軽く打ってしまった鼻を擦りながら、自分よりも少し背の高い彼の顔を見上げた。


「手を、離さないでくれ。迷ってしまう……」


「……う、うん」


 手を握る力を少し強めながらのルイのその言い方が可愛くて、心臓が軽く跳ねたのは内緒だ。

 実は、ユエ自身もこの遊園地に来るのは初めてだった。前々から面白そうとは思っていたが、男が一人で行くような所ではないと理解していた為に、結局行かないままだったのだ。

 ルイが楽しんでくれればいいが。ちらりと表情を盗み見ると、彼女は落ち着かない様子で辺りを見回していた。

 漸く人混みを抜けて、少し開けた場所に出る。同じ所を走り続ける白馬や、今にも空へ飛び出してしまいそうな程に揺れる船。見たことのない物が、周囲を取り囲んでいた。その中に特に妙な物を見付けて、ルイは首を傾げる。


「ユエ、あれは何だ?」


 問い掛けられてユエが見上げた先には、幾つもの鉄の柱と宙に浮いた線路、そしてその上を走る細長い乗り物があった。かなりの勢いで走るその乗り物には、楽しそうな表情で、或いは強張った顔で叫ぶ人々が乗っている。

 近くの看板に書かれた名前を眺めて、ユエは答えた。


「あれはジェットコースターだよ。乗りたいの?」


 悲鳴が聞こえてくるので気になったのだろうと、ユエは直感した。乗りたいのか尋ねたが、ルイは暫し考え込んだ後、首を横に振った。悲鳴の上がるような物は流石に嫌なのだろう。幾ら男勝りな性格とは言え、一応はか弱い女の子なのだから。


――女の子……。


 改めて見ると、やはりルイは中々の美少女だった。その容姿に惹かれる者も多いだろう。

 しかも、銀髪を黒髪に変えてしまうと、普通の人間の少女にも見える。この世界では彼女の言葉遣いや性格はおかしく感じられるかもしれないが、佇んでいる様子は見ているだけで得した気分になる。現に、道行く人々――特に男性は、ちらちらと彼女に目を向けていた。

 そんなことを考えていると、当の本人が不思議そうな視線を向けて来た。小首を傾げる仕草に、また心臓が跳ねる。性格と相反する可愛いその仕草は、ユエの心を掻き乱すには充分な力を持っていた。


「ユエ、彼処は何だ?」


 再び周囲の様子を眺めていたルイに問い掛けられて、ユエははっとする。

 ルイが指差す先には、様々な店が建ち並ぶ通りがあった。その中で彼女が注目しているのは、派手な装飾が特徴の建物。


「……ゲーム、したいの?」


 お土産を売る店の一つとして建てられた、ゲームセンター。それを見たユエの言葉に疑問符を浮かべつつ、ルイは笑顔で口を開く。


「げーむが何なのかはわからないが、取り敢えず行ってみたい。怖そうな音は聞こえないから」


「……じゃあ、行こうか」


 嬉しそうに顔を輝かせ、ルイはぱたぱたと小走りで目的地に向かう。その背を見失わないように、彼も歩くスピードを少し速めたのだった。


 * * *


 効果音やら放送されている音楽やらで、ゲームセンターは騒がしい空間になっていた。

 そこそこ多い人の波をどうにか掻き分け、二人は建物の奥の方へ辿り着いた。ルイは大丈夫かと心配して振り返ると、彼女は人混みを通った為に乱れた髪を撫で付けながら、困ったような表情を浮かべていた。

 ユエの視線に気付き、彼の方へ向き直って自分は大丈夫だと伝えた。彼はやはり心配そうに見ていたが、溜息を一つ吐いて、ルイに優しい笑顔を向けた。


「それで、何がしたいの?」


「ええと……あの……」


 行きたいという意志ははっきり伝えたというのに、何がしたいのかと聞けばルイは口籠もってしまう。ユエは首を傾げながら、彼女が視線を飛ばしている先を見て、「あぁ」と呟いた。

 この遊園地のマスコットである兎のぬいぐるみが、彼らの直ぐ近くに置かれていた。商品見本の物だろう。色々な人に何度も触られた為に薄汚れた白い毛の兎。確か、『うささん』と呼ばれていただろうか。

 思い返すと、この建物の入口に、大きなポスターが貼ってあった気がする。ルイはこの兎を見て、此処に来たくなったのだろう。……可愛い物が好きという所は、普通の少女と同じなのだ。

 ユエが自分の言いたいことを理解してくれたのだと感じ、ルイは彼の服の袖を軽く引いた。


「あれが欲しい」


「いいけど……穫れるかなぁ」


 うささんのぬいぐるみは、UFOキャッチャーの中。上手く穫れればいいが、しくじって彼女を落ち込ませたらどうしよう。格好悪い所は見せたくないと思いつつ、ユエは操作台の前に立つ。期待の籠もったルイの視線が、プレッシャーになる。

 やるだけやるしかない。遊んだことも殆どないゲームを前に、ユエは密かに溜息を吐く。

 百円硬貨を一枚入れ、ボタンを押してクレーンを動かす。その仕掛けを興味津々で見つめているルイに、思わず笑みが零れた。止まった位置で降りたクレーンから視線を外し、彼女の反応を見ていることにする。

 そして、上がってきたクレーンに白い兎の姿を確認し、ルイは驚きつつ目を輝かせた。まさか穫れるとは思っていなかった為、ユエも目を丸くする。

 取り出し口に落ちたぬいぐるみを拾い上げ、ルイに渡す。彼女は心の底から嬉しそうな笑顔をユエに向けた。


「ありがとうな」


「う、うん」


 思わず見取れていた自分に気付き、ユエは慌てて笑い掛けた。

 他人から見れば、ただのカップルに見えるのだろう。だが、実際は付き合っている訳ではない。ユエはそれが少し残念だった。ルイに至っては、自分達がそんな風に見えることに気付いてもいないだろう。彼女は恐らく、恋愛に疎い。


「可愛いな、うささんって」


 抱くのに丁度いいサイズのぬいぐるみは、ルイの両腕にしっかり収まっていた。ユエは落とさないだろうかと思ったが、流石に子供ではないから大丈夫かと考え直す。

 ルイもゲームに挑むかと問うと、苦笑いと共に遠慮された。


「次は何がしたい?」


「あの大きな滑車に乗りたい」


 滑車とは何のことだろうか。似たような形状の物を探していると、彼女は近くの窓に手を着き、観覧車の方に視線を向けていた。観覧車のことだったのかと理解し、建物から出て其処へ向かう。

 近くで見ると、ルイはその大きさに圧倒されていた。夕日色に染まった空を背に、花のような形をした赤い鉄骨の骨組みが聳え立っている。その花びらの先に、黄色や青、緑といった色とりどりのゴンドラが吊り下げられ、花本体はゆっくりと回転していた。

 そんなことを感じたとユエに述べると、彼は笑いながら付け足した。乗ったらもっと驚くだろうと。

 係員に誘導され、二人は青いゴンドラに乗った。ルイが窓に手を着いて下を見ると、徐々に地面との距離が離れて行くのがわかった。

 ユエはルイの向かい側に座り、はしゃぐ彼女をぼんやりと見ていた。ルイがこのような反応をするとは、思っていなかった。その気になれば、自分の翼でこの位の高さまで飛ぶことは出来るだろう。

 そんなことを考えている間に天辺の方に近付いているのに気付き、ユエは下ばかり見ている彼女に声を掛けた。


「ルイ、下じゃなくて周りを見てみなよ」


「周り?」


 顔を上げたルイは、目に入って来た景色に、一瞬息をすることも忘れた。

 地上から大分離れた其処からは、街を彩る鮮やかな光の海が見えた。かなり遠くには、連なる山の影も見える。見事としか言えないその風景は、中央界でも天界でも見たことがない。ルイはすっかり見惚れていた。


「綺麗……」


「そうだね。でも、昼間も凄くいい景色なんだよ。青空に届きそうに見えるんだって」


 ユエの言った景色も、何れ見てみたいと思った。きっと、自分が想像する以上に綺麗なのだろうと。


「また来たい?」


「あぁ。お前と来ると、とても楽しい。だから、今度もお前が連れて来てくれ」


 椅子に座り、ルイは微笑みを浮かべていた。下がり始めたゴンドラに合わせる様に、太陽も傾き、地平線の向こうへ消えて行く。

 星の輝き始めた空を眺めながら、二人はお互いに笑みを交わし合った。


 * * *


 遊園地から出ると、二人は最初に訪れた街へと戻っていた。ルイは中央界に帰るのかと考えていたが、ユエの様子を見る限り、どうも違うらしい。

 彼に手を引かれて暫く歩いていると、彼は高い建物の前で足を止めた。ルイも立ち止まり、建物を見上げる。

 何十階建てなのだろうか。少なくとも二十階ぐらいはありそうだ。こんな建物、中央界には滅多にない。あるとしても遺跡などの塔で、それでも充分珍しいというのに。この世界では、高い建物は珍しくないのだろう。

 ユエはさっさと中に入ろうとする。慌てて彼を追うと、建物の内装にまた驚かされた。

 豪華な照明と、細かい模様の入った壁。それに高級そうな赤い絨毯といった、煌びやかな世界が広がっていた。自分は場違いなのではないかと思ってしまう。

 だが、ユエは全く動じずに近くにいた従業員と思われる男性に声を掛けていた。ルイには何のことを言っているのかわからない。聞いたこともない言葉が二人の間を飛び交う。

 特にすることもないので、取り敢えずユエの後ろで彼の袖を掴みながら立ち尽くしていた。

 数分話した後、ユエはルイの方に振り向き、彼女を案内し始める。扉が二つ並んだ壁の前に立ち、その間にあったボタンを押す。


「ルイはまたびっくりすることになるかもね」


 その言葉に首を傾げるが、彼はただ笑っているだけだった。

 暫くして、目の前の扉がゆっくりと開いた。だが、開けたと思われる者は中にいない。何がどうなっているのだろう。

 呆然と立ち尽くしていると、ユエに手を引かれた。


「ほら、入って」


「あ、あぁ……」


 彼に連れられるまま中に入ると、後ろで扉が急に閉まった。驚いて振り向くと、ユエが扉の前に立って意地悪く微笑んでいた。

 一体何なのかと問い掛けようとしたが、突然床が揺れて、ふらりと壁に手を着いた。自分の身体が少し重く感じる。突然重力が強くなったのかと考えたが、どうも違うようだ。床ごと持ち上げられているように思える。

 二分程経つと、身体は元のように軽くなった。ルイが呆けたように突っ立っていると、背後の扉が今度は勝手に開く。

 恐る恐る外へ出ると、先程いた場所とは違う所に出ていた。真紅の絨毯が続く長い廊下で、大きな窓からは幾つものビルが建ち並んでいるのが見える。

 ユエに続いて廊下の突き当たりにある扉の前まで行くと、彼は鍵を開けて中へと誘導する。

 扉の中を覗き込んで、ルイは再び驚嘆の声を上げた。最初に見た物にも負けない程豪華な照明に、それに見合った広い部屋。


「……ルイ? 大丈夫?」


 ユエが呆然としている彼女に心配して声を掛けると、はっと我に返ったようだった。


「あ、えと、一体何がどうなっているんだ? 此処は何なんだ? お前の家か?」


「違うよ。そうだな……。中央界で言うと、此処は宿屋だよ。凄いでしょ?」


 この世界に於ける城かと思った。ルイがそんなことを呟くと、ユエは吹き出しそうになるのを堪えているように見えた。だが、顔は完全に笑っている。笑い過ぎだと、ルイは頬を膨らませた。


「晩御飯、食べようか。作るけど」


 ユエが提案すると、ルイは途端に嬉しそうな表情になる。何方かと言えばユエは料理が得意だが、ルイは全くと言っていい程、料理が出来ない。旅をし始めてから何度か彼の手料理を食べたが、かなり美味しかったのだ。


「何か食べたい物、ある?」


「お前に任せる」


 ユエは少し考えてから、買い物に行くから待っているようにと告げて、部屋を出る。ルイが片手を上げながら送り出してくれた。

 大人しく待っていてくれるといいが……。一抹の不安はあったが、彼女を信じてユエは買い物に出掛けた。


 * * *


 皿の上に乗ったパスタをくるくるとフォークに巻き付けて、口に運ぶ。トマトの香りに包まれて、ルイは満足そうに微笑んでいた。

 作りがいのある表情だと感じながら、ユエは彼女の向かいに座り、同じようにパスタを食べていた。

 ミートボールをフォークに刺したルイは、思い出したかのようにユエに問い掛けた。


「ユエ、此処はほぼ宿屋と同じだと言ったな」


「ん? そうだよ」


「なら、何時も借りているのか」


「うん」


 彼が頷くと、ルイは「凄いな」と呟き、目を瞬かせていた。

 食事を終えて片付けをしている間、ルイが暇そうなので、テレビを点けてやった。当然、彼女は箱の中に小人がいると騒ぎ出す。

 彼女の慌てたような反応は、何回見ても面白い。そろそろ腹筋が痛くなってきたと感じながら、ユエは箱の正体を素直に教える。


「これはね、『テレビ』って名前なんだ」


 ルイは困惑したような表情を浮かべていた。自分もけして詳しい訳ではなかったが、どんな物なのか簡単に説明すると、ぶつぶつと何か呟いて画面を見つめていた。魔法より凄い物が沢山あるのだと、彼女は感じているようだった。

 色々な放送局の物を見ていると、丁度子供向けの番組があったので、それを見ることにした。わかり易いから、ルイでもそれなりに楽しめるだろう。

 ちらりと彼女の方に視線を移すと、興味津々のようだ。テレビに釘付けになっている。

 取り敢えず彼女が静かになっている今の内に、ユエはシャワーを浴びることにした。


「ルイー、何かあったら言ってねー」


 一応そう伝えたが、彼女には聞こえていないのか、反応がない。やれやれと肩を竦めて、ユエは部屋を出た。



 * * *


 シャワーを浴びた後、ユエは自分の部屋のバルコニーに出て、月を見上げていた。夜でも尚、都会の喧騒は止むことがない。風に運ばれてきたその音を聞きながら、彼は頬杖を付いた。夜風が彼の髪を優しく撫でていく。

 ふと、部屋の外に人の気配を感じ、振り返りながらその名を呼んだ。


「ルイ、入れよ」


 一瞬の沈黙があった後、扉がゆっくりと開いてルイが姿を見せた。


「……電気位点けたらどうだ」


「それじゃあ夜空がよく見えないよ」


 彼に教えて貰った『蛍光灯』のスイッチに伸ばし掛けた手を止め、ルイは溜息を吐きながらユエの傍に歩み寄る。彼女の髪がまだ少し濡れている所を見ると、自分の次にシャワーを浴びていたらしい。

 白い薄手のワンピースを着た彼女は、ユエの隣に立つ。銀髪に戻ったその姿はとても清らかで、本当に天使なのだと感じさせた。


「無駄に金だけはあるんだな、お前」


「ま、ね。援助の御陰だよ」


 ルイは首を傾げたが、ユエはそれ以上説明を加えることもなく、空を見上げていた。ルイもまた、同じように顔を上げる。

 月の浮かぶ空に、星の煌めきはない。眼下の街並みが明る過ぎて、星の光は届かないのだ。月しかない空を見ていると、ルイは堪らなく寂しくなった。


「何か用があるの?」


「……別に」


 ユエに問い掛けられたルイは、顔を背けながら答える。夜風に当たり過ぎると身体が冷えてしまうからと、彼女を連れて部屋の中に戻る。


「もう寝るから、何かあるなら明日でいい?」


 ベッドの上に座りながら問い掛けると、ルイは何も言わずに彼の隣に腰掛けた。

 顔を俯かせている彼女の名前を呼ぶと、彼女は深呼吸を一つして、ユエの方を向く。


「その……一緒に寝ないか?」


「ダメ」


 きっぱりと断ると、彼女は明らかに不満そうな声を上げた。だが、どんなに言われようが、いいとは言えない。年頃の女子が同い年の男子と寝るのは如何な物か。

 そもそも、普段からルイとユエの部屋は別々にしている。今更一緒にすると言われても、何故そうしたいのかがわからない。


「ルイ、あのね? 普通一人で寝るんじゃないの?」


「別にいいだろう、折角誘っているのに……」


「まさか一人で寝るのが怖い、なんて言わないよね?」


 言葉を詰まらせ、ルイは少し下を向いて黙り込んだ。やはり図星のようだ。

 彼女が一向に口を開かないので、溜息を吐きつつ呟いた。


「知らない所って、そんなに怖い?」


「う、煩い! 誰にでもあるだろうが、苦手なことは!」


 ルイは顔を赤くして照れながら怒鳴る。そんなことが苦手なのかと、ユエは肩を竦めて苦笑した。


「兎に角ダメだからね。隣の部屋なんだから、一人で寝なよ。何時もは一人で寝てるでしょ?」


「……わかった」


 明らかに納得していないようだったが、ルイは引き下がって部屋を出ようとする。少し言い過ぎたかと思い、ユエが謝罪の言葉を掛けようとした。ルイは一瞬彼の方を振り向くと、「意地悪!」と叫んで部屋の扉を乱暴に閉めた。

 ユエは開き掛けた口を閉じ、頬を軽く掻いた。怒らせてしまったようだ。

 溜息を吐いて、布団に潜り込む。ルイの扱いは本当に難しいと思いながら目を閉じると、思いの外疲れていたのだろう。眠気が来るのにそう時間は掛からなかった。

 うとうとしていると、背中の方に何かがくっ付いてくる感覚に意識が戻ってきた。何なのかと疑問を抱きつつ振り返ると、見慣れた銀髪が視界に入る。

 後ろにいたのは、やはりルイだった。結局一人で寝るのが我慢出来なかったようだ。


――近いんだけど……。


 背中にぴったりとくっ付いているせいで、動き辛い。余程疲れていたのか、声を掛けても起きる様子がない。

 何とか体勢を変えて、ルイと向き合うように横になる。彼女の寝顔をよく見てみると、初めて会った時にも思っていたが、本当に綺麗な顔をしている。あの性格と言葉遣いの割に、容姿は女の子その物だ。


「全く、相手が俺だからまだいいけど……変な気起こされたりしたら、どうするつもりなんだろう」


 彼女の無防備さに呆れつつ、どうしようかと考える。彼女の部屋に運ぼうかと思ったが、もし起きたりしたら、また戻ってくるだろう。

 仕方ないと諦め、彼女を寝かせたままにして置くことにした。自分もそろそろ眠りたい。

 何となく彼女の寝顔を眺めていると、何故か自然に顔が熱くなった。


「何で緊張してるんだ、俺……」


 自分に早く寝ろと言い聞かせて目を瞑ると、心臓の音がやけに大きく聞こえた。

 先程までの眠気は何処へ行ってしまったのだろう。ユエは中々眠れなかった。


 * * *


 カーテンの隙間から朝日が覗いている。

 隣で寝息を立てているルイを起こさぬように、ユエはそっとベッドから降りた。そのまま扉を開け、隣の部屋――応接間に入ると、扉に寄り掛かって座り込んだ。昨日は彼女がいたせいで、緊張してよく眠れなかった。


「あぁ、もう。何で寝てる時とかは可愛いんだよ……」


 赤い顔を隠すように、膝を抱えて蹲る。

 何故こんなにも顔が赤くなるのか。何故こんなにも頬が熱いのか。その理由は自覚している。ルイの一挙一動に振り回されている自分に、思わず溜息が出た。

 好意を示すことは難しくないが、彼女には気付いてもらえそうにない。彼女はユエに対して、まだそういう意識を抱いていないだろう。辛いなぁ、とユエは呟いた。


 * * *


――花の、香り……?


 ふわりと漂ってくる甘い匂いに、ルイはうっすらと目を開けた。朝の爽やかな日差しが、部屋の中を照らしている。

 彼女が起き上がろうとすると、誰かが彼女の頭に優しく手を触れた。


「ユエか……」


「おはよ、ルイ」


 笑顔を浮かべて、ユエは彼女の頭を撫でる。暫し大人しく撫でられてから、寝惚け眼を彼に向けた。


「眠そうだね」


「んー……」


 生返事を返しながら、欠伸をする。実際は、ユエの方が眠くて仕方がないのだが。

 ユエはふっと笑うと、彼女の髪に白い薔薇の花を一輪飾った。不思議そうに首を傾げたルイは、彼の顔が少し赤いことに気が付いた。


「朝から機嫌がいいな、お前。それと、顔が赤いぞ?」


「え。あ、いや……まぁ、色々とありまして」


 はぐらかすような答えに、ルイは呆れたような表情になる。


「で、これはどういう意味だ」


 髪から花を取り、溜息混じりに問うと、ユエは花瓶に生ける花を今朝貰ったから、と説明した。丁度似合いそうな白い薔薇があったのだと。


「ルイが付けたら可愛いかなって」


「バカかお前は」


 はっきりと言われ、ユエは苦笑する。再び彼女の頭を撫でるとルイは頬を少しだけ赤くした。恥ずかしいからやめてくれと呟いて、彼の手を払い除ける。

 欠伸をしながらベッドから降りると、眠気覚ましに軽く身体を伸ばす。着替える為に自分の部屋に戻ろうと、扉に手を掛けようとしたが、その前にユエに手を掴まれた。


「ユエ?」


「あの、さ……」


 ユエは恥ずかしそうに顔を少し俯かせている。ルイは首を傾げながら、彼の次の言葉を待った。

 暫しの沈黙の後、彼はゆっくりと口を開いた。


「その……やっぱり二人で寝るのはやめようよ。昨日は仕方ないから許したけど……幾ら何でも、一応異性な訳だし」


「私は別に気にしないが?」


「俺が気にするの」


 ユエは頬を少し膨らませながら呟く。ルイの無防備さには、本当に大丈夫かと呆れさせられる。


「だ、大体旅を始めたあの日だって、その、いきなりキスとかしてさ。本当、異性な訳だし、ね? いや、別に同性じゃなきゃダメって訳じゃないけど、寧ろそっちの方があんまりないと思うんだけど……」


 言葉を選びながら話しているせいで、論点がずれ初めてしまう。何を言いたいのかわからないと、ルイは困惑しているようだった。

 二度も口にするのは流石に気が引けたが、ユエは仕方なく、落ち着いてもう一度言った。


「忘れたとは言わせないよ、ルイ。初対面でキスとか有り得ない」


「えーっと、ユエ?」


 不思議そうな表情を浮かべた彼女に、何を言うつもりなのだろうと視線を移す。

 ユエに向かって放たれたのは、予想外の言葉だった。


「『きす』とは何だ?」


 どう反応したらいいのかわからず、ユエは沈黙してしまう。

 ルイは暫し考え込んだ後、何か思い付いたような顔をした。


「もしかしてあれか? 魚の」


「それは鱚」


 何故魚の方しかわからないのだろう。寧ろ其方の方が、彼女は知らないと思っていた。

 説明するのは気が引けて、ユエは違うアプローチをしてみようと、質問を変える。


「……因みに、ルイが最初に俺を助けようとしてしたのは、何?」


「あれは『口移し』だろう?」


 今度は直ぐにわかったのかルイは得意気に答えた。

 どうやらルイにとって、キスと口移しは別物のようだ。確かに、片方は好意を表す行動で、もう一方は人を助ける為にする行動だ。違うと言えば違うが、何れにせよ、初対面の相手にしようとは思わないだろう。それを平気で出来るとは、ルイはそういうことに慣れているのだろうか。人を助けることを第一に考えている彼女のことだ。その可能性はある。

 ユエは異性と殆ど関わったことがない。触れられることすら、ルイが初めてだった。彼女に経験があるのだとしたら、悲しくなってくる。


「他の人にも口移ししたことあるの?」


「いや。実際にしたのはお前が初めてだけど」


 ということは、彼女は深く考えずに行動するタイプなのか――ユエはほっとしたような、呆れたような複雑な思いを抱いた。もう少し自分を大切にしてほしいものだ。それに幾ら助ける為とは言え、相手のことも考えてほしい。


「……俺の初めて返してよ」


「何か嫌だな、その言い方」


 ルイは眉を顰め、何が気に食わないのかと尋ねてくる。自分で考えるようにとだけ呟いて、ユエは彼女の手を離す。

 拗ねたように顔を背けてしまったユエが機嫌を治すまで、暫くの間ルイは彼を宥める羽目になった。勿論、彼の機嫌を損ねてしまった理由は、全くわからないまま。

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