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紅と蒼 4

思ったよりも時間が掛かってしまいました……orz

かなり急いだので誤字脱字が怖い(後でこっそり直します、すみません)。

 暫くの間ぶつぶつと文句を呟いていたルイだったが、やがて大きな溜息を吐いて顔を俯かせた。色々と不満を口にしてみたものの、Dユエが澄ました表情を変えることはなかった。彼女としては非常に納得のいかない約束をすることになってしまったが、これ以上何を言おうと、Dユエが内容を変えることはなさそうだ。

 ルイは未だに残る不満を頭の片隅に置いて、違う話題を振ってみようと考えた。Dユエは多少疲れているのか、木陰に座ったまま動く様子はない。彼と落ち着いて話が出来そうな今なら、色々と聞き出せるかもしれない。ルイにとって、彼は謎の多い存在だ。彼に対する疑問は沢山ある。

 だが、いざ口を開くと言葉が続かない。聞きたいことが山程あるせいで、何から問い掛ければいいのかわからなかった。

 どうしようかと悩むルイの隣で、Dユエは何も言わないままだった。数分沈黙が続いたが、先に開口したのは、意外にもDユエの方だった。


「何故そんなにユエを庇おうとする」


 急に話し掛けられて驚きながらルイが顔を向けると、彼は木に寄り掛かりながらルイの方を見ていた。その紅色の瞳に見つめられ、彼女は言葉に詰まる。瞳に映り込んだ自分の姿が血の色を纏っているように見えて、息を呑んだ。


「聞いているのか?」


 彼が目を細めたことで、瞳に映っていたルイの姿は消える。彼女ははっとして、先程の彼の質問を思い出す。ユエを庇う自分の行動は何から来るものなのか――それと同時に、やはり血の色は嫌いだと考えていた。 

 少しの間視線を上に向けながら悩んでいたルイは、特別な理由はないと呟いた。


「強いて言うのなら……ユエは大事な仲間だから、かな」


 もし全くの他人だとしても、放っておけない。どんな理由であっても困っている人が目の前にいたら、自分に出来ることはしてあげたい。それは当たり前のことだと思っていると、彼女は続けた。

 真面目に答えてみたが、Dユエの望む答えだっただろうか。ルイが再び向けた視線の先で、彼は数回目を瞬かせ、それから呆れたような表情を浮かべて盛大な溜息を吐いた。

 頭痛がしてきたように感じられて、Dユエは額に手を当てる。この娘、やはり相当鈍いのか――数分前までは思っていたより強かで、以外にも策士なのかもしれないと思っていたが、それは間違いだったか。


「そんなこと、本人が聞いたら泣くぞ」


 ルイは理由がわからず、首を傾げた。仲間だから助ける、ユエにとってそれはダメなことなのだろうか。それとも、泣く程嬉しいことなのだろうか。問い掛けた彼女に、Dユエはそういうことではないと呟いた。


「彼奴が貴様に好意を抱いていることは知っているだろう」


 ただの『仲間』という一言で表されてしまうのは――そう言葉を続けようとした所で一旦口を閉じ、Dユエはルイの様子を窺う。彼女は暫し呆気に取られたように目を大きく見開いていたが、見る見る内にその頬が赤く染まった。

 まさか知らなかったのかと問い掛けられて、ルイは顔を俯かせながら静かに頷いた。言われてみると、心当たりはあるような気がする。ユエは確かに、ルイのことを考えて動いてくれていた。その優しさは誰にでもそうだと思っていたが、好意もあったと考えると、道理で優しくしてくれていた訳だ。それなのに、全く気付かずにいた自分が恥ずかしい。


「し、知らなかった。……そっか、そうなのか」


 恥ずかしそうに頬に手を当てるルイの姿は、Dユエから見ると満更でもなさそうだった。実際、ルイも悪い気はしていなかった。寧ろ嬉しいとすら感じていた。

 何故自分がこんなことを言わなければならないのか。はにかむルイの姿を眺めている内に、Dユエは段々と苛立ちを感じてきて舌打ちをする。苛立ちを感じる相手はルイではない。好意をはっきりと伝えられていない、自分の情けないオリジナルに対してだった。


「……絶対に殺す」


 ルイから顔を背け、彼女に聞こえない位の声量でそう呟く。他人の好意を、よりによって彼が嫌う者のそれを伝えることなど、この上なく面白くない。

 彼が舌打ちをして不機嫌そうな表情を浮かべていた理由はルイにはわからなかった。取り敢えず今は、自分の気になっていることを聞いてみよう。何を聞こうかまだ少し悩んではいたが、最初に思い浮かんだことから問い掛けることにして、ルイはおずおずとDユエの顔を覗き込みながら口を開いた。


「お前はどうしてユエに拘るんだ」


 Dユエは不思議そうな表情をルイに向けた。何故そんなことを聞くのかと目で伝えてきた彼に、ルイは今までの彼の行動や様子を思い出しながら、気になっていることを並べた。

 魔力を欲してこそいるが、ルイの命を狙おうとする様子はない。彼女の命には全く興味がないようにすら思えるのだ。勿論何方も狙ってほしい訳ではないが、ユエだけには、ユエの命だけには拘っている理由がわからなかった。

 あの時――初めてDユエに会った時、ルイも其処にいた。それなのに、今目の前にいる彼は、ユエの姿をしている。何故自分の姿にはならなかったのかも、疑問に感じていた。そのことも関係しているのだろうか。


「確かに俺の封印が解けたきっかけにはなった。それでも、どちらかと言えばユエの存在よりも、貴様の存在の方が大きい」


 そう言いながらDユエは片手を静かに上げ、ルイに人差し指を向ける。ルイの力が、抑えていても充分過ぎる程の力が、自分の封印を弱めたのだと彼は告げた。

 彼を封じていた力は、彼の持つ闇の力を、魔力を抑え込むことが出来るもの。そして、ユエの持つ光の力――専ら天界の者が扱う故に天力と呼ばれるそれにより、弱められてしまうもの。即ち、霊力と呼ばれる力だ。

 世界に溢れる力は、天力、魔力、霊力の三つ。光を司る天力と闇を司る魔力。対立していたこの二つの力のバランスを取る為にこの世に生まれた力が霊力だと言い伝えられている。霊力は魔力に、魔力は天力に、天力は霊力に勝るのだ。また、魔力は基本的に闇に属する力だが、天力の影響を受けて光属性となったものもあると言われている。他の例もあるようだ。また、ルイやユエのように、自身の性質とは別の属性の力を持っている場合もある。

 そして、ルイの力は三つの力とは異なるものだと、Dユエは呟いた。全ての力に近いようで遠い、何にも属さない力。だからこそ、どの力にも勝っているのだろうと彼は考えているのだ。


「どんな封印でも、長期に渡り強い状態を保ち続けるのは難しい。必要な力の供給が続かなくなるからな。……俺が封じられていたのは、大体百年間だったか。それだけの時間が経てば、封印は格段に弱くなる。少し余計な力が働けば、直ぐに解けてしまうだろう」


「でも、私はあの時、何の力も使っていなかった」


「そうだな。だが、貴様が意識して使っていなかっただけのことだ」


 力を使うと言うよりは、無意識の内に流れ出してしまったと言う方が正しいだろう。ルイの指輪に視線を落とし、彼はそう言葉を続けた。


「その指輪が実際にどう働いているか、ユエも貴様も知らないのだろう?」


 Dユエにそう問い掛けられ、ルイも自分の左手を見てみる。派手な宝石や彫刻などもない、見た目には至って普通の銀の指輪だ。以前ユエに聞いてみた所、指輪を付けた者同士で力を共有するように、この場合はユエの光の力を共有すると同時に、彼の力を溜め込んでいる指輪だと説明していた。力を溜め込んでいるのは長い間持っていた為だろうと言っていたが、詳しいことは彼も聞いていないらしい。彼が中央界に来る前に、いつか何かの役に立つかもしれないと言われ渡されたものだとルイは聞いている。誰に渡されたのかまでは、ユエは話してくれなかった。

 力を溜め込んでいるという点は合っていると告げ、Dユエはルイの指輪にそっと手を触れる。彼が静かに呪文らしきものを呟くと同時に、ルイは自分の身体が一瞬重くなるのを感じた。彼女は天使、即ち光の側の存在だ。闇属性のDユエの力とは相性が悪く、強い魔力に当てられると体調を崩すこともある。だが不思議なことに、身体は直ぐに楽になった。Dユエが魔力を使っていたのは確かに感じられたが、彼女に悪い影響は出ていなかった。

 何が起こったのかと目を瞬かせるルイから手を離し、Dユエは彼女の前に跪く。彼女の顔を覗き込んで、特に顔色が悪くなったりしていないのを確認すると、思っていた通りだと彼は呟いた。


「その指輪は本来、持ち主の力のバランスを取る為の物だ。そして、貴様の力を抑えるのにも、力のバランスが重要になる」


 二つ以上の力が関わってくる場合、全ての力が同じだけ宿っていられることは少ない。大概はどれか一つだけが強くなってしまう。ユエの場合、一方の力――天力だけが極端に強くなる現象が起きているのだ。


「自身が闇属性であるのにも関わらず、ユエは光の力が極端に強い。相手は恐らく、足りない魔力を補わせるつもりで持たせたのだろう」


 Dユエによると、ユエが身に着けている指輪は自然に流れている僅かな魔力を吸収し続けている状態らしい。彼の光の力に負けない程の充分な魔力が宿ったのであれば、指輪は壊れ、それは完全に彼の力となるだろう。

 だが、ルイの場合は、ユエとはまた別の働き方をしているようだ。と言うのも、彼女自身に吸収した魔力を天力に変えてしまう性質がある為、足りない魔力を補うことが出来ない。その為、彼女の天力を出来る限り吸収することで力のバランスを取ろうとしているのだ。先程Dユエは彼女に魔力を供給したが、少量だった為に直ぐに天力へと変えられ、指輪に吸収されたのだった。

 ただし、指輪が持つ力を吸収する能力は、そう強くはない。ユエの言ったように力が溜め込まれているのも、彼の力が指輪に供給されているのも事実。様々な力を吸収する能力は、彼の力を使って働いているのだ。そしてその能力の強さは、供給される力の強さに比例する。余りにも多くの力がある場合、ユエの力では指輪による吸収が追い付かなくなってしまう。


「つまり、貴様の力を抑えるにはユエの力では不充分だということだ」


 尤も、指輪のことはつい最近まで俺も知らなかったが――Dユエはそう付け加えた。


「ユエの中で最も強い力でさえその程度。そんな弱い奴が生き残れる程、世の中は甘くない。少なくとも、俺の周りはそうだった。……弱いオリジナルに、存在理由などない」


 ゆっくりと立ち上がりながら、彼は吐き捨てるようにそう言った。ルイがそっと覗き込んだ彼の顔は、いつものような薄笑いを浮かべてはいなかった。光のない紅い瞳からは、数分前と同じように殺気が感じられる。

 ルイはDユエの放った言葉を頭の中でもう一度繰り返す。弱いオリジナルに存在理由はないと、彼は言っていた。ユエという存在は二人もいらないとも。唯一の『ユエ』という存在になろうとして争えば、強い方が残るのは必然だろう。自分であることを証明するのであれば、強いのはオリジナルのはず。偽物に負けるはずはない。

 だが、本物と偽物という関係が成り立っていなければ……。


「お前をユエだと思ったことなんてない」


 自分のその一言でDユエの表情が一瞬だけ変わったのを、ルイは見逃さなかった。驚きか、それ以外の感情かはわからないが、彼は明らかに動揺していた。

 スカートに付いた埃を払いながら、ルイも立ち上がる。自分よりやや背の高いDユエの顔を見上げながら、やっぱりユエと彼は異なる存在だと、頭の片隅で思った。


「だってお前には、ユエとは全然違う自我があるじゃないか」


 確かに、行動に似ている部分はあると感じた。彼女がユエから教えてもらったのと同じように、少し前のDユエも上から奇襲を仕掛けたりしていた。ユエが彼に対して話していないはずのことも知っている辺り、姿形だけでなく、ユエとしての一部の記憶も持っているのだろう。

 だが、それでも彼をユエと思うことはルイには出来なかった。ユエであると主張するのであれば、姿形も口調も、何もかも全て同じであるはずだ。それなのに、色合いも表情も違う。むしろ、ルイにとっては色合いを除いた見た目以外で、同じだと思えることの方が少なかった。それこそが、ユエではない別の存在であることの証明だ。


「ユエになりたいのに、何故全てを同じにしない? 本当にユエになることを望んでいるのか?」


 当然だ。Dユエはそう答えようとしたが、何故か言葉には出来なかった。誰かに成り代わり、自身以外の存在として生きることが、彼にとっては当然になっていたのだ。それを自分から望んでいるかと問われれば、わからないとしか言いようがない。思えば、今までそんなことを考えたこともなかった。

 容姿だけでなく性格や口調、何から何まで同じでなければ、それはユエとは言えない。本来の自分を捨てられないでいるのなら、本当は成り代わることを望んでいないのではないかと、ルイは考えていた。


「ユエになることに拘らなくてもいいと思う。少なくとも、殺してまで成り代わる必要性なんかない」


 どんな姿でも、結局『自分』は『自分』なんだから。ルイは静かに笑い掛ける。

 本の少しではあるが、Dユエのことがわかったような気がした。彼はユエが憎くて殺そうとしている訳ではない。単に、弱い者が嫌いなのだろう。弱い『ユエ』ではなく、強い『ユエ』として在りたいのかもしれない。彼の言葉からは、そんな思いが感じ取れた。


「――ダメだ」


 Dユエは暫しの沈黙の後、顔を俯かせながらそう呟いた。前髪の下から覗く瞳には、動揺でも殺気でもない、他の感情が見え隠れしている。


「俺はユエとしてしか存在出来ない」


 目を瞬かせるルイの前で、彼は淡々と告げた。自分であることを周りに知られてはならない。『誰か』でいれば自分であることを知られずに済む。だから『誰か』として生きなければならないのだ。彼には『誰か』を殺して成り代わる以外に、方法がなかった。

 Dユエの言葉に、ルイは少々引っ掛かりを覚えた。自分の力を、天使としての存在を悪用されないように、彼女も出来るだけ正体を隠している。言わなければわかるようなことではないが、Dユエの場合は単に存在しているだけで正体がわかってしまうと言うような口振りだった。それに、口封じとして殺すのならまだしも、完全に成り代わることを目的としている辺り、彼という存在を抹消しようとしているようにも思える。捨てられない自我とは違い、捨てたくて仕方のない存在そのもの。

 嘗てルイも、彼と同じように存在を消したいと考えたことがあった。中央界に逃げてきて間もない頃、彼女を追ってきた者達は今でもいるが、比べ物にならない程多かったのだ。彼らから必死に隠れ、何も知らない人々には正体を告げることも出来ず、危険な目に合わせないようにと遠ざける日々。そんな目に合っている自分が嫌で、何度普通の人間になれたらよかったと考えたことか。人間でなくても、特殊な力もない普通の天使として生きられたのなら幸せだっただろう。

 そんな昔の自分に、今のDユエが何処となく似ているように感じた。


「何かから逃げているのか? お前の話を聞いてると、何かに追われているように感じるけど……」


 ルイの問い掛けに対し、Dユエは黙り込んでしまった。彼は少々悩んでいるような様子を見せた後、それは言えないと呟いた。

 同じ容姿をした者がいれば、直ぐに何方が自分であるかバレてしまうだろう。双子云々で誤魔化すことが出来るような相手ではない。オリジナルに完全に成り代わらなかった場合、Dユエの姿は今のように紅を基調としたものになる。それを、相手は知っているのだ。だから、早く完全にユエにならなければ自分の存在に気付かれてしまう。そうなれば、面倒なことになるのは目に見えている。


「じゃあどうするつもりなんだ」


 少なくとも今日はユエに手出しをしないと約束したのだ。もし約束を破るなら、またユエの命を狙うのなら、今度こそ二度と狙わせなくするつもりだった。理由が何であれ、ユエを殺させるわけにはいかない。

 険しい表情になるルイに対し、Dユエは考え込んでいるのか、暫くの間何も言わなかった。だが、ふといつものように薄い笑みを浮かべ、彼女の頬を撫でるようにそっと手を伸ばした。


「貴様が殺せ」


 彼の声が聞こえたと同時に、ルイの意識は一瞬にして闇の中に消えた。

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