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鬼帝国編 10

 息を切らせて立ち止まり、ユエは周囲の様子を窺った。Dユエの姿を見掛けて追い駆けたものの、直ぐに見失ってしまったのだ。取り敢えず、彼が向かったであろう地下施設へと足を踏み入れてみたが、砲撃による揺れが建物を襲い、壁に幾つも亀裂が入りつつある。下手に地下深くまで潜ってしまうと、建物が崩れたときに出られなくなってしまう。

 ユエは溜息を吐き、仕方なく自らの力を使った。上手くいかないとは思っていたが、Dユエの魔力を捉える為に。

 しかし、彼が感じたのは、今までよりも強くなったDユエの魔力だった。いつの間にか、この城から溢れ出していた多量の魔力は消え、はっきりとDユエの魔力を感じることが出来るようになっている。魔力でないルイの力を捉えることは、流石に出来なかったが。

 ユエは再び走り出す。Dユエの魔力は、段々と地下から地上に向かっていた。もしかしたら、既にルイは彼の手の中かもしれない。


――早く、行かないと…!


 嫌な予感を抱きながら、ユエは己を急かした。


 * * *


 城の中庭に植えられた大樹の根元にルイを寝かせ、Dユエはそっと彼女から離れた。彼には、もうこれ以上此処にいる理由はなかった。


「待て」


 不意にルイがそう呟き、Dユエのマントを掴んだ。半分意識が朦朧としている為なのか、その瞳は揺れていて、覚束ない。


「何故私を助けた。魔力も奪わずに…何を、企んでいる?」


「魔力を奪ってほしいのか?」


 ルイは首を横に振る。魔力は必要とはしないが、やはり無理矢理奪われたりするのは嫌だった。Dユエはそうするタイプだと思っていたのだが、彼が魔力を奪おうとしないので疑問を持っただけだ。


「今は貴様の魔力を奪う必要はない。…それに、弱っている奴を襲う気にはなれないし、今の貴様に下手に近付くのは危険だからな」


「私が…危険?」


「…知らなかったのか?」


 Dユエは少し目を細めるとルイの傍らにしゃがみ込む。睨み上げるようにして視線を向けてくるルイの髪に、そっと手を伸ばす。銀糸のように透き通るそれに指を絡めながら、彼女の頬に触れた。


「俺は貴様が眠っていたときに魔力を奪いに行った。だが…この国の強い魔力のせいだろうな。貴様の力が暴走した。…ユエに教えられなかったのか」


 ルイは驚いて目を見開いた。そう言えば、彼女が目を覚ましたときにユエが妙な行動を取っていた。ルイの背に何もないことを、何故か確認していた。確かあのとき、ユエは何かを持っていた。白銀の、何か…。


「…私の、羽根だったのか…」


 何故あのとき気付かなかったのだろうか。ルイは溜息を吐きながら、気を付けるべきだったと悔やんだ。Dユエの言う、彼女の力が暴走したときに舞った羽根から、デヴィドはルイという天使の存在に気付いたのだ。


「…あと少ししたら、ユエが此処に来るだろう。合流したら、直ぐに逃げることだな」


 彼方此方で火の手が上がり始めたことを確認すると、Dユエはルイの額に手を当てた。囁くように彼の口から漏れ出した呪文を聞いている内に、ルイの意識は自然と遠くなっていく。

 まだ訊きたいことがあるのに…。そう思ったルイだったが、それを言葉にすることは叶わなかった。

 意識が闇に落ちていく中で、Dユエの声だけが響いていた。何処か寂しそうに感じさせる、声が。


「…俺が助けたことなど、全て忘れるだろう。貸しなど作るつもりはない。…次に会うときも、俺と貴様は敵同士だから――」


 * * *


 誰かが自分の名を呼んでいるような気がして、ルイは薄く目を開けた。蒼紺の瞳が心配そうに見詰めてきている。


「…ユ、エ?」


 ルイがそう呟くと、相手が安堵の息を吐いたのがわかった。瞬きをしている内に、ルイの意識は段々と覚醒してくる。目をしっかりと開くと、安心したような表情で微笑んでいるユエの姿が見えた。

 起き上がり、ルイは周囲の様子を窺う。至る所で黒い煙が上がっているのが見えた。


「私は、何故此処に…」


 確かに地下にいたはずだと、ルイは疑問を抱く。何時の間に此処に来たのだろうか。そう考えるが、頭に靄が掛かっているかのように、はっきりと思い出せない。此処に来たとき、ユエではない誰かがいたような、そんな気だけがしていた。


「ルイ、行こう。此処は危ないから」


 ユエの言葉にルイは頷き、彼の手を借りながら立ち上がる。

 ふと、彼等の元へサリナが駆け寄ってきた。彼女は呆れたように溜息を吐く。ユエが勝手にいなくなったことに対して文句を言っていた。


「…国王が降伏したわ。もう攻撃はないから、大丈夫よ。…まあ、崩れ掛けてる所はあるから、安全ではないけど。早く此処を出ましょう、安全な出口まで案内するわ」


 ルイは頷き、サリナの後ろに続いて歩き出す。だが、ユエはその場から動かなかった。

 どうしたのかと声を掛けようとした彼女に背を向け、ユエは中庭の片隅を睨み付けていた。ユエの視界の端に一瞬だけ映った、赤い影。それが消えたのが、その場所だった。


「何でもない。…行こう」


 中庭に自分達以外に誰もいないことを確かめると、ユエはそう呟いてルイと共に歩き始めた。

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