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鬼帝国編 8

 突如聞こえた音の正体を理解する前に、ルイの背に強い衝撃が走った。衝撃はすぐに鈍い痛みに変わり、彼女は苦悶の表情を浮かべると共に、その場に倒れ込んだ。

 それでも何とか起き上がろうと床に手を着いたが、何かに押さえ付けられているかのように、身体を起こすことが出来ない。そうする度に、翼の彼方此方が酷い痛みを発する。

 痛みに耐えながら背中の方を見ると、二枚の白い翼の端を、釘のように太い何本もの針が床に縫い付けていた。流れ出した血液が、白い羽根を赤く染めている。

 三枚目の翼は、デヴィドに当たる直前で動きを止めていた。他の二枚の翼が封じられた為だろうか。微塵も動く様子はなかった。


「やはり当たりらしいな。しかも三枚羽とは…。特に珍しい」


 デヴィドがそう呟くのを聞きながら、ルイは先程の軍人達の方を見る。彼等は背負っていた大きめの銃を構えていた。銃口はしっかりとルイの方に向けられている。


「驚いたか?あれは魔銃と呼ばれる武器。…さっき見せたあの魔力を秘めた黒水晶は、この国中に魔力を流している。その魔力を使って魔法を放つのだ。魔術師の類でなくとも魔法が使えるから、この国の衛兵、軍人は皆これを装備している。今お前を押さえつけているのも、その魔法の内の一つだ」


 言いながら、デヴィドは舞い散ったルイの羽根を拾い上げ、軍人の一人に声を掛けた。すると、部屋の隅に設けられていた扉が開き、数人の男が連れて来られる。皆一様に目隠しをされ、拘束されていた。

 どうやら、彼等は革命を起こした、サリナやリュクス達とは別のグループのメンバーのようだ。恐らく、企みがバレて捕まってしまったのだろう。

 その内の一人を一歩前に出させ、デヴィドは羽根を手に近付く。羽根はいつの間にか小さな結晶の欠片のようになっていた。ほんのりとルイの血で赤く色付いたそれを軍人に渡すと、再び彼女の近くに来た。

 軍人は男の口をこじ開けると、結晶を捻り込むようにして飲み込ませた。

 男は暫しの間呻いていたが、突然、叫び声を上げながら床の上をのた打ち回り始める。見開いた目からは赤い筋を描く雫が流れ、声を上げる口からは同じように赤い雫が流れ出していた。そして次の瞬間、男の身体の至る所から血が噴き出したかと思うと、四肢が弾けるように飛び散った。

 ルイの視界が、鮮やかな赤に染まる。思わず恐怖を抱いた。今、目の前に広がった光景にではない。それを引き起こしてしまった自分の力に、だ。

 天使の力は、人間には相容れないものである上に、自身ですら抑えられないルイの力だ。常人が耐えられるわけがなかった。


「失敗か…。そう簡単には上手くはいかないか」


 舌打ち混じりにそう呟いたデヴィドは、死体を一瞥すると、再びルイに近付く。その手が再び羽根を拾い上げようとしたのを見て、ルイは必死に手を伸ばし、羽根を先に奪い取った。


「やめろ、また殺すつもりか!」


「誰かは生き残るだろう。お前のものがダメなら、もう一人のものを確かめる。お前の仲間ということは、其方も天使である可能性があるからな」


 ユエは違う、そう言い掛けた言葉を、ルイは寸での所で飲み込んだ。ユエを生かしておく理由があるからこそ、こうしてただ彼を追っているのだ。可能性がなくなったとなれば、国にとって邪魔なだけだということで彼を殺しかねない。そうはさせられなかった。


「何にせよ、お前を此処に捕らえていれば、仲間は此処に来るだろう」


「そんな…」


「…まあ、わざわざ五体満足でお前を置いておく理由はないがな。研究するのに、それでは色々不都合そうだ」


 そう言って、デヴィドは半ば俯せのような状態になっているルイの肩口を、勢いよく踏み付けた。苦悶の表情を浮かべる彼女を見下ろしながら、軍人を呼び寄せる。再び銃口が向けられるのを見て、ルイの背を冷たい汗が伝う。

 引き金に指が掛けられる音に、ルイは思わず目を瞑った。

 しかし、次の瞬間に飛び散ったのは、ルイの血ではなかった。彼女の鼓膜を震わせた叫び声は、彼女の声ではなかった。

 ルイの直ぐ目の前の床に、鮮血に塗れた銃が落ちて転がってくる。ゆっくりと軍人を見上げると、先程まで銃を構えていたその両腕が、肩の所から綺麗に斬り落とされていた。

 その光景をスローモーションのように捉えていたルイの瞳は、傷口から噴き出し、飛び散る血液を見て、漸く彼女の意識を現実に引き戻す。同時に、どうしようもない吐き気を感じ、彼女は口元に手を当てて少しだけ俯いた。

 倒れ伏した軍人の背後から、赤い髪の少年が姿を現す。ユエとは反対の赤い瞳は細められ、口元には薄い笑みを浮かべていた。

 ルイはそっと上目遣いで少年を見て、目を見開く。思わず、呻くような小さな声で、その名を呼んでいた。


「お前っ…ドッペルゲンガー…!」


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