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鬼帝国編 5

 酷い頭痛を堪えながら、ルイは身体を起こした。視界に入るのは、堅牢な檻。


――そうか、私は…


 自分の置かれた状況を理解し、溜息を吐く。ユヱはいないことから、彼はあの騒ぎから逃げおおせたのだと理解した。自分は彼の足手纏いになってしまったのだろう。


――…ユエは、来てくれるだろうか。


 微かな不安。もしかしたら、ユエはこのまま、ルイを置いて行ってしまったかもしれない。ついそんなことを考えてしまう。


――ユエは…私を、裏切るだろうか?


 だが、その問いは自分の中で直ぐに否定した。あのユエが、そんなことをするとは、どうしても思えない。そんなことを出来るような者ではないのだと、彼女は理解していた。少しでも彼を疑った自分を、バカだと思った。


「目を覚ましたか」


 不意に聞こえたその声に、ルイは顔を上げる。鉄格子の向こうから、此方を覗き込んでいる人影が見えた。


「…確か、デヴィドと言ったか。何の用だ」


 不機嫌な様子を隠さず、ルイはそう吐き捨てる。だが、デヴィドは動じなかった。


「はっきり問おう。この羽根の持ち主は誰だ」


 言いながら、彼は懐から真っ白な羽根を取り出して見せる。鳥のそれとは違い、淡いランタンの光に照らされた羽根は、銀色に輝いていた。

 ルイの表情が僅かに険しくなる。見せられた羽根は、明らかに自分のような天使の物。否、恐らくは自分の物…

 昨日ユエが少し焦ったような態度でいたのは、この為だったのだと、彼女は今更になって気付いた。


「…鳥の羽根ではないのか」


 一応、そう誤魔化してみたが、デヴィドは方眉を上げ、ルイの方をただ睨み付けているだけ。

 完全に気付かれてしまっているのだと、ルイは唇を軽く噛んだ。此処で自分が羽根の持ち主だとバレれば、どうなるかわからない。ユエの物だと嘘を吐けば、自分は用なしとされ、殺されてしまうだろう。

 ユエではなくルイを先に狙ったのは、攫いやすいからもあるだろうが、人質として利用するつもりもあったのかもしれない。


「…その持ち主を知って、どうするつもりだ」


 ルイが問い掛けると、デヴィドは得意気に答えた。


「お前がこの羽根の価値を知らない訳がない。…まぁいい、教えよう」


 * * *


 ユエは、城の方へと続く隠し通路を足早に行きながら、サリナや他の仲間に説明した。まだ目を覚ましていないエミルも連れて来ている。


「俺とルイは人間じゃない。俺は魔王の息子…要するに悪魔だ。ルイはその逆で、堕ちた身ではあるけれど、天使なんだ」


「…それは…俄には信じがたい話ね」


 サリナの言葉は尤もなことだと、ユエは感じていた。

 魔法やら魔術やらが存在する中央界でも、天使や悪魔の存在を否定する者は多い。そもそも、そういう者達が世界の境界を越えて来ることなど、まずないのだ。自分達の過ごしている世界が一番合っているのだから、わざわざ他の世界に来る必要性がない。

 だが、稀に他の世界の様子を見る為に、境界を越えて来ることはある。勿論、幾ら魔力が強かろうが、人間には出来ないことだが。それを行うことが出来るのは、神の使者として生まれた天使や、魔王や幹部クラスの悪魔、地上に繁栄を齎す精霊達のみ。ルイは勿論のこと、魔王の子であるユエもそれに属しているのだ。


「それを利用して他の世界に侵入しようと考える輩は少ないんだ。それに…天使は、他の面についても、魔界の者達よりも遥かに利用しがいがある」


「他の面?」


「色々あるよ。天使の血肉を食らえば寿命が延びるだとか、不老不死になれるだとか。羽根を口にすれば同じ力が手に入るとか…」


 ユエは其処で言葉を切ると、唇を噛む。ルイに迫る危険は、恐らくそんな所だろうと。羽根を見付けてしまった者がいるのかもしれないと考えていた。そうでもなければ、いくら脱獄したとはいえ、あんなにもたくさんの人を使ってまで自分達を捕らえようとするとは思えない。…思い過ごしであればいいが。


「…相容れない力を無理矢理身に着けようとすれば、当然大きな負担が掛かる。命を落とす場合が殆どだ。…ルイは誰かが死ぬようなことは、望んでいない」


「じゃあ貴方は、彼女の為に一緒にいるの?」


 サリナの問いに、ユエは頷いた。


「ルイの力だとか、種族が違うだとか、そんなこと俺には関係ない。ただ、大事な仲間だから…」


 そう呟いたユエは、エミルが目を覚ましていることに気付き、彼女に声を掛ける。


「起きたんだ。大丈夫?」


「…私は、何を…」


 エミルは放心したように呟くと、はっとしてサリナに詰め寄った。


「あ…サリナ!大変ですわ!」


「大変って…どうしたの?」


 エミルは切羽詰まった様子で告げた。

 ユヱ達に反乱軍について語ったあの夜、彼女はデヴィドに呼び出され、彼の部屋に行った。てっきり反乱軍のことがバレたりしたのだろうかと思ったが、聞かされたのはそれとは全く別の内容だった。


『あの逃げた少年少女を、捕まえなさい。…捕らえる際は、少女の方を優先するように』


『…急な話ですわね。少女を優先せよ、とは?』


『その方が都合がいい。それに、見た目としては…其方の方が可能性が高い』


 何を言っているのだろうと疑問に思った。だが、それについて詳しく聞くことは叶わず、エミルは了承の返事を返して、部屋を出ようとした。


「――それで…その後の記憶がなくなりましたわ。今、気付いたのですけど…」


 恐らく、そのタイミングで何らかの呪術を受けたのだろうと、ユエは推測した。


「…ルイがどこにいるか、心当たりはない?」


 サリナはルイの居場所を知らないが、デヴィドから命令を受けたエミルなら知っているかもしれないと、ユエは思ったのだ。

 ユエの問いに、エミルは暫し考えた後、何かを思い出して手を叩いた。


「城の地下牢を覚えてます?あの更に地下に、デヴィドの研究施設があるのですわ。もしかしたら…」


「…多分、其処で間違いないわ」


 エミルの言葉に、サリナも頷く。ユエは少し黙ってから、再びエミルに問い掛けた。


「…デヴィドが持ち込んだ魔力を持つ物って、もしかして、其処にあったりする?」


 流石にそれはわからないと返され、ユエは溜息を吐いた。もしそうだとしたら、ルイがどうなるかわからない。それこそ、魔力に耐えきれないかもしれない…。


「…とにかく、急ごう」


 ユエはそう声を掛けると、身を翻し、やや歩く速度を速めた。手遅れになる前に、城に辿り着かなければならない、と。

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