ジジイクエスト
享年98歳
一人の小さな生命が尽きようとしていた。
彼の名はロゼ
「嘘!あのほら吹きじいさんが危篤なんだって!?」
「そうそう、よく100年近く生きたわよね」
「あ〜良かった、これで毎日あの嘘っぱちの話を聞く事もなくなる」
「こら、大変な時にそんな不謹慎な事言わない。
……
またあの話が蘇ってくるわ」
「おまえもうんざりしてるじゃん!(笑)」
ここはデパ村
デパ村の誰もがロゼの話にうんざりしていた。
彼の話は
何の信憑性もない
話の途中に急に怒る
無視しても延々と終わらない。
その為、村中の嫌わものだったのだ。
「俺は信じるよ」
そうロゼの横で呟く少年メニ
少年メニはロゼの話を唯一信じた人物だった。
ロゼの話によると、この世の中は全部嘘の世界で、真実の世界は別にあるとの事。
「真実の世界に行く為の条件があるんだ」
メニはワクワクしながら言った。
しかし
真実の世界に行く条件とは信じがたいものだった。
この世には世界の全てを手にしたと言われる権力者、ダイ族の1人
「オーバー」
がいる。
20年前、彼は偉大な功績によって世界中の富と名声を手に入れた。
さらに彼を嫌う者は誰一人としていなかった。
なぜならば、世界を幸せにする為に誰よりも命をかけて行動していたからだった。
そんな彼をやっつける事
これが真実の世界に行く条件であるとロゼは言う。
村人はオーバーがいくつもの危険に晒されて来た事実や沢山の障害を乗り越え、世界中の人に献身してきた事を知っていた。
その為、オーバーの心情を察しロゼの発言に怒りを覚え胸ぐらを掴みとっかかろうとした者もいた。
「みんな騙されてるんじゃよ」
それでも彼の発言は曲げない。
ロゼは昔から変わった少年で、興味を持ったらとことん追求するタイプだった。
17歳の時に村に飽き、飛んでいくようにいなくなった。
そして村に帰ってきたのが78歳
その時から「誰かオーバーをやっつける者はおらんのか!」と大声で叫んだり
便器の上でいつもご飯を食べてるもんだから、村人はついにボケたと思った。
ロゼいわく、「食べ物が腹に入ってるのが気持ち悪い」との事。
そんなある日
このデパ村に「オーバー」がやって来た。
愛する村人に挨拶をする為に来たのだと言う。
彼の気配りに感動し涙を流す者さえいた。
「メニよ…。私の最後の願いを聞いてくれ…」
メニは静かに理解した。
「でも…、いざとなると…身体が震えて…力が入らなくて…」
ロゼは優しく言った
「大丈夫、メニならできる。わしはみんなから散々言われたが、ボケちょらん、メニ、いいか、やっつけたらわかる後の事は考えんでいい」
メニのは何故かロゼの言葉に癒されて落ち着きを取り戻した。
「ロゼ…不思議だね。今から人を殺そうとしてるのに…凄く安心してる自分がある」
ロゼはさらに続けた
「安心せい、絶対大丈夫じゃ」
何の根拠もない
メニは息を殺すように動いた。
……
……
数時間後
村からは悲鳴が鳴り止まず、怒り狂う者さえいた。
「誰がやったんだ!」
オーバーが静かに息を引き取ったと同時に周りが一変した。
空は暗黒色に曇り
大地は荒れ果て
村人は痩せこけ、痛々しい姿
さらには枯れた木々を組み合わせたような家に村人は住んでいた。
「これは一体…」
メニは周囲の変わりように動揺した。
「わしらはオーバーに騙されていたんじゃよ!」
ロゼの元気な声が響きわたった。
「ロゼ!俺達なんで…」
「がっはっはっは!一緒の呪術じゃよ」
ロゼの体系があらわになった時目が点になった。
98歳とは思えない肌の潤いと若さ、筋肉質で丈夫そうな足腰
その様子を見て、ロゼは笑った。
「メニよ。ワシが便器の前でいつも食をとっていたのを覚えているか?」
「覚えてるよ。なんで?」
「ぬしらの食べていたのを見てみい!」
メニは言葉を失った。
栄養分を求めてうにょうにょ動く寄生虫その物が食事として大量に作られていたのだ。
「無知は恐ろしいのう」
ロゼはまた大声で笑った。
このパワフルさ…まるで別人だ、とメニは思った。
「さて…これからが始まりじゃ…ワシらの冒険のな…」
そう言いロゼは風を感じながら空遠くを見た。
ジジイクエストの始まりである。