第10話「破壊された虚飾の壁」
吹き抜けになった天井の巨大な穴から、灰色の雲を割って差し込む太陽の光が、粉塵の舞う室内に斜めの光の柱を作り出している。
頭上を覆い尽くしていた純白の飛行船の群れはすでに雲の彼方へと退却し、空気を切り裂くような推進器の低い震動音も遠い海風の音に溶けて完全に消え去っていた。
ガラクタで築き上げた城塞の内部を満たしているのは、魔法の熱線によって焼け焦げた金属の鋭い匂いと、アルフレッドの身体の奥底から解き放たれた濃厚な発酵の香りが入り交じった、ひどく生々しい大気だ。
すべてを出し切った彼の身体は糸の切れた操り人形のように重く、俺の両腕の中にすべての体重を預けてぐったりと寄りかかっている。
俺は彼の熱を持った背中をしっかりと抱きとめながら、ゆっくりと膝を折り曲げて、焼け残った鉄板の床へと二人で一緒に座り込んだ。
彼の呼吸は浅く速く、喉の奥からひゅうひゅうと擦れるような音を立てて大気を吸い込み、そして乱れた吐息を俺の首筋へと吹きかけてくる。
大きすぎる作業着の襟元から覗く白い肌には、玉のような汗がびっしりと浮かび上がり、差し込む光を反射して濡れたような艶を放っていた。
魔法によって清浄に保たれていたかつての彼の肌には決して存在しなかった、生命が燃焼した結果としての塩分と水分の結晶だ。
俺は油と泥で黒く汚れた手のひらで、彼の額に張り付いた銀色の前髪を優しく後ろへと撫でつけた。
指先を通して伝わってくる彼の体温は火のように熱く、その内側で心臓が激しく血液を送り出している力強い拍動が、衣服越しに俺の胸へと直接響いてくる。
『よくやった』
『本当に、よくやったよ』
俺は彼を安心させるように、その細く震える背中を一定のリズムで優しく叩き続けた。
周囲には魔法の障壁を砕かれた装甲兵たちの残骸や、吹き飛んだ壁の破片が散乱し、まだあちこちで小さな炎がくすぶっている。
しかし、俺たちを包む空間には、戦いの後の凄惨さよりも、奇妙なほど穏やかで満ち足りた静寂が漂っていた。
アルフレッドは俺の胸元に顔を埋めたまま、ゆっくりと深く息を吸い込み、自分の身体が作り出した空気を肺の奥深くまで取り込んでいく。
彼の内臓に蓄積されていた膨大な圧力は完全に解放され、膨らんでいた下腹部はすっきりと平坦な状態に戻っている。
限界まで張り詰めていた腹部の筋肉が弛緩し、その柔らかな重みが俺の太ももの上に乗る感触がはっきりとわかる。
「私は……やってしまったのだな」
アルフレッドが顔を上げ、掠れた声でぽつりとつぶやいた。
「ああ、お前がやったんだ。あの綺麗な案山子どもを、お前の腹の底の声だけで追い払ったんだよ」
俺が微笑みながら答えると、彼は自らの両手を目の前に掲げ、泥と煤で真っ黒に汚れた手のひらをじっと見つめた。
「彼らの前で、あのように醜く、恐ろしいほどの音を立てて……自分の身体の中にある不浄をすべてぶちまけてしまった。聖域の記録には、最も恥知らずで汚らわしい罪人として私の名が刻まれるだろう」
彼の声は震えていたが、そこにあるのは後悔や絶望の響きではなかった。
むしろ、重い鎖を引きちぎり、二度と後戻りのできない一線を越えた者だけが持つ、清々しいほどの潔さが滲んでいる。
「恥知らずで大いに結構だ。腹の音を隠して冷たい作り物として生きるより、泥だらけで臭い息を吐きながら笑う方が、よっぽど人間らしいさ」
俺は彼の手首を掴み、その真っ黒に汚れた指先を俺の頬に押し当てた。
ざらついた土の感触と、彼自身の汗の匂いが俺の鼻腔をくすぐり、この世界に確かな命が息づいていることを証明してくれる。
アルフレッドの翡翠色の瞳から、大粒の涙がとめどなく溢れ出し、煤で汚れた頬に二筋の白い道を作りながら流れ落ちていった。
それは悲しみの涙でも、恐怖の涙でもなく、偽りの自分を完全に殺し尽くした後に訪れる、純粋な解脱の涙だった。
彼は俺の頬に触れていた手を滑らせ、俺の首に両腕を回して力強く抱きついてきた。
彼自身の身体から発せられる粗悪な石鹸の匂い、汗の酸味、そしてわずかに残る発酵の香ばしさが、俺の感覚を優しく包み込む。
俺たちは言葉を交わすことなく、ただ互いの体温と匂いを確かめ合うように、廃墟の中心で長く強く抱きしめ合った。
上空の都市と地上の泥を隔てていた巨大な虚飾の壁は、彼が放った生々しい生命の響きによって、音を立てて完全に崩れ去ったのだ。
もはや彼を縛るものは何一つなく、ただ1人の体温を持った青年として、この泥の島に新しい産声を上げた瞬間だった。




