第7話 陶器(とうき)
「ああ、なんてこと……。ガイル……」
マリアが悲痛な声を上げる。彼女もまた、限界を超えていた。肌の変色は首元まで達し、立っているのが不思議なほどだ。魔王は興味なさそうに、再び指を上げた。次の一撃が来る。さっきよりも巨大な魔力の波動だ。
「マリア、逃げて!結界を張るんだ!」
僕の叫びに、マリアは首を振った。彼女は僕の前に立ち、枯れ木のような両手を広げた。
「聖なる光よ、我が命を糧として……絶対の守りを!」
まばゆい光が、ドーム状になって僕だけを包み込む。直後、魔王の放った黒い雷が直撃した。
バチバチバチッ!
結界がきしむ。マリアの口から、鮮血が迸る。自分の身を守るための結界じゃない。僕一人を守るためだけに、彼女は全ての魔力を、生命力を注ぎ込んでいるのだ。
「あぁぁッ……!」
黒い雷が結界を打つたび、マリアの白い肌に亀裂が走り、ひび割れた陶器のように砕けていく。
「マリア!やめてくれ、僕なんかのために!」
「......あなただからよ……!」
マリアが叫んだ。振り返った彼女の顔は、老婆のように皺が寄り、生気が失われていた。けれど、その瞳だけは慈愛に満ちていた。
「あなたは……私たちの希望なの。あなたが無事でいてくれないと、何の意味もない」
「意味ってなんだよ!みんなで生きて帰るんだろ!?」
「ごめんなさい……その約束、守れそうにないわ」
結界が砕け散ると同時に、マリアの体が光の粒子となって崩れ始めた。魔力枯渇による消滅。
「元気でね……どうか、幸せに……」
最期の言葉を残し、聖女の衣だけが床に落ちた。ガイルも、マリアも。あっという間にいなくなってしまった。
僕を守って。僕なんかを庇って。




