第19話 異質(いしつ)
(……ああ、そうか)
僕の中で、何かが完全に冷え切った。激情はない。ただ、絶対的な殺意だけが、氷河のように静かに広がっていく。
「褒美として、其の方に『救国の英雄』の称号と、公爵の地位を与える!これからは我が国の守護者として、その力を振るうがよい!」
国王が高らかに宣言する。僕はアレンの遺骨をそっと床に置き、深く、深く跪いた。顔を上げ、まるで聖人のような、一点の曇りもない微笑みを浮かべる。
「……身に余る光栄です。陛下」
僕は恭順の意を示し、頭を垂れる。
その背中にはもう、かつての仲間たちの温かい視線はない。あるのは、誰にも見えない、どす黒く重たい『復讐』という名の荷物だけ。
(ありがたくもらうよ。この地位も、権力も、信頼も)
僕は心の内で、死んだ親友に語りかける。
アレン、君は僕に「幸せになってくれ」と言ったね。
ごめん。その約束は守れそうにない。
僕はもう、ただ守られるだけの荷物持ちじゃないんだ。
(この国を、内側から地獄に変えてやる。
僕を英雄と崇め、すり寄ってくるこいつらを、絶頂から絶望へ叩き落としてやる。
お前たちがアレンにしたことの全てを、骨の髄まで後悔させてやる)
拍手喝采の中、新たな英雄は静かに笑った。その瞳の奥で、魔王すら葬った黄金の光が、今度はこの国を食らい尽くすための暗い炎となって揺らめいていた。
物語は終わらない。
「荷物持ち」から「勇者」に。
そしてこれから「鬼」となる男による、腐敗した国への葬送が、今ここから始まるのだ。
(了)




